表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室の定義  作者: 翠凛
1/5

絶対オアシス

私の大好きな図書室にありがちな少女漫画ちっく展開を書いてみました。どこにでもあるような少女漫画。よければどうぞ!

 私が図書室を定義するならば、オアシスである。



「あ…と、ちょっ…と…無理か……」

 放課後は図書室に入り浸るのが日課な私。ただいま、取りたい本に手が届かなくて、苦戦中です。最近読んだ少女漫画には、『俺がとってあげるよ』って、後ろからイケメンくんが登場してくれていたけれど……まあ現実にそんなことはないわけで。

「よ…っと」

 結局は、踏み台という優れものを使用するのです。いつもありがとう、踏み台さん。

 本を取り、踏み台を元の位置に戻していると、背後に気配を感じた。振り返れば、香りで何となく予想していた人物が、これまた予想通りに腕を組み、馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。

「何してるんですか」

「んー?人間観察?」

「……見てたんなら取ってくれたらよかったのに」

「意地になって手を伸ばすチビっ子は面白い観察対象だからな、許せ」

「チビデドウモスミマセンネ」

 棒読み状態で言葉を返す。どうせ私はチビですよーチビですよー。 

 本を胸に抱いたまま、身長差が十分にある彼を見上げる。馬鹿にしたような態度なのに、なぜか目がそうは見えない。どうして、なんで、なんて考えていつも堂々巡り。だから、ズルい。

 口を尖らせてみれば、なに?と優しく微笑む。ほらね。やっぱりズルい。

「何か言いたげな顔だな?」

 私に合わせるように、腰を折って目線を合わせる彼。

「言ってみろよ、雨宮」

 私より随分と背が高い彼。

「無視すんなよ」

 背伸びしたって本みたいに届かない彼。

「仮にも俺は」

 そんな彼は。

「担任なんだが?」

――私の先生。




「言いたいことがあるかないかと聞かれればありますけど、ありすぎて何をお聞きしたらいいのかわかりません。ということで、とりあえず離れてください」

 一気に言葉を吐いて目を合わせないまま、近づいた彼の体を軽く押す。すると、なぜか目の前にひらひらと手がでてきた。

「……なんですかその手は」

 背中にある本棚に身を寄せるように、一歩下がって見上げてみれば、彼はにやにやしていて余計に気味が悪い。

「その顔やめてください。吐く」

「ひどいなー」

「…え、ちょ」

 ぺしっと叩いたはずの手に、逆に私の手を掴まれて体が硬直する。なに、これ。

「俺、誕生日なんだよ今日」

 この状況に関係あるとは思えない言葉にさらに頭が混乱する。

「誕生日って知ってた?」

「……知りませんよそんなの。おめでとうございます」

――うそ、本当は知ってた。

「うん、ありがとう。でさ、子供の時は色々欲しかったものがあったんだけど、大人になってから物欲がなくなったんだよ」

「……ソウデスカ」

 この人何を言ってるのかわかりません。

「でも、久しぶりに欲しいものができちゃって。だからプレゼント。誕生日プレゼント」

「……そこでだからに繋がるのがとても謎なんですけど」

 掴まれたままの手と彼の笑顔を何度見ても、やっぱり思考が追い付かない。この人は、日本語を使えないのか?なに、この状況は。悶々とした気持ちで、雲がかった思考を振り切るように手をぶんぶんと振っても、解放してもらえない。

「えーと…先生、大丈夫ですか?」

 手から顔へと目をゆっくり動かしてみれば、相変わらず彼はニコニコしている。

「雨宮、プレゼント」

 そしてなぜそればかり言う?

「あのー先生、そういうのは立場上よくないですよね?」

「立場って?」

 彼は楽しそうに言葉を返す。なんでそんなに楽しそうなんですか。

「いや、だから、私たちは教師と生徒であって」

「雨宮、プレゼント」

「……」

 おいこら人の話を聞け。

「はあー、もう、先生、いい加減に……、っ!?」

 感情のままそれなりの声の大きさで言葉を吐きかけた私は最後まで言葉を言えないまま硬直した。

「ここ、図書室」

「……っ」

 その一言でハッとなると同時に、唇に一瞬触れた彼の指に顔が熱くなる。その指が離れても心臓はうるさいまま。顔を隠すように俯けば、クスクスと笑い声が落ちてきて、思考が熱くなる。むかつく、むかつく、大人だからってずるい。

「分かりました、分かりましたから、プレゼント何がいいんですかっ」

 手に持っていた本を、さらに胸元でぎゅっと抱え込んで、ムカつく顔面にぶつけるように言葉を吐く。心臓の音が煩い。でも、この状況を早く何とかしたい。じっと目を見つめたまま、早く早くと掴まれた手を揺らせば、ふわりと、それはもう幸せそうにふわりと笑うから。

――彼の唇が私の頬に触れたことに気付くのに時間がかかった。


「プレゼント、どうも。今年はこれで我慢するよ、お前の言う通り、立場上、な。とりあえず--」

「……え?」

 耳にかかったその息に思考が止まる。……なんで?なんと?は?


 持っていた本が、自分の足を直撃したとか、彼がそのまま私の髪にその唇でもう一度熱を残して図書室を出て行ったとか、そんなことはどうでもよくて。とにかく今の私は。


『返事は1週間後のお前の誕生日な?』


 彼が置いていったその言葉に呆けていた。



 もしかしたら、図書室は危険地帯と定義すべきかもしれない。



fin?


読んでいただきありがとうございました。先生、やめましょうね、こんなことー(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ