最初の客人 -10-08-
わずか数秒でメンシスの真ん中に到着する。
「カナデさん。ここどこですか?」
「一応広場だけど……いちいち門で身分証明するのもめんどくさいかなと思って」
「怒られても知りませんよ?」
魔法灯の光の照らす街を歩いてゆく。
この街は船以外での他国との交流がないため馬車はさほど発達していないらしい。
同じく神殿へ向かう通行人を躱しながら門へとたどり着く。
「どうやって入ろうか?」
「いつもはエルバートさんがいるので普通に入ってましたけど」
入口で警備している騎士に話しかける。
「すみません。ステラ教皇と約束があるので通してもらえますか?」
「参拝客は並んでくれ」
「だから約束があるんだって」
「客が来るなどとは聞いていない」
「それは貴方が下っ端だからじゃ……」
「なんだと!?」
「もう通してもらわなくてもいいんでエルバートさんを呼んでください」
「なぜ副隊長を呼ばねばならん」
うわーこの人はなし通じねー……。
「もういいや。シオン、アスカ、イーリス。ステラの執務室まで転移するから」
「最初からそうすればよかったんじゃありませんか?」
「まあ、カナデさん大臣クラスだから下っ端には全く関係ない話ですよ」
アスカが地味に暴言を吐いていく。
怒り?で震えている騎士は放っておいて、とりあえず転移する。
「!!……まさか部屋に直接来るとは」
「正面から入ろうとしたんですが、騎士さんがまったく融通が利かなくて」
「おかしいな……どうなってるエルバート」
「一応言っておいたんですが……。まあ減給か退職かを選ばせます」
うわードンマイ。
「今回同行するヴェラとヘルガだ。この2人と、あとエルバートを含めた4人で頼む」
「侍女頭をしていますヴェラです」
「ヘルガと申します」
「わかりました。荷物は後ろにある分だけですか?」
割と大きめのトランクが7つほど重なっている。エルバートさんは自分で1つ持っているのでアレは3人分らしい。
「そうだな。まあ一週間にしては少ない方だろう」
「そうですね」
少ないらしかった。
「じゃあ今から魔法陣展開するので全部その中にお願いします。シオンたちは荷物運ぶの手伝ってあげて」
「はい」「わかりました」「了解です」
魔法陣の中の私が転移させたいものだけを制限重量まで運ぶことができる。
予想より荷物が多かったので結構ギリギリかもしれない。
たぶん女性陣は50kgもないだろうし、エルバートさん含めても400kgと少し。
私の限界量は600kgだから……。
「アスカ、そのトランク一つどれぐらい?」
「30kgはないと思いますが……25、6ぐらいはある気がします」
「うわーちょっと厳しいかも」
「一度アイテムバッグに保管するっていうのはどうでしょう?」
「なるほど。さすがシオン」
アスカの持っていたものとシオンの持っていたものをアイテムバッグに入れる。
というかどうせ部屋まで持って行かないといけないのでエルバートさんのもの以外は全てアイテムバッグに格納する。
「部屋に着いたら出しますね」
「空間系の魔法か?」
「確かそんなことをキクロさんが言ってたからそうだと思います」
全員が入ったことを確認する。
「では転移します。スペーラに着いたらまず荷物の整理などあると思うので部屋に向かいます。警護の私の部下は全員襟にこの銀の羽根をつけているので見分けるときはそれを目安にしてください」
目の前が白く塗りつぶされ、私も久しぶりに目にするスペーラの門の外へと転移した。
『ハルトさん着きました。開門してください』
『了解』
ゆっくりと門扉が開き、高層階の建物が特徴的なスペーラの街が広がる。
「ここが……想像よりも狭い街だが……この高い建物は……」
『ツバサ配置は大丈夫?』
『はい。カイトたちは既に職人区画で一般人を装ってます。こちらも、すぐ後ろに控えます』
『お願いね。A班、今から動くよ』
『了解です』
「じゃあ行きましょうか。馬車を使うほど広い街じゃないのでこのまま歩いてもらうことになりますけど」
「問題ない」
門を入ってすぐにあるのは職人区画。大通りには衣服(防具としても使えるレベル)や装飾品(もれなく魔法具)の店を中心に並んでいる。
「大通りに面しているのはこんな感じの店がメインですが、奥に入れば武器、道具などの店がたくさんあります。後程案内しますね」
「なるほど……しかし、グロリアの都よりも店が多いように思えるが」
「グロリアは住居と店舗が一体になったような構成でしたが、この街はほぼ完全に住居と店舗が分かれています。道に面する部分はほとんどが店舗になっています」
「なるほど。では住居はどのようになっているんだ?」
「店舗の2階に住居スペースを作ってる人もいますが、大体はあれらの寮に住んでますね」
街の両脇に高く建っている建造物を指さす。
「あの建物に入ってみたいな」
「お部屋はあの一番高い寮の最上階にとってあります」
「それはすばらしい」
職人区画を抜け、次のエリアへと入る。
「ここからは商業区画になります。主に食品や生活雑貨などを取り扱っています」
「ここも後で見れるか?」
「はい。街の各所には一通り案内します」
「あの正面に見える建物は?」
「アレがギルドですね」
「なるほど。そういえば此処の代表と会わなくて良かったのか?」
「ハルトとは昼食の時にでも、とりあえず慣れない街だから一度落ち着いてからの方がいいだろう、と」
「気が利くな。で、ギルドまで来たが次はどちらへ行くのだ?」
ギルドから左手に曲がると、自警団の本部と現状朝の屋台ぐらいしかやっていない市場がある。
「右手の市場ですが、まだ貿易が始まってないのであまり機能していません。左手にあるのは自警団の本部です」
「城と隣接していたりはしないのか?」
エルバートさんが質問する。
「城なんてありませんよ?」
「では議事堂のようなものがあるのか?マーレには確かそんな建物があったが」
「いえ、会議は主にギルドの2階部分にある会議室を使ってますが」
「国家の象徴となる建造物はないのか?」
「とくにないです」
驚いた様子の客人たち。
市場を右に曲がり、ヘシオドス寮に到着する。寮の前ではA班がスーツに着替えて待機していた。
「お疲れ様です。皆さん」
「じゃあエルバートさんはこっちのカイトについて5階の部屋にどうぞ。6階以上は男子禁制なので」
「わかった」
カイトからキーを受け取ったエルバートさんは、2人と共に先に魔法陣で5階へ移動した。
「じゃあ、これがステラの部屋の鍵になるんだけど、誰に渡せばいい?」
「ヴェラに渡してくれ」
ヴェラさんに鍵を渡し、魔法陣の中へ入る。
「ここにも転移魔法陣が……」
「え、わかるの?」
「さっき見たところだからな。描けと言われれば無理だが」
私には到底無理な技能だ……。
いつも通り7階へ転移し、701号室の扉へと向かう。
「そのカギを持った状態で扉に触れれば自動で鍵が開きます。部屋の外に鍵を持ち出せば鍵がかかり、外側からは開けられなくなります」
「素晴らしいシステムだな。他の部屋も同じようになっているのか?」
「他の部屋は……何ていうべきか……個々の魔力を読み取って所有者だけ開けられる?みたいな仕組み?」
「説明の時ももっと気安くていいぞ?」
「それはなんかどうにもならないっていうか……癖みたいなもんだと思って」
扉を開き、中へ入る。
「寝室と客室が3つあります。後は洗面とバスルーム、キッチンがあります。この部屋の中の物は自由に使ってください」
「思っていたより数倍は広いぞ……それにこの景色」
リビングの窓からは街の様子や草原が見える。初めて入ったがこちら側の景色もなかなかいい。
「この街で一番いい部屋です」
「そういうのは代表が住むものではないのか?」
「いや……抽選?みたいな感じで。夜間に何かあった場合でも呼んでくれればすぐ来ますから。向かいの部屋が私の部屋なので」
「こんな景色を毎日見ているのか……」
「私の方からは海しか見えないけど……後で見に来ます?」
「是非見てみたいものだ。こんなに澄んだガラスを高層階に取り付けられる技術も素晴らしい……」
そういうもんなんだろうか?
向こうではヴェラさんがシオンに設備の使い方を聞いている。
どうやら水道というのはあまり見慣れないらしい。
「これはどうやって水を?」
「水の魔法が入った魔法珠がここにあるのでそこに軽く魔力を流せば水が出ます」
実際に触れ、水が出ることを確かめる。
「そちらの赤い魔法珠は火の魔法珠でそれに触れるとコンロに火が付きます。オーブンの横にあるものはオーブンの魔法珠です。基本的に火力はコントロールできるはずですが、こればっかりは感覚でやってもらうしかないです」
火力も水の量もシャワーの勢いも想像で補うというか、結構思い通りにコントロールできるから驚きだ。
アイテムバッグにしまっていたトランクを全て出し、各部屋に運ぶ。
「まさか私たちにまで部屋があるとは……」
ヴェラさんが驚いていた。
「侍女の皆さんは部屋が無いのが普通なの?」
「個室というのはあまりないかもしれない。こういうたくさん個室がある部屋は初めて見た」
「そうなんだ。……じゃあ、荷物の整理ができたら昼食に行きましょう」
「どんなものが食べられるか楽しみだ」




