流されるまま -01-01-
冬休みに入った12月25日。いわゆるクリスマスだが、騒がしいのはイブばかりで当日は案外静かなものである。
午前10時のリビングでくつろいでいた奏に妹が覆いかぶさるように急に抱き着く。
「おねーちゃん!GMHに興味ない?あるよね?」
「無いことはないけど……どうしたの急に」
「いやー、今日から第2陣がスタートするんだけどさー。それに合わせておねーちゃんもどうかと思って」
「やるにしてもやらないしにしてもソフトがね」
ちょうどワイドショーでその話題が出ていたのでTVを指さす。
「超人気で売り切れ続出なんでしょ?前の夜から並ぶ人もいるとか」
「そうだよ。それだけ魅力あるってことだね!」
「そう、なの?」
「ソフトの事は心配しないで!今静音お姉ちゃんが買いに行ってるから」
「だから9時ごろに出て行ったのか……。っていうかあの人受験生だよね?何やってんの?」
「三姉妹でトッププレイヤーになって崇められるのが目標らしいよ?」
「……何やってんの?」
ほんとに。
「大丈夫お姉ちゃんならいけるよ」
「その自信の出所が知りたいんだけど」
「お姉ちゃんLUCK値異常に高いからさー大丈夫だって」
「そういうもんなの?RPGとかあんまり数やってないからわからないんだけど」
「まあ最悪私がつきっきりで指導するから。VR世界はすごいよー現実と見分けつかないぐらい」
「まあ、そこまでいうならやってもいいけどさぁ……というか私に拒否権とかあったの?」
「まあ、ないよね静音お姉ちゃん」「そうね」
「いつの間に帰ってきたの!?」
「今さっき」
コートを脱ぎ、マフラーを外しながら答える。
「で、奏お姉ちゃんの分のソフト買えたの?」
「もちろん」
「10時開店で前日から並んでるような人がいるゲームをなんで9時に家を出た人間が買えるの?」
「満面の笑みで『前に入ってもいいですか?』って言ったらみんな譲ってくれたけど?」
「……自分の美貌の使い方それでいいの?」
「まあまあお姉ちゃん。とりあえずチュートリアル行ってきて」
「え?マジでやるの?」
「当たり前じゃない何のために買って来たのよ」
「だよねー……」
熱心に素晴らしさを語る妹と姉に急かされて、自分の部屋に向かう。
どこに行っても人を集める容姿だったが、それはVR世界でも健在のようで、VR世界の世界でもかなり祭り上げられている。
一般人(自称)の私にとってはとても理解できない話だ。
仮想空間体感用ハード・ネクストギアを引っ張り出す。買ってからほとんど使っていなかったので若干埃っぽい。
とりあえず、顔に当たる部分を中心に近くにあったティッシュでほこりを拭う。しばらく放置だったせいかバッテリーが全くないので充電器を繋ぎ、一度起動させてみる。
どうやらインターネットにはちゃんと接続されているようだ。
今しがた受け取ったカセットを入れ、ベッドの上に寝転がり、電源をつける。
意識が飲まれるような感覚に襲われ、目の前が黒く塗りつぶされる。
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『ようこそ剣と魔法の庭城へ!』