緊急招集 -06-01-
「ななな…」
西暦20××年1月1日。いやもうこの暦ではない。リービア歴35年初春月1日。
VRMMO Gladius et Magia Hortus に閉じ込められた、レクスリービア一千万の人々とその時偶然ログインしていた約50万人のプレイヤー。
もともとGMHというゲームはこのレスクリービアを基に作られており、その目的はこの世界の救済。
この世界と私たちの世界は密接に関係しているらしく、こちらの世界が滅ぶと、私たちの世界も滅ぶらしい。
周りを見渡すとあちらこちらに私と同じようにおろおろと周りを見渡している異世界の旅人の姿が見える。
昨日までNPCとして寡黙を貫いていた住人達は、自由に喋り、動き、飲み、食い、騒ぎ、笑っている。彼らもまた同じ人間なのである。
しかし彼らが私たちと違うところは、世界が変わったことに気付いていないことだ。
この世界は彼らの世界をそっくりそのまま模したものなので当たり前と言えば当たり前なのだが…。
『ベル…いえカナデさん。よかったフレンドコールは使えるみたいですね』
「シオンもこっちに来ちゃってたかー…」
『えっと。どこかでいったん落ちあいませんか?』
「わかった。王都の北門で逢おう」
さっそく王都の北門へと歩き出す。賑やかな大通りをまっすぐ進み、たどり着いた先には、銀髪の少女が立っていた。
「これはどういうことでしょうか…」
「とりあえずメニュー系統は使えるみたいだけど」
「なんか代表みたいなのに選ばれてましたけど」
「自治領とか言ってたけど、あたしたちで一つの国を運営しろってこと?」
「さあ?どうなんでしょう」
「因みに私役職4つ持ってるんだけど…」
「私は2つでした。4つってことは全部の組織の幹部ですか…さすがカナデさん」
「シオンに奏先輩って呼ばれるの結構好きなんだけどなー」
「こちらでは私の方が先輩ですから」
「そうだっけ?シオンの役職は?」
おそらく自分の称号を確認しながら読み上げるシオン。ステータスのフレームは他人には見えないのかな?
「自警団7番隊副隊長と魔法研究機関第2研究室室長ですね」
「7番隊の隊長は私だから」
「そうなんですか?知ってる人でよかったです」
『自治領スペーラより、この世界のプレイヤーへ
僕はハルト。moriというハンドルネームでプレイしていた。
何故かこの自治領の代表を任された。
今代表権限ですべてのプレイヤー諸君に話しかけている。
とりあえず現状を纏めたいと思うので何とか全員このスペーラの街へ集まってくれ。
特に代表に選ばれている人や役職もちの人は急いでね。
スペーラは「始まりの村」があったところにある。
残念ながらスペーラに行ったことがないと思うので転移門は使えない。
王都からだと徒歩で3日ほどかかると思うが頑張ってくれ。
こちらには運営によって食料や住居などが用意されている。
もう一度言おう。
冒険者たち 速やかに集まれ。期限は5日』
脳内に響く声が止まる。
「…行きましょうか」
「徒歩3日って…そんなにかかったっけ?」
「《神速》つかえば短縮できそうですね」
「まあ第一の問題は」
カナデが門の前で騎士と揉める冒険者たちを見る。
「あそこをどうやって通るかですか」
「私たちは《隠密》使うからいいとして、あいつらをどうするか…」
「風の超級魔法に催眠の風ってありましたよね?」
「なるほど。でも周りのアイツらまで寝かしたら…」
「カナデさんも代表権限使えるんじゃ?」
ステータス画面を確かめると、冒険者ギルドに所属するもの限定で1対多数のコールが使えるというものだった。
「多分行けるわ。魔法の準備しといて」
『王都北門で足止め食らってる冒険者に告ぐ
私はギルド副代表のカナデ
私たちが騎士を足止めするから3つ数えたら転移門でプリマに飛んで
行くよ?3
2
1!』
冒険者たちは一斉に反転し、街の中央にある転移門へと走った。
シオンの放った甘い風は騎士たちを覆い、眠りの世界へと導く。
「さあ。行くよ」
「はい」
《神速》を使い門を抜け、一気に駆け抜ける。みるみる王都の門が小さくなる。
横を同じ速さで走るシオンは少しきつそうだ。
少しスピードを落とし、シオンに合わせる。
「ごめん。速かった?」
「カナデさん私の倍AGIあるんですから加減してください」
「一旦休む?どうせもう追いつかれないだろうし」
「お願いします」
街道から逸れ、木陰に入る2人。シオンがマップを開き可視化する。
「結構スピード出てたんでしょうか?私ペースで森まで10分ってところです」
「ホントに3日もかかるの?」
「あくまで徒歩ですから。で、森抜けますか?」
「ビリードの転移門使ってもいいんだけどもう騎士が配備されてるよね…」
「でしょうね」
「一か八か時空魔法使ってみる?」
「なんですかその危ない賭け」
「転移の説明によるとだいたい4人ぐらい行けるらしい。私の記憶にあるところだけだけど」
「腕とか脚だけバラけたりしませんよね?」
「怖いこと言わないで」
「《鷹の目》の範囲内には敵はいませんし、やってみますか?」
「バラけたらごめんね?」
「怖いこと言わないでください」
足元に今まで使ってきた魔法とは違う複雑な幾何学模様が展開され、光を発し、目の前を白く塗りつぶした。




