私の意志を君に -27-06-
「カナデさん、つきましたよ」
「ん……」
カナデの意識はない。
既に残りの100秒も経過し、気絶してしまっている。
体格に大きな差はないが、意識のない人一人を支えるのは中々難しく、試行錯誤した結果おんぶ、という形に落ち着いた。
自分よりも大きい胸部のふくらみを感じるが、とにかくカナデを部屋まで運ぶ。
「カナデさん、体拭きますね」
カナデの服を脱がす。
最近特に抵抗もなくなってきている自分が怖い。
まだ、作戦開始までいくらかの時間はある。着替えさせてベッドに寝かせるぐらいの事はできるはずだ。
あれだけの戦闘を熟したというのに、カナデの肌には傷はない。
もしかしたらもう治ってしまったのかもしれないが、そもそもけがを負った様子はなかった。
「でも、あんな無茶はやめてくださいね」
「ん……」
カナデの汗を拭い、着替えさせてからベッドに寝かす。
このまま一緒に寝てしまおうかとも思ったが、さすがにそれはできない。
全く同じことができるとはいえ、彼女の代わりになることができるだろうか。
こんなにも人を魅了する性質が自分にはあるだろうか。
余計な考えを振り払うために、頭を振り立ち上がる。
しかし、立ち去ろうとしたとき、シオンの手を引く者があった。
「シオン」
「か、カナデさん!?そんな、大丈夫なんですか?」
「いや、ダメそう。くらくらする」
「じゃあ、ちゃんと寝てて下さい」
「え?うん……」
おとなしく布団に戻る――と思われたがその手を強くひかれた。
シオンもベッドの上に倒れ込んでしまう。
「この後どうするの?」
「ニージェルの解放作戦参加してきます。カナデさんのおかげでかなり時間短縮できましたから、決行は今日の15時です」
「まだ1時間あるじゃない」
カナデがゆっくりとたちあがろうとする。
「だ、ダメですよ。意識は戻ったかもしれませんが、無理は」
「ふふ、大丈夫」
カナデは立ち上がると。髪を結いあげた。
「戦いに行くわけじゃないから」
「え?」
キッチンへとゆっくり歩いていくと湯を沸かし始める。
「お茶なら私が……」
「大丈夫」
カナデがポットに湯を注ぐ。
「私がしたいの」
二つのカップと一緒にポットをテーブルまで運ぶ。
皿の上にクッキーが何枚か置いてある。
「……ありがとうございます」
「シオン、一回落ち着いて」
「え?」
「私がみっともないところ見せちゃったから焦ってるんじゃないの?」
「そんなことは……ただ、私もカナデさんのように陣頭で戦わなければと」
「そんなことしなくていいよ」
カナデがお茶を一口含んで続ける。
「私がさっきああしたのは、シオンが控えてくれてたから」
「そんな……」
「同じことをしろとはいはないけど、私の代わりならシオンに十分勤まる」
「いえ、そんなことは!」
「大丈夫。いつも通りしてたら。焦らなくていいから」
「でも」
「失敗しようが成功しようが、誰が何と言おうと私の隣はシオン。だからあなたに全部任せる」
「ありがとうございます」
「まあ、失敗するなんて微塵も思っていないけどね」
「え?」
カナデが不意に立ち上がると向かいのソファに座るこちらまであるき、頬に手を添えた。
「私は行けないみたいだから、よろしくね」
そういうと、こちらの唇に軽く唇をふれさせて意識を失った。
意図してやったのか、ただ倒れただけなのか。
そもそも、この状態は正気なのか……色々と考えることはあったがとりあえず、カナデを抱え上げベッドに寝かせる。
顔が熱い。
気を晴らすために、別の事考えようとするが無理だ。
一瞬だが触れたあの感覚が残っている。
「き、切り替えましょう。さあ、手早く終えてカナデさんに褒めてもらうんです!」
カップとポットを片付け、もう一度カナデの寝顔を拝んでからカナデの部屋を出た。
時刻は14時56分。急いで戦場へと向かった。




