紅龍ノ試練 -27-03-
スズネを先頭にまっすぐ神殿へと進む。
見た感じよりも実際の距離が遠く、思ったより時間もかかったが、それほど強い魔物も出ず順調に進んでいた。
「もうそろそろでしょうか」
「そうね。急がないと」
「そうですね。しかし、龍もいないというのに誰が女神を選ぶのでしょうか」
「そうね……あれは?守護者?」
「シズネさん、ここは我々が」
隊員たちが前に出て剣を抜いた瞬間、北の方角から黒と紅の塊が突っ込んできた。
「何事?」
「敵襲ですか?」
「いえ、どうやら……龍です」
「ずいぶん早いわね」
土煙が上がる中から現れたのは星影。
そして、その後ろにはいまだにダウンしている紅の髪の女がいる。
「予想通り、若手で一番強かったこれが選ばれたから、引っ掴んで連れてきたの。カナデから急げって言われてたし、北上して海の迂回して来たんだけど……ちょうどいいタイミングみたいね」
「そうですね、ありがとうございます」
女――というか龍がゆっくりと立ち上がると星影に詰め寄る。
「ちょっと、覇龍さん!もっと安全に着地してくださいよ!」
「ん?」
星影が威圧を込めた目で振り返る。
「……ナンデモナイデス」
「じゃあ、私は帰るわね。カナデに冥府の調子も見てきて欲しいって言われているし」
「お疲れ様、がんばってね」
星影が転移で消えていくのを見送ると、シズネが前に出る。
「それじゃあ、試練行きましょうか……あれ?そういえば守護者は?」
「どうやら、龍の落下に巻き込まれて塵になったようです」
隊員の1人が、残骸に成り果てた守護者を指さして言う。
「それじゃあ、神殿に行こうか」
「そうですね。まあ外観を見る限りは大丈夫でしょうけど」
「あ、待ってください!私も行きます!」
龍を連れて神殿へと入る。
多少埃が積もってはいるが、機能的な物は問題ないだろう。
「ここは海が近いですし、船でのアクセスの方が便利でしょうか」
「ああ、スタンプラリーの話?まあ、一般人にはそうじゃないかしら」
「それで、試練というのは何をすれば?」
首をかしげる紅の龍。
「用はあなたが認めるかどうかだけど……」
「戦うんですか?」
「一応、様式ではそうなんじゃ?じゃあ鍵使うけど」
シズネが鍵を取り出す。
「それが龍の峰への鍵ですか」
「そうそう」
空を切った瞬間に、目の前の風景が変わる。
「すごいですねー」
「それではさっそく」
スズネが銃を構える。
「わかりました」
彼女は龍の姿を取る。
小柄な少女だった人間時の外見とは違い、その姿は立派なもので。
その体は多少細身ではあるが美しい紅の鱗に包まれていた。
「爆龍・無名参ります!」
「返り討ちです」
勢いよく、突進。
ただの突進ではなく、爆発を伴った突進。
スズネは躱したが、空気が弾け強く振動する。
「シズネ、少し下がらないと色々飛んでくるわ」
「元気だね、あの子……」
「まあ、私たちと違って若いし……」
スズネは躱し続けるが、龍の方も攻撃が止まることはない。
爪、牙、尾まで使って次々と攻撃を繰り出す。
そして、そのすべてに爆発が伴う。
「あ、スズネが攻撃に入った」
スズネは銃口から弾を撃ち出す。
命中はしているがダメージが通っている気配はない。
「やっぱり鱗に銃はきついのかしら」
「そうでもないみたいよ?」
弾を入れ替えたスズネが放った一発は、龍の額の鱗を粉砕する。
「痛いです!」
「貫通は難しいですか―――ですがこれならやりようはあります」
次々に体に弾を撃ちこんでいく。
大したダメージではなさそうだが……
「あれは……」
「どうしたの?彼女不利そうだけど」
「いや、たぶんもうスズネの勝だよ」
「どうして?」
「魔法弾あれだけ埋め込まれたら―――」
スズネがよく狙いを定めて撃ちこむ。
その弾丸は真っ直ぐ龍の直上まで上がり、炸裂した。
「―――ッ!?なんですかこれ!?魔力!?」
「はい、そうです。そして、これがふれることで、貴女の身体に埋まっている魔法弾が発動します」
「!?」
次の瞬間、体のあらゆるところで魔法陣が開き、様々な属性の魔法が一斉に体の芯に叩き込まれた。
「――――――――――――!??!?」
煙を上げながら倒れるのを見てスズネが歩み寄る。
「私の勝でいいですか華炎」
「はい、ペリスト様!ですが、ヒトって強いんですね!」
「いいですか、華炎。私たちは特別です。間違っても適当な人間に勝負挑んではダメですよ」
「わかりました!」
「あなた、ボロボロでよくそんな会話できるわね」
「あ、水龍さん。初めまして」
「……元気ね、この子」
「それさっき私が言ったわ」




