紅一点 -26-05-
「さーて、ここがグリティア領かー」
後ろの隊員たちが息を切らせているにもかかわらず、余裕の表情のオトハが門を見上げる。
「オトハ、なんなの、その余裕」
「あー、元気だね、光の女神さん」
「ゼリ……さんも補助魔法有とは言え私についてくるなんて伊達じゃないね」
「まあ、君や君のお姉さんたちには勝てる気しないけど、僕はこれでも魔王に次ぐ戦闘能力の持主なんだよ?」
「そうなんだ……って、なに?」
オトハへと念話が入る。
ゼリは一瞬理解できずに停止したがすぐに理解する。
「おっけー、私たちは今着いたところだから。すぐだね、うん。――――りょーかい、座標はルイにも送っておいて―――うん、ありがと、おねーちゃん!」
「カナデさん?」
「うん。イラムとアルガンディの方は終了したって」
「はやいね……ちなみにどうやって?」
「イラムの方は、変装した意味もなくイラムさん?が突っ込んできたからエイダイが叩き潰したって。それで和解」
「和解……?」
ルイが困惑する。
それが和解と言えるかどうかと言えば、おそらく違うと思う。
「で、アルガンディの方は偶然、魔王直属の将が2人来てたらしくて」
「それは大変だね」
「2人瞬殺して、笑顔で脅迫して和解」
「………いや、脅迫って言ったし」
「細かいことはいいんだよ。ささっと、終わらせよう」
「あ、ちょっと、まってオトハ!」
オトハは先行し、門番に三通の封書を手渡す。
ゼリ、マクロファー、ハルトからの物だ。
封書の印を確認した兵は大慌てで領主の元へと走っていった。
「揉めるよりも先に通してしまえばこっちの物だね」
「酷い自己理論ね」
「あ、戻ってきたようだね。あれは……側近のフィーフィーかな?」
女性が一人駆けて来る。
そして、オトハ達を一瞥すると、ついてくるように告げた。
あまり大きくはない街だがそれなりに整備はされていた。飲めそうな井戸水が存在するだけ他の街よりはマシかもしれなかった。
「さて、彼女が動いてくれるかな……」
「女の人なの?」
「うん、僕ら……って言ったらダメか、領主の中で唯一の女性だね」
「へぇ……」
なんとかゼリの存在がバレる前に領主館へとたどり着き、中へ入ることに成功。
そして、通された広間には、大きめの椅子に気怠そうに座った女性が待っていた。
「あ、来たんだ」
「初めまして、手紙呼んでくれました?」
「ん、一応、よんだけど……んー、わたしはわたしの領地で手一杯だから手伝えないよ……まあ、魔王サマに言われても手伝う気はないんだけど」
ふあ、と欠伸をするグリティア。
「まあ、それならそれでいいんだけど」
「別に、何かするつもりはないからほっといてくれていいよ、あれだったら、契約書にサインでもするけど」
「グ、グリティア様!?さすがにそれは!?」
「フィー、うるさい。というか、来てるなら早く挨拶しなよ、ゼリ」
「バレてたか。流石、グリティア」
オトハの後ろに控えていたゼリが帽子と眼鏡を脱ぎ、一時的に変えていた髪の色を元に戻す。
「で、どうだろう。僕の味方になってくれるかい?」
「わたし、できればこれ以上面倒なことはしてたくないんだけど」
「言うと思ってたよ。でも、君ほどの将を領主程度で放っておくのは惜しい。魔王はそんなこともわかっていないようだが」
「さすがにクピディタスに負けるようなことはないけど、わたし、そんなに強くないよ」
「本気で怒った時にイラムを半殺しにしたって聞いたけど」
「嘘嘘、そんなことなかったよ」
再び欠伸。ゼリには興味を示しているようだが、会話の内容は一向に進まない。
「それで、話を戻すけど……クピディタスは討伐、イラムは封印、マクロファーとは同盟、アルガンディは降伏したけど―――――君はどうするかな?」
「そんなの、同盟にするしかないじゃない?」
「そうか、なら一つ頼みたいことが」
「なに?」
「この後、僕は女神の力を借りてリビードを制圧し、ニージェルを落とす――」
「戦争なら手伝わないよ?魔王の命令でウチからも何人か死んでるし」
「マクロファーを宰相に置き、僕は魔王になる。主都はデヴァ―スになると思う。その後だよ、君に頼みたいのは――」
「戦後処理?」
「いや、どうか僕の妃となってくれないだろうか」
「――――――え?」
「は?」
「「「「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」」」」
ゼリ以外が同時に驚いた。
こんなサプライズはオトハ達も聞かされていない。
『え!?ちょっと、何これ!?ルイ、聞いてた!?』
『聞いてないよ!え?!何しに来たのこの人!?』
『うわー……録画してたんだけど。どうしよう』
『オトハ……いつの間に動画撮影の用カメラなんか……』
まんざらでもないのか赤く染まるグリティアと、その隣で慌てるフィーフィー。
後ろにある扉の外からも謎の叫び声が聞こえたのだが、
「ちょ、ちょっとまって、私、領主だから、領地から離れられないし」
「気にしないでいい、ずいぶん住民も減ったし一度再編成をすることになると思う」
「え?え?E?本気なの?」
「本気だよ?」
「ちょっと、ちょっと、待って!?」
「待ってるけど」
現実を再認識したグリティアが途端に焦り始める。
どうやら驚きすぎてしっかりと覚醒した様だ。
「ググググ、グリティア様、落ち着いて、さあ、誓いのキスを!」
「フィーフィー、君が落ち着きなさい。というかそれほど驚かなくてもいいのに。何度か花とかアクセサリーとか贈ったと思うけど」
「……そういうの基本受け取らないから」
「いや、僕からの荷物ぐらい通そうよ……一応君よりも立場上なんだから」
「えっと、ごめん。口挟むけど赦してね?」
終わりが見えないのでオトハが割り込む。
「とりあえず、どうするかだけ決めてもらわないと」
「え?じゃあ、とりあえず同盟で、そ、それよりもゼリ!」
「えっと……フィリス、レイファ、トモハル、アサト……それとルイ、この人らの警護を頼める?私はリビード攻略に参加しないといけないから」
「わかりました……いつまでこれを眺めてないといけないんでしょうか」
「がんばってね。じゃあ、ソニア、カナ、ソヒョン、ミチ、ヒデキ、ジンは戻り組ね。そうと決まれば、先にサインだけもらいますね。あと判」
「ん」
グリティアは適当にサインをするとフィーフィーから受け取った印璽を捺す。
「で、悪いんだけどフィーフィーさん、この5人の寝床とか用意できる?一応、ゼリの護衛ってことになるから」
「わかりました……用意させます」
グリティアは既にゼリとの話に戻っている。
「じゃあ、ルイ。後はよろしく!おねーちゃんには私が報告しとくね!あ、ゼリさんとグリティアさんには光の女神と天上神からの祝福を!」
2柱の神の証である刻印の入った紙をグリティアに押し付ける。
勢いよく外に出ていくオトハ、他のメンバーもそれに続く。
「よかったね、グリティア。女神からの祝福を得られたよ」
「まって、あのそんな、っていうかこれほんもの!?」
「足りないかい?君が欲しいなら全員から得てこようか?」
「いや、そういう事じゃなくて!?どこまで本気なの、ゼリ!」
「とりあえず、ルイ君頼めるか」
「わかりました……なんかスタンプラリーみたいですね」
グリティアの持つ紙にルイがふれると火の刻印が浮かび上がる。
紙には1番上の段のやや真ん中よりに1つ。
その下の段に1つ。一段分余裕を開けて1つの刻印が印字されている。
「これは……良い布教と神殿の運営資金集めになりそうです。シェリー、」
『はーい、商売の女神ですよ』
「少し話が―――――――ええ、2・3・4・4のシートをですね」




