3つの謀略 -26-01-
「しかし、ここからどうやって魔都ニージェルまで向かうか」
最早ためらうことなくワインを口に含みながらマクロファーが告げる。
「やっぱり、リビード領を落してしまうのは難しいですかね」
「リビードは特別魔王を信奉してるから警備もそれなりなんだよね……」
「イラムであれば私が何とか説き伏せることも可能だろう」
「僕も、グリティアならば落せる自信はあるんだけど、リビードだけは無理だね。アルガンディに関しては何とも言えない」
「ああ、奴は自分の領地からほとんど出てこないからな。ただし、奴の領内は女神信仰がかなり強かったはずだ。今は魔王によって禁じられているが、アルガンディ領をこちらに引き込めばもう一つの神殿――爆神殿アカントスまでの道はかなり短縮できるはずだ」
「先に神殿を何とかして、瘴気を抑えるというのも手か……でも、あそこの女神は不在なはずだ。君の娘みたいに保護できる立場の者がいなかったもあるが、ニージェルから近いというのも問題だ」
「女神の不在はこちらで何とかします。そうなると、アルガンディの方は僕が交渉に行きましょう」
「それがいいかな。イラムの方は?」
「私が直接赴こう。すまないがその間娘の保護を頼めるか?」
「神殿と領地の方に4番隊がいますが、そういう条件なら……アンリ」
「はい。なんですか?」
「アルブル神殿の警備を頼む。それと女神の保護」
「あそこの魔物植物系なんで辛いんですけど……」
「水系なの君とシルヴィアだけだろう……あれ、シルヴィアは?」
「ああ、今スティーリア神殿で試練を受けてます」
「そっか、じゃあ彼女も終わり次第合流で」
「わかりました。じゃあ、私はみんなに声をかけてきます」
そう言いながらアンリがその場を去っていく。
いつの間にか各隊の隊長たちも混ざって飲み食いを始めている。
「4番隊はデヴァ―スまで下げさせますけど、転移門が使えるのでそれほど問題ないかと」
「すまない。感謝する」
「イラムを攻めるとなると、問題はマンシー荒野になるけど」
「足場が悪い上に、魔物も強い。それに今は瘴気のおかげで数も多い」
「とりあえず、その点に関しては何とかなるとして……スズネ、動かせる班は?」
「1、2、3、7ですが、そのうち1班はクピディタス領の警備につけた方がいいかも知れません」
「でも、あそこほとんど人いなかったし、というか兵士以外全員餓死寸前ぐらいの状態だったけど」
「そこまで酷かったのかい?」
「そこまでの脳無しだったとは」
「そこまで戦闘能力も必要ないと思うのでクロエさんと8番隊にお任せしようと思ってます。ついでに領民たちの体調改善を」
「なるほど、あそこの転移門直したっけ?」
「今キクロさんが直してます」
「じゃあ、それで行こう。アルガンディ領には1班と僕とスズネで。2、3、7はマンシー荒野方面」
「その割り振りで大丈夫かい?」
「問題ありません。聞いてたかい?みんな」
「聞いてましたけど、私たちはどういう動きになるんですか?」
カナデの質問にハルトが答える。
「マンシー荒野の中心辺りについたら7番隊はリビード寄りに移動、そこでキャンプを張ってもらいたい」
「わかりました。シオン。タクミさんとロブさんに話をしに行ってくるね」
「わかりましたここはお任せを」
女神の衣装に身を包んだ2人の会話にマクロファーが戸惑っているが、それはまた後ほど説明するとして、
「マクロファーさんと2番隊はイラム領に、ゼリさんと3番隊はグリティア領に。今回は目立つとヤバいから龍はなしで」
「わかった。ルイ、全員に連絡しといて、私はこの後天界に行って西大陸の加護の調整とかをフィロソフに押し付けて来るから」
「わかった。こっちは任せて」
「今回は動けるな、カケル剣の整備ちゃんとしとけよ」
「隊長こそ、今回ぐらいはまともな防具付けた方がいいですよ。せめて制服の上着は来てください。シャツ1枚だと防御力が心許無いです」
「大丈夫だよ、これでも半龍だぞ」
「そう言いながらこないだ訓練でオトハちゃんに腹裂かれて腸どばぁしてたじゃないですか」
「アイツは特別だろう。じゃあ、オレも隊員に伝えて来るわ。あとギルドにも連絡を。ハルト作戦はいつだ?」
「明日に決まってんじゃん。今週中に終わらすよ」
「強行すぎねーか?」
「引き延ばしても向こうが警戒するだけだよ。という事でお二人もそのつもりで」
「ああ」
「了解。ああ、紙とペン、それと何か変装道具とか服を貸してほしいんだけど」
「さすがに街に直接入るわけにはいかないですよね。スズネ、何かある?」
「レイさんとニコルさんに相談してきます。明日までには揃えておくので……ちょっと待ってくださいね」
そういうとスズネは一度こちらを離れ、男を1人連れて戻ってきた。
「すいません、簡単に測定をさせてもらいます」
男が見慣れない計測器具を持ちながらそう言う。
「ああ、構わないよ」
「問題ない」
手早く数字を測ると、手持ちのメモに書きしるし、「それでは明日までに仕上げますと言って」部屋を出て行った。
「さて、服の事はヒサカネ君に任せとけば何とかなるとして、紙とペンも僕が普段使ってるものでよければいくつかスペアもありますから差し上げますよ」
そういうとハルトはどこからか万年筆を2本取り出してそれぞれに手渡す。
「これはまた、機能的なペンですね」
「インクと紙は手持ちにある分だけ渡しておきます。羽ペン用のインクでも代用はできますが、このインクは特殊なもので、簡単には消えないような魔法がかかっています」
「なるほどね。まあこのペンについては後で詳しく聴くとして、マクロファー。ひとまずグリティアを交えてから今後の方向を決めるというのはどうだろう」
「イラムとアルガンディはどうする?」
「アルガンディはあまり前に出て来るタイプじゃないから、私たちに任せるといううだろう。イラムはどちらかと言えば武闘派だから」
「わかった。だが、あとでお前の草案についていくつか指摘したいことがあるので聞いてもらいたい」
「わかった。できれば、ハルト君とスズネ君にも付き合ってもらいたいところだが。2人とも政治に随分詳しいようだから」
「どうでしょうか」
「うちは祖父が一時期知事をやってましたから」
「そんなこともあったね。任期満了まで支持を得つづけて、飽きたから一期でやめたんだっけ」




