東西智将 -25-08-
ゼメーラが転移した先はスペーラの街のど真中。
つまりは冒険者ギルドの真ん前だったのだが、そこには出迎えが待機していた。
「やっぱり直接ここに来ると思ったよ」
「門からあまり出入りしてないせいでイメージわかなくて、それでどこへ行けば?」
「迎賓館の方に僕が案内するよ。食事とかも用意してるから。ゼメーラさんはシルバさん連れて後ろの建物の二階に寄ってくれないか。カナデさんたちがそこで待ってるから」
「わかった」
ハルトの指示に従ってゼメーラがシルバを連れてギルドの中へと入っていく。
「それで、誰に会わせたいというのだ」
「別にそちらに直接連れていくこともできなくはないんですが、西側だとどうしても魔王の監視がどこにいるかわからないですし」
先行するハルトに従って歩く。
両脇には様々な商品が並び、後ろに続く魔将たちも珍しそうに眺めている。
「東側の技術はここまで発展していたのか?」
「うちが特別なだけですよ。あ、あの建物です」
入口には槍をモチーフにしたバッジを襟につけた兵士が立っている。
「準備は?」
「問題ないです。あと隊長と副隊長が出てるので今は私が臨時で指揮を」
「わかった。でも、オトハ達すぐ戻ると思うよ」
「わかりました。それでは、お客様もどうぞ中へ」
扉が開かれ、中へ入る。
あまり大きくはないがかなり凝ったつくりの館だ。
先行したハルトがさらに扉を開けると、中には見知った顔が待っていた。
「やあ、久しぶりだねマクロファー」
「ゼリ、か。我々が直接会おうとすると悉く魔王に阻止されるからな」
「僕は基本的に自分の領地とニジェールを行ったり来たりだし、君は娘の事があるから自分の領地から出れないものね」
「へぇ……魔王ってただの馬鹿じゃなかったんだ」
「あんなのでも僕とマクロファーが組んだらやばいってことはわかってたみたいだね」
「政治的な面から見れば劣悪どころか“終わってる”としか言いようがないからな」
「そこまで言うなら何とかしようよ……まあ、わざわざこの世界まで来たからには、できることはするけどさ」
「ハルト、食事の準備ができた」
「了解、ロブ。どんどん入れちゃって」
次々と彩り豊かな料理が運び込まれてくる。
「さて、と。臣下の皆さんも適当に食べてね」
「毎度毎度すいませんね」
「いや、これぐらいは。期間が思ったより短縮できたので予算もかなり残ってますし」
「何の話だ?」
「いや、こっちの話なんで気にしないでください。まあ、お二人も適当にどうぞ」
「女神様方の着替え待ちですか」
「そうですね。特にシルバさんは長期間かび臭いところに封じられてたみたいですから、うちの子たちがめいっぱい磨いてることでしょう」
若干同情の浮かぶ顔でハルトが答える。
「なるほど、そのために連れられたのか」
「ははは、マクロファー。人質とでも思った?」
笑いながらゼリは、部下が適当に見繕って来た食事をほおばっている。
「ゼリ、貴様毒見もなしによく食えるな」
「一応同盟結んでるし、僕とマクロファーを殺したら誰が魔国を治めるんだって話になるからね」
「リビードとイラムがいるだろう」
「アイツらは阿呆だから無理だよ。まあ適当に食えば?いくら食事が必要ないと言っても数年間何も口にしてないとかだともはや生物としてどうかと思うよ?」
「うちの領内は暴走してたとはいえ神殿があったからそれなりに食うものはあった。……美味いか否かは別だが」
「へぇ、うちは魔王が処女の生き血とか送りつけてくるのも含めてまともなものはなかったよ」
「どうしてそうなる」
「さあ?最高の嗜好品だとかなんとか。流石にイカれてるね。吸血種でもないのに血なんて飲もうとは思わないよ」
背後ではゼリ臣下に促されてマクロファー臣下の魔人たちも食事をとり始めたようで時々歓声が上がっていた。
「美味と言えるものを食えたのは久々だろうな」
「だろうね……すまない、ハルト。この男に葡萄酒を貰えるか?」
「構いませんよ……っと、来たみたいだね」
背後の扉が開き、衣装を着替えたカナデ達が入ってくる。
「お待たせしました、それでは話し合いを始めましょうか」
先頭に立ったスズネがそう告げる。
「そうだね、でもとりあえず君たちも食事をするといいよ。特に樹の女神は……あれ、食べても大丈夫なのかな?」
「はい、カナデさんが精査したところ、時間凍結に近い物だったらしく身体機能はすべて正常です」
「良かったね、マクロファー」
「ああ」
「ご心配をおかけしました」
「気にするな」
「素直じゃないんだから、全く」
無愛想なマクロファーの肩をバシバシ叩きながらゼリが笑う。マクロファー勢が一瞬凍りついたが、彼の方も実は相当嬉しいらしく全く気にした様子はない。
「カナデさん、樹神殿の方は?」
「それは私よりもうちの龍に聞いてください」
「どうなってるの?」
「たぶん大丈夫でしょう。樹海もある程度後退させたし、一月ほどで作物が育つぐらいには土壌が回復するでしょうし」
「なるほど」
「樹神殿だけだとうちの領内は厳しいかな、覇龍さん」
ゼリの告げた名前にマクロファー以下が警戒を強める。
「土壌は回復するだろうけど、穢れ祓い的にはアカントス神殿を起動させないとどうにもならないでしょうね。あと、そんなに警戒しなくてもいいのに」
「ははは、我々には白銀と紫黒の龍の喧嘩のせいで大陸西側が切り離されたっていう伝説は残ってるからね」
「何やってるの?」
「若さゆえの過ちというか……まあ気にしないで」
「いや、無理だと思うよ」
「まあ、とりあえず覇天龍はカナデさんが完全に制御してるのでおきになさらず」
「大陸を滅ぼすとまで言われている竜を1人でか?」
「勝つのは難しいけど、負けないぐらいなら余裕かな?」
「そうでしょうね」
「……無茶苦茶だ」
「だからさ、この無茶苦茶な力を借りれるうちに、あの阿呆を落しときたいんだよ」
「……話を、しようか」




