水神の炎 -25-04-
「オトハ、状況は?」
「とりあえず取り囲んで呼び掛けはしてるけど全く投降する気はないみたい。さっきから魔法とか飛んできてるし」
「あー、エイダイのいるあたりが吹き飛んだのはそれか」
「とりあえずなかにいる一般市民は先に避難させたいけど、」
「それでは、オレが撹乱しようか?」
シズネの隣に座っていたエンマが立ち上がる。
「え?単騎で?」
オトハが驚きながら続ける。
「それなら私のほうがよくない?」
「オトハは相性の問題上、魔人が全員一撃で昇天する可能性が高いから遠慮してね?」
「でも、流石に辛くない?結構数いるみたいだし、くぴでぃたす?も領主の中では最弱みたいだけど一応は上から数えたほうが強いみたいだし」
「大丈夫よオトハ。誰だと思ってるの?」
「誰って、エンマだけど」
「私が普通の男に気を許すわけないでしょ」
「なんか急に大丈夫な気がしてきた!」
エンマは前に出ているエイダイに連絡をとると、大剣を担いで城塞の入り口へと向かう。
『こちらエイダイ、回りは固めてるから好きに暴れてこい』
『一応、気を付けてね?』
『エンマが突入後、3番は一般人の回収に入るからね!』
門付近に集合していた3番隊の面々がオトハの声に応じて声をあげる。
「さて、それでは行くか」
エンマが剣を前に突き出す。
そして、持ち手についている装飾の金具を回す。
ガチャリと音をたてて、大剣が縦半分に割れる。
『おいおい、なんだそれ』
『うわー、ちょうかっこいいですね!』
『確かに格好いいが、カケル、街挟んで真反対にいるはずのお前がなんで見えるんだよ』
『やべっ』
『後で説教だからな!』
エイダイの声が切れた瞬間にエンマは駆け出した。
両の手には剣が。
大双剣なるスキルをてにいれたときから徐々に準備を始め、ここまで使えるようにしたのだ。
そろそろ、試したいと思っていたところだ。
「行くぞ」
目の前を塞ぐ金属製の門を切り裂き、道をつける。
向かうべきは真っ直ぐ前。
領主館。そこに、強者がいる。
時折襲ってくる兵たちを火焔を纏った対の大剣で薙ぎ払いながら駆け抜ける。
『こちらオトハ。3番侵入成功。これより一般人の捜索に入ります』
「向こうに残って将はどれぐらいいる?」
『もうそんなに残ってなかったんじゃなかったっけ』
『全部斬ればいいのよ』
『無茶苦茶だな!』
「いや、分かりやすくていい」
炎は順調に道を切り開き、領主館の前まで辿り着く。
「貴様、イフリートだな!?」
門の前に立っていた将がそう問いかける。
「そうだが?」
『お前はアホか!何普通に答えてるんだ!?』
「総員、水属性での攻撃を行え!」
『ほら見ろ!』
「まあ、元・だが、」
エンマに向かって一斉に水やら氷やらの魔法が殺到する。
『うわぁ、お姉ちゃんアレ大丈夫かな?イフリートなら6回ぐらい死ねるダメージ入ったと思うけど』
『大丈夫大丈夫、ほら見てみなさい』
パーティーを組んでいる状態のためにエンマの体力はこちらからでも確認できる。
『『『…………減ってない?』』』
「やはり、便利になったものだ」
「一体どうなっている!?」
エンマは剣を構え直すと、魔方陣を通わせる。
「魔法剣VII mode:INFERNO」
両手の刃から真っ青な焔が吹き上がる。
「怯むな!攻撃を続けろ!」
「遅い」
真っ直ぐ敵の中央まで翔ると、剣を大きく振るう。
そこにいるすべてを蒼い焔が撫でる。
じゅっ、という音がしたかと思うと、上半身が蒸発し、下半身が凍てつき崩れる死体が出来上がった。
「こうなりたくなければ降伏しろ」
原型のない隊長格の魔人を指しながらいう。
残りの魔人たちが降伏しようとしたときに、前方から2メートル超の太った魔人が姿を表す。
『おい、状況は』
「相手が出てきた」
『一般人の避難は完了したから、好きにやってくれ』
「わかった、本気を出そう」
『というかその炎どういう事になってるの?常識じゃ考えられないんだけど』
『魔法よ、魔法。ほら、オトハ。エンマの援護頼むわよ』
『いや、援護って言っても』
物陰に隠れたままオトハはエンマの方へと視線を向ける。
「俺の名はクピディタス。よくも、俺様の領地で好き勝手やってくれたな」
「少々でてくるのが遅かったな。まあ、いい」
エンマがクピディタスに向かい進む。
「この俺様が出てきたからには、貴様らなんぞ……!?」
「何を悠長に喋ってる」
エンマが振るった剣はクピディタスが立っていた地面を抉る。
咄嗟にかわしたクピディタスはなにやら叫んでいるが、エンマは止まらなかった。
降り下ろされた剣をかわすと、剣を打ち込む。
それを余裕の笑みを浮かべながらクピディタスが受けるが、
「な!?」
クピディタスの持っていた剣の刀身は一瞬で蒸発する。
『圧倒的すぎるよ。相手が可哀想だもん……』
『ふふふ、流石ねえ』
『浸ってるところ悪いけど、恐怖で気絶してる雑魚封じるの手伝ってくれるか?』
エンマの攻撃は受けると魔人の身であっても滅ぼせる程の破壊力を秘めている。
それを悟ったクピディタスは、愛剣の二の舞にならぬよう必死で回避を続けた。
『アレを避けれるって飛んでもない身体能力だね』
『お前がそれを言うのか』
『ああ、カイト?こっちの調子?もうそろそろ終わりそうよ。エンマ単独で片付いちゃったから』
エンマの攻撃が大きく空振り、地面に突き刺さる。
にやり、とわらったクピディタスは反撃すべく、短剣をエンマに向ける。しかし、
「凍っ……!?」
「貰った!」
地面に突き刺さった左の剣から地面は凍てつき、足を取られたクピディタスを右の剣が貫いた。
「うぐ!?うごおぉぉお!?」
じわじわと胸から広がる炎によって焼き付くされていく。
「そんな馬鹿な……この、俺様が!?」
胸に孔を開けたままゆっくりと倒れる。
エンマは倒れる寸前に剣を抜くと、それを天に掲げる。
「敵将、討ち取ったり!」
エンマの勝鬨が響く。




