敵対するのは誰か -25-02-
「7番隊、全員居ますか?」
「はい。全員揃っています。カナデさんは?」
シオンが確認を取り、まとめ役の翼が返事をする。
肝心のカナデはというと、
「カナデさんは今同行する人たちを迎えに行ってますので、あ、来ましたね」
カナデとその後ろには2人の魔人。
「よし、揃ってるね?」
カナデがシオンに目配せし、シオンが頷いたことから確信する。
「あ、ゼメーラさんが同行するんですか?」
「やっほー、リゼットにモエ。私マクロファー様の臣下だから一応ね?まあ、私がいても円滑に進むかどうかはわかんないけど」
「なんだ知り合いなの?リゼット」
「はい、ゼメーラさん学園で講師とかしてくれていますし、たまに手合わせとかも。モエさんと一緒に」
「へぇー。じゃあ、とりあえず紹介するね。ゼメーラさんとゼリさんの臣下のレヴァインさん。仲良くしてあげてね?」
「それじゃあ、出発しよっか?」
ゼメーラが転移珠を握る。
「え、あのカナデさん。転移の主導権そっちに渡してしまっていいんですか?」
シオンが若干焦りながら言う。
「だって、その方が速いし。最悪、全部薙ぎ払えばいいから大丈夫。そういうわけだから、全員いつでも戦闘入れるようにね」
「わかりました」
「あれ?あんまり信用されてないね?」
「ゼメーラ、これが普通だ。いいから転移を頼む。転移装置に頼らずに転移できるとは……」
ゼメーラが魔法陣を展開し、全員が中に入ったのを確認した後、7番隊一同はマクロファー領へと飛んだ。
「うわ、久々に来たね。懐かしいね」
「……いきなり領主の館の前に出るか普通」
レヴァインが困惑しながらゼメーラを睨む。
「あはは、ごめん。転移先を思い浮かべろって言われたから……」
「ゼ、ゼメーラ様!?」
こちらを睨んでいた門兵が、ゼメーラを発見して駆け寄ってくる。
「連絡が途絶えたとマクロファー様から聞いてましたが、ご無事でしたか!」
「うん、マクロファー様はいる?」
「はい!……彼らは?」
「ん?この男はレヴァインだよ。それと、後ろのは僕の友達」
「……エルフに獣人まで混ざっているような」
「とりあえず、黙ってここは通して」
「しかし、得体のしれない輩を通すわけには……」
「彼女たちには僕が1000人いたって勝てないと思うから、おとなしく通した方が余計なことが起きなくて済むよ」
「そんな……」
ゼメーラの告白に愕然とする。
ちなみにゼメーラのレベルは150程度だが、神としての恩恵で相当強化されているカナデとはあまり勝負にはならない。カナデ個人でそれなのだから、ほぼ同等のシオン、それに次ぐアスカ・イーリスの3人の女神。少人数で高位の将二人を葬り去った8人の精鋭。
相手にできるとは思わない。
「正直マクロファー様でも無理かな……」
逡巡する兵士を見かねておくから他の兵たちが集まり始める。
「通してくれないならマクロファー様を呼んできて?」
「そんな無茶な……あ、フォラス様!」
カナデ達の背後からやってきた一人の魔人を見つけ、兵の1人が事情を説明しに走る。
「なんだゼメーラ生きてやがったのか」
「いいから通すように言ってよ」
「マクロファー様になんの用があるってんだよ」
レヴァインが前に出る。
「ゼリ様から親書を預かっている。直接渡すようにと言い使っているので、おとなしく通してもらいたい」
「あんたは勝手に通ればいいが、後ろの女どもはダメだろう」
「ダメならいいや。それより、神殿はどっち?」
「は?あんなとこ行くのか?魔王のボケが龍を狂わせちまったせいで加護が暴走してあの一体相当深い樹海になってんのに」
「へぇ……」
「それで、その樹海はどっちでしょうか?」
「街の南門出てすぐだな。アレのせいで定期的に魔物は沸くわ、加護が切れて畑は死ぬわで最悪だぜ。それに制御する女神もあの中に囚われちまってるせいで、オレたちは干渉できない……し……?」
ゼメーラが大きなため息をつき、眉間を押さえる。
その横で、カナデは楽しげに笑っている。確実によくないことを考えている顔だと思った。
「フォラス、もうこれから起こるであろうことは君のせいで、どうしようもないから、おとなしく僕とレヴァインをマクロファー様の所まで案内してくれる?」
「……話がついてから説明するつもりだったが、もう絶対止まらないぞ?」
「なるほど、西大陸の土地が死んでるのはそのせいか……」
「交渉はレヴァインさんに任せて、そっちを先に片付けましょうか」
「マクロファー様が否と言ったらどうする気なのかな?」
「その場合は戦争ですね。あ、ゼメーラさんとレヴァインさんはこちらが一言唱えるだけで封じれる状態なので裏切ろうなんて思わないでくださいね」
シオンが二枚の符を見せて言う。
「いつのまに……」
「あはは……やっぱり保険掛けられてたか」
「じゃあ、いこうか星影」
カナデの右耳のイヤリングにはまった澄んだ紫紺の石が光る。
言ううまでもなく、龍玉を加工したものだ。
シオンの右耳には黒色の石が、アスカとイーリスはそれぞれ緑とオレンジの石がはまった同型のイヤリングを身につけている。
さらにカナデの左耳には白いものがある。
「さっそくね」
カナデの呼びかけに応えて、人型を取った星影が隣に出現する。
「全員乗せていける?」
「全員は厳しいかもしれないわ」
「それでは朔夜」
「はい」
「じゃあ、適当に分かれて。レヴァインさん、あとはよろしくお願いしますね」
「何とか頑張ろう」
「それじゃあ、星影、飛んで」
「お願いします、朔夜」
「任せなさい」
「了解しました」
龍の姿へと変貌した星影と朔夜にカナデ達が飛び乗る。
「龍!?それも天龍級が二体も……まさか……」
「さあ、フォラス、時間がないよ?急いで」
龍は既に南の方角へと飛び去り、どんどん小さくなってゆく。




