天ヲ統ベシ者 -24-06-
白金に輝く鱗を持つ龍を駆り、天へと駆け上がる少女。
人の身体が耐えられる限界の速度で、雲を割り空へと駆けて行く。
その数秒後を追って飛ぶのは赤と青の龍。それぞれ、少女を乗せて先を行く光を追う。
言うまでもなく、先を行くのはオトハ。
そして、後を追うのはルイとシルヴィア。
「オトハ!」
ルイが叫ぶ。
目的地目前にして何とか追いついたらしい。
シルヴィアはもう限界なようでかなり氷龍の背の上でフラフラしている。
「なんだ、ルイ。来たんだ」
「シズネさんに止めて来いと言われました。どうせ聞かないと思うけど、今からでも帰ろう?」
「い・や・だ」
笑いながらそういうと、オトハは再び加速した。
「あー!もう!火凛追って!」
「いいケド、後ろの氷の女神さんもうふらふらだぞ?」
「シルヴィアは無理せずゆっくり来て下さい、もうどうにもならないんで帰ってもいいですけど……」
そういうとルイはオトハを追ってさらに上へと上がる。
「もう少し速くならない?」
「無茶言うな。光龍より速いのなんて、3+風龍だけだぞ」
「そこはほら、努力で」
「努力で何とかなるような差じゃないんだって」
なにやら言い争いをしながらも、オトハの後を追う。
そして、分厚い雲の層を抜けたと思うと、そこには、
「うわ、なんかすごいね」
「俺もここまで来るのは何百年かぶりだ」
雲の大地と硝子の建造物。
第一印象はそんなところだ。
「オトハは……ここより少し北か……」
「じゃあ、そっち行ってみるか……!?」
「きゃあ!?」
火龍が突然大きく横に逸れる。
そしてその場所を魔力の塊が通過し、背後にあったよくわからない柱を消し飛ばした。
「もう始まってるみたいだな」
「そうみたい」
時折、攻撃が流れてくる方向へと向かうと、ここよりもさらに上空で二頭の龍が争っているのが見える。
「光と全天龍フィロソフだ――あぶね!?」
またもや流れ弾が掠りそうになり、火龍が大きく動く。
「オトハは?」
「あっちだ」
火龍が指した鼻の先には雲の上で舞うオトハの姿がある。
相手はエルフの様な容姿の老人。
オトハは一切の容赦なしに、次々と攻撃を叩き込んでいる。
「凄まじいな」
「うん……でも、この調子だとそんなに時間はかかりそうにないね」
オトハが攻撃を放ち、それを老人が躱す。
そして、老人が攻撃を放つが、それがオトハへと届く前に、オトハの刃が老人の腹を貫いた。
「降参するなら早めにね、おじーちゃん」
「なんとも元気のいいお嬢ちゃんじゃ」
「よそ見してる場合?」
オトハの振りかぶった一撃が、老人の腰を砕く。
「……おい、なんか弱い者いじめにしか見えんぞ」
「あの天上神さんとやらも強いんでしょうけど、さすがにレベル差が10以上あればああなるよね」
オトハのレベルは現在121。
カナデと共に狂ったように星影相手に戦闘をこなしてきた結果である。
「何にもしてないんだから、天上神なんていなくてもいいよね?」
ダメージの蓄積によって地に伏せる老人へとオトハが攻撃を振り下ろした。
その瞬間HPゲージは削りきれ、また、衝撃に耐えられなくなった雲の大地が一部砕けた。
「次は龍かー……」
「オトハ、一旦、落ち着いて。また、バーサク状態になってるから」
「やだなぁ、これが普通だよ?」
オトハが両手で戟をもてあそびながら答える。
「あのね、私だって早く帰りたいんだよ。だから、私とお姉ちゃんの邪魔になる者は私が潰すって決めたんだ」
オトハが叫ぶ。
「光耀!」
その叫びに応えて、光の龍がこちらへと突っ込んでくる。
「ルイ、立会、よろしく」
「はいはい……まったく、シズネさん。止められませんでした。すいません」
『いいよ、どうせ聞かないと思ってたし。帰ったらお説教だって伝えといてね。私はカナデに話聞きに行くから』
「カナデさん、何かしたんですか?」
『なんかヤマトで魔物の群れ滅ぼしてきたらしくて、じゃあ終わったら連絡ヨロシク』
そう言ってシズネとの念話は切れた。
「オトハ、帰ったらお説教だって」
「え!?帰るのやめようかな……」
龍の背に乗り、空中戦を平気でこなしながらオトハが顔を顰める。
「光耀、5分間私に回復をかけ続けて」
「は?」
オトハがにやっと笑う。
「“トッテオキ”使って一撃で沈めてあげる」
ガアアアアア、と龍が吼える。
それに怯むことなく、オトハの視線は真っ直ぐ龍を睨む。
「《修羅》発動」
オトハのHPとMPが一気に減少する。
修羅の効果でオトハのステータスは通常時の1.75倍になっている。
そして、減少したHPとMPは光耀の魔法によって一気に回復する。
「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動」「《修羅》発動!!!!!」
消費と回復を繰り返すこと10回。
本来ならばこんな無茶な使い方はできない。
理由としては修羅発動時はアイテムによる回復を受け付けないためである。
修羅の発動にはHP・MPともに90%以上が必要になり、回復魔法の詠唱にかかる時間+再使用までのディレイを考えると普通は使えない方法だ。
しかし、龍による回復という裏技によってこのとんでもない行為が可能になっている。
「無双装・夢幻」
約270倍の威力の攻撃が龍の頭に叩き込まれた。




