鬼の試練 -24-04-
マツリの母親兼ヤマトのトップであるネムとの手合わせから数分後、カナデたちは高級感漂う料理が並ぶテーブルに座っていた。
「なんで、こうなったんでしたっけ」
「あはは……とりあえず、早めに引き上げられるように努めるから皆も協力してね?」
カナデが苦笑いで次々と並べられていく料理を眺める。
「せっかくだし、戴きませんか?なんか、イーリスがキラキラした目で見てますし」
「そうだね。まあ、3割も食べられるか謎だけどね」
しばらく休みもとれないだろうし、と言いながら箸を取ったとき、城下の方から高い音が響く。
「……緊急連絡用の花火ですか?」
「……急いで確認を!」
ネムのとなりに控えていた近衛の一人が広間をでていく。
「なんだか、あんまりゆっくりもしてられないみたいだね」
「そのようですね」
「まあ、武士は食わねどなんとやら、ですよ」
「アスカさん、それ違いますね。たぶん」
「腹が減っては、の方ですか」
「そうですね」
シオンとアスカはたまにどちらが年上なのかわからなくなることがあるが、集中していない時のアスカは時たま抜けていることがあるのでそれが要因だ。
その間もイーリスは表情を喜びで染めながら黙々と食事を続けている。
「さて、そろそろかな」
いつのまにか食事を終えたカナデがお茶を啜る。
そして、扉が開き、ネムの元へ近衛が駆けてくる。
「報告します。東の方向より中位以上の鬼の軍勢。数は推定5万です」
「最近落ち着いていたと思ったら……って、カナデ様?何を?」
「なんだか私たちが来たときばかり大発生が起きてる気がするから、少し罪悪感がね」
「そんな、きっと気のせいですよ」
「どうだろう。少なくとも60%ぐらいは私たちのせいだと思うけど」
「そうですね。神気は魔物を刺激しますし、門を開いたことで少しバランスも狂っているでしょうし……イーリスさん、そろそろ行けますか?」
「お任せください」
ナプキンで口を拭っていたイーリスが答える。
「行きましょう、カナデさん」
「そうだね」
立ち上がる、それと同時に四人の足下それぞれに転移の魔方陣が開かれる。
「10分で片付けましょう」
「シオン、それは厳しいんじゃない?」
茫然と眺めるネムたちからすれば信じられないことを呟きながら。転移を実行した。
行き先は敵の直上。
転移した瞬間カナデが半径5mほどの敵をすべて吹き飛ばす。
「アスカ、イーリス真ん中に。シオンは反対側の180度お願いね」
「了解しました」
「「はい!」」
少し離れた門の地点で戦っていた兵士や冒険者たちの数千倍の速度で、ゴブリン(種としてはそうらしいが、進化しすぎてほとんどのオーガ)を斬り伏せていく。
「数多いですね」
「これ以上増えるようなら星影呼ぶから」
「なるほど、ひどい提案ですね」
「カナデさん、シオンさん、10カウントで真ん中まで下がってください!」
「わかった」
「はい」
アスカが直上に向けて弓を絞る。
「イーリス、結界を」
「はい!」
アスカの声に合わせてイーリスの魔法で門の側に結界が張られる。
「カナデ、シオン!ちょっと力借りるよ!」
アスカの矢が、光を集め、輝き始める。
「天弓・剣ノ雨」
光を空へと放つ。
雲を穿った瞬間、空から無限の光剣が降り注ぐ。
体力のそれほどない鬼たちは消滅し、体格が小さきものは体力が残ったとしても地面に縫い付けられいる。
「これで小物は片付きましたよ、っと……どうしました?」
「アスカさんまでこんな大破壊技を……」
イーリスが一人わなわなしている。
「というか、呼び捨て……」
「え!?あの、咄嗟だったんで、スイマセン」
「いや、むしろ呼び捨てでお願い。敬語もなし」
「そうですね。私の場合はそもそも年下ですし」
「ええええ!?急には難しいですよ?というか既にこれで慣れてますし」
「じゃないと、なんの説明もなしにMPを20%ほど持っていかれたことについて赦しません」
「そうだねー」
カナデにフォローを求める視線を送るが、カナデも楽しそうに笑っているので無理だろう。
「善処します、カナデ、シオン……」
「よろしい。この調子でイーリスも」
「私の方は自動通訳なのでいったい全体どうなっているのか解りませんが努力してみます」
「あー……なるほど、たまにゲームってこと忘れるんだよね」
「カナデさん、第2波です」
「アスカ、イーリス。ちょっと踏ん張ってね」
カナデとシオンの目の色が文字通り変わった。




