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女神の箱庭I =カサナルセカイ=  作者: 山吹十波
第23章 氷の意志と砂の覚醒め
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氷ノ意志 -23-04-


シルヴィアは困惑していた。

カナデやシズネ、クロエといった自分とは違う有名な人たちが女神となっていくのを見てあくまで傍観者としてすごい、などと思っていたというのに、どうして私は今、龍の前に立っているのだろうか。


後ろの方では、どこからかとりだしたベンチに座ったカナデが頑張ってー、などと手を振っているが、がんばれるか否かではなく、はっきり言って既に勝てないことが確定している勝負に挑まされる絶望を何とかしてほしい。

龍にも選ぶ権利はある。自分は選ばれないものだと思っていたが、理由はよくわからないが気に入られたらしく、気付いた時には既にここに立っていた。


「どうした?来ないならこちらから行くぞ?」


「あ、本当にやるんです、ね」


氷龍の澄んだ声に武器を構える。

こちらは基本的には接近戦のみ。魔法は氷魔法と水魔法しかまともに使えないため、効果は薄いだろう。

龍のイメージと言えば地上では鈍重なイメージだ。速さで上回れば勝機がある、と考えていたが、相手の最初の行動でその考えは打ち砕かれた。


無詠唱、無動作、魔法陣なしの多重魔法起動。

0.1秒ほどで、シルヴィアへ向かって氷の杭が降り注ぐ。


「ひっ……」


氷片が飛び散る土の上をジグザグに走りながら、隙を狙うが、こちらが近づけないように計算して魔法を撃ってきている。

余裕をもって躱しているとどんどん相手から離れていく。


「……どうしよう」


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


「シルヴィア苦戦してるね」


「そうねぇ」


カナデと隣に座る星影がかなり離れた位置から2人を眺めながら茶を啜っていた。


「そういえば、星辰は?」


「ああ、結界の維持が何とかってっていた気がする」


「そっか、やっぱり向こうからもなんかしてきてるかな?」


「魔力高めの奴らを消しかけて結界に体当たり掛けてるみたいだけど、まあ、蒼の程度なら星辰だけで何とかできるでしょう」


「そこまでわかってて助けに入らないんだね……」


「まあね。それよりも、向こう大丈夫?だいぶんおされてるけど……あ、入った」


氷の杭というよりも既に柱の規模前巨大化した大質量の氷の塊がシルヴィアを押しつぶす。


「シルヴィア!?」


カナデが声かける。

砕けた氷の破片がキラキラ舞う中、シルヴィアの影がゆっくり立ち上がる。


「……ん……何の音でしょう?」


カナデの膝を枕に意識を失っていたシオンが目を開く。


「はやかったのね、目覚めるの」


「はい、そんなに本気で使ったわけでもないですし……シルヴィアさんが戦ってるんですね」


「うん、そろそろ反撃かな?」


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


全身の骨が軋んだ。

だが、何とか起き上がった。

正直起き上がったことを後悔したが、ここまで来たらやるしかない。


「う、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」


咆哮を上げる。


獣化(リベレーション)!!!」


五感が冴え渡り、体に力が満ちる。

今まで見えなかった活路が見える。


「行くよっ!」


地面を蹴る。

先ほどまでとは違った加速度合に仰天する氷龍。


「バカな!?」


今までよりも速く、そして大量に撃ちだされる氷柱を、舞うように躱し、時には足場として駆け、前進する。


「獲った……っ」


間合いに飛び込み、その首に交差するように深く抉る。

悲鳴を上げる龍と流れ出る血。

追撃を、と動こうとするシルヴィアだったが、力が抜けて地に膝をつく。


「なんで……?」


「……私の血を浴びるなど、愚かな」


血糊を浴びた場所は凍りついている。だが、体表が少し凍ったぐらいでは程度ではこんなことにはならないはずだ。


「くっ……でも」


強く地を叩くと、その勢いで無理やり体を持ち上げる。


「負けませんよ」


次の瞬間、氷龍の視界からシルヴィアが消える。

そして、背に鋭い痛みを感じたと思うと、次は尾、右後ろ足と肉をそがれる感覚が襲う。


「必殺・ウルフストライク」


そして最後に顎への痛打を貰いよろける。この直後にさらに攻撃をされれば、ガードすることはできない。

敗北を覚悟した氷龍だったが、次の攻撃は来なかった。


シルヴィアは気絶していた。

獣化による膨大なスタミナ消費によって、意識を失う彼女を呆然として見下ろす氷龍。


「……これ、終わったのかしら?」


「あー……これは負けかな」


「そうですね。残念ながら」


3人(2柱と1頭?)が倒れたシルヴィアの元へと現れる。


「どうするのかしら?」


「ふふ、まあいい。こちらも苦戦させられたことだ」


「相変わらず甘いわねあなたは」


「そうか?それよりも、どうしてお前がここにいるんだ、覇龍?」


「まあ、いろいろあったのよ」


「とりあえず戻ろうか。外回収してからスペーラに帰還かな……」


「カナデさん、城の方、完全に放置してきましたけどいいんですかね」


「じゃあ一応顔出しておく?」


カナデが出した鍵によって、空間が弾ける。

氷の神殿の内部へと風景が変わり、シルヴィアを背負って外に出ると、すぐにアンリとタロウが駆けてきた。


「シルヴィ!」


「タロー、この娘、よろしくね」


タロウにシルヴィアを渡すと、カナデは1つ背伸びをして、魔法陣を展開する。


「じゃあ、城の方に御礼だけ言って帰りますか」


「……カナデさん、直接乗り込むんですか?」


「うん」


何のためらいもなくうなずくカナデが魔法を発動させた。


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