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女神の箱庭I =カサナルセカイ=  作者: 山吹十波
第23章 氷の意志と砂の覚醒め
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黒騎の小夜曲 -23-03-

カナデとシルヴィアは雪道を走る。

既に目前には神殿らしき影があるが、ただ一つ気がかりなのは。


「足跡があるんだよね」


「はい、若干ですが臭いも残ってます」


「厄介だなー……?」


カナデが言葉を切る。どうやら念話が来たようだ。


「どうかしましたか?」


「ごめんシルヴィア、先に走ってて。10秒で追いつくから」


「え!?」


カナデが前方に一気に加速したと思った次の瞬間、魔法陣の砕ける光を残してその姿が忽然と消えた。


「何が?」


言われた通り、前に進んでいると後ろからカナデが突然隣に出現した。


「!?」


「ごめん、ちょっとシオン拾いにね」


背中にはシオンが負ぶさっている。


「大丈夫なんですか?」


「うん。神刀使った反動が来ただけだか、ら?」


カナデが進もうとした先をシルヴィアが手で制する。


「急に止めてすいません、消えてますけど多分います」


「待ってね」


カナデもその眼を持って周囲を探すと確かに人型の生物がいる。


「私が相手するからシルヴィアはとりあえず神殿に入って」


「シオンさん背負ったままでですか?!」


「何とかする」


ずり落ちそうになったシオンを上にあげて、剣を抜く。


「さあ、来るよ」


向こうからの攻撃に合わせてカナデが刃を振るい、弾く。


「へえ、最近のお姉さんはなかなかやるね」


「でしょ?」


シルヴィアは神殿の方へと走っている。


「なるほどね、確かにいい選択だったかもしれない。でもそれは僕が一人だった場合でしょう?」


「何を……」


21位・ゼメーラは懐から笛を取り出す。


「僕だってか弱い乙女だからね。これぐらいは許してね、お姉さん」


「それは……狂戦士の笛?」


「んー……招魔の笛って呼んでるけど、一緒なのかな?」


長い筒状のそれを加えると思いっきり吹き鳴らした。

地響きとともに魔物がやってくる。そう思って周囲の木々の間を警戒する。

シルヴィアはもう間もなく神殿に着く。

しかし、その考えは甘かったという事に気づかされる。


地面を覆う雪が持ち上がり巨大な人型を形成していく。


「アイスゴーレム……しかもこの数は……」


数十体のゴーレムを焼き払おうと魔法を用意し始めた矢先、シルヴィアの悲鳴が聞こえる。


「シルヴィア!」


カナデが駆けだそうとするも、ゼメーラが一気に距離を詰めそれを阻む。


「どうやら彼女とは相性が悪いみたいだね。いや、僕達からすれば“いい”か」


「くっ……」


次の行動をどうするか考える。

まとまらず逡巡していると黒い影が目の前を通り過ぎて行った。


「焼き払え!黒き炎」


放たれた強力な熱は地面を焼き、アイスゴーレムも含めてすべてを溶かしつくした。


「大丈夫か!?シルヴィア!」


「タロー!」


地面に倒れていたシルヴィアがタロウの手を借りて起き上がり、そのまま彼に抱き着く。


「ありがと!」


「ああ、それよりも。カナデさん、先へどうぞ。アイツは自分が」


「いいの?任せちゃうけど」


「はい。彼女ぐらい、自分の手で守って見せます」


きゅんとしている様子のシルヴィアだが、カナデにはそれが何かの台詞に感じてならなかった。先入観という奴だろうか。


「頑張ってね」


シオンを抱え直すと、タロウに向かって魔法珠を3つ投げる。

それを受け取ったタロウは会釈し、ゼメーラへ向かい、剣を抜く。


「さて、勝負と行こうか」


「へぇ、カッコいいじゃん。惚れそうだよ」


「惚れてもらって結構。だが、オレにはシルヴィアがいるんでな」


「ムカつくねぇ」


「ははは、よく言われる」


タロウが動く。

決して早くはなかったが、先の見えない不可思議な動き。

ゼメーラは一瞬、彼の姿を見失うがすぐに気づく。

これは自分と同じだと。

突き出された黒い切っ先を自らの持つ剣ではじく。


「闇の魔法で自分と風景の境界をあやふやにしてるんだね」


「そうだが。どうやらお前も同じらしいな」


「じゃあ、普通に戦ったらきりがないか先に一撃入れた方が勝ちっていうのは?」


「オレが勝ったらおとなしく投降してもらうぞ」


「まあ、しかたないかな」


ゼメーラの周りに魔力が渦巻き、ゆっくりとその体ごと周囲に溶けていく。

対するタロウも同じようにして身を隠す。


そして、最大限の加速と持てる限りの索敵能力で攻撃を仕掛ける。

こちらの武器はカナデの創ったものだ。

攻撃は十分。

シルヴィアのためという大義名分もある。気力も十全。

つまり勝てる気しかしない。


タロウは集中する。

地面は先ほど自分の融かした雪のせいでぬかるんでいる。

そして、ぬかるんだ地面には足跡が残るものだ。


探す。


見つかるはずもない。そんなことは相手もわかっている。

ならばどうするか。

ふと、カナデから渡された魔法珠の存在を思い出す。

《加速》《精密》《固定》の3つ。

ありがたい。

そのすべてを一度に発動させ、タロウは奔り出した。


剣は地面に刺し、引きずる。

おそらく向こうに位置はばれているだろうが当たらなければいい。

書き終わればこちらの勝ちだ。

1つ、2つ、3つ……

さらに手持ちの魔法珠もいくつかこぼしていく。


30秒もしないうちに準備は整った。

そして無効にも完全に居場所がばれたようで攻撃を受ける。

何とか剣ではじくと、ゼメーラはまた消えて行った。


しかし、もう勝負はついている。

タロウは高らかに笑うと、地面に刺した剣を通して魔力を魔法陣に送り込んだ。


「シャドウスピア」


その程度の魔法でとらえられるものか、とゼメーラは嘲笑ったがその足元を見て驚く。

歪であるが魔法陣として成立している。

そして紫に魔力を帯び、影の槍が足元から彼女を貫く。


「か、はっ?!」


身体をひねるも、その先にも影の槍。

脇腹他数か所に浅く入り、ぬかるんだ地面に沈んだ。


「オレの勝ちだな」


タロウがゼメーラの手に手錠をかける。

そして、手持ちのポーションで治療を行う。


「なんで、治す?」


「殺したいわけじゃない」


そんなやり取りをした直後、来た道から人影が現れた。


「大丈夫か?タロ」


「遅い」


「なんだよ、その美人さん。殺すぞお前」


「魔人だよ。もう倒した。後はカナデさんとシルヴィアが帰ってきたら終わりだ。先帰ってろ」


「お前は?」


「残る」


「ほほう……」


「黙れ」


睨み合いの末、負けたヨウがやれやれと言った仕草をすると、倒れたままのゼメーラを担ぎ上げると転移で帰っていった。


「はやく、帰ってくるといいね」


「はい」


残ったアンリとタロウが神殿を見つめる。

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