氷の番人 -23-02-
シオンと別れ、走り出して間もなく、木が払われ、開けていた道と思われる部分からさらに開けた部分へと出る。
「あ、これ不味いね」
「そうですね。これはまずいですね」
「え?え?どういうことです?」
わけがわからず首をかしげるシルヴィア。
この無駄に広い空間は確実にあれが来る。
「はは、やっぱりここらでボス戦みたいだよ」
「どうしましょうか……」
「カナデちゃん、シルヴィ抱えて走り抜けて」
「いいんですか?」
「その代わり、帰ったら一緒にお風呂ね」
「えええ……なんですか、その悪魔の取引」
周囲から獣の唸り声が聞こえ始める。
「ほら、早く、走って!」
「納得してないですけど、とりあえず、気を付けて!」
「え!?カナデさん!?」
シルヴィアの手を引き、カナデが走り抜けると同時に、木々の向こうから大量のオオカミと一匹の巨大な銀狼が現れた。
「数で来たかー……失敗したかなぁ」
大剣を装備し、構える。
幅広の大剣とは違い、細身の刀身を持つその剣はもちろんカナデの作だ。
「この渓月でどこまで相手にできるかな」
狼たちが距離を測りながらにじり寄ってくるのを睨みながら、大きく後ろにバックステップ。
突然の行動に隊列が乱れたところに一気に突っ込み3体ほど斬り捨てる。
「おっと」
それすらも読まれていたのか、かなりきわどい隙を狙って銀狼の爪が迫る。
「なかなか速いね」
3体同時に襲い掛かる狼たちを躱し、背後にまわり、斬る。
しかし、攻撃が決まってギリギリのところで銀狼の攻撃が入るため一時も油断できない。
「まあでも」
20体以上いた群れはほぼ壊滅状態。
残りは銀狼を含めて3匹。
「勝機見えたかな」
剣を前に構える。
すると銀狼が足を踏ん張り上を向き、大きく吠えた。
空間が震えるほどの大咆哮。
「まさか……」
そして聞こえ始める複数の足音。
4つ脚でおそらく50匹。
「これはヤバいかも」
退路は断たれた。
しかし、ここで討ち逃すとカナデとシルヴィアの邪魔になる。
「どこまで行けるかなぁ」
ポーションの瓶を乱暴に呷り、狼たちの群れへと突っ込んだ。
先ほどよりも数にものを言わせた攻撃を仕掛けて来るが、コンビネーションは崩れていない。
銀狼の攻撃はまともに喰らうと危険なので必死にガードするが、その隙に取り巻き達から数発貰うことが多くなってきた。
「集中もたない……よ」
何本目かのポーションをあおり顔を顰めた後、攻勢に出る。
1、2、3、4と順調に斬り伏せた後、5匹目にかかろうとしたとき背後から2匹同時に襲い掛かる。
これはまずい!
そう思った瞬間、黒い影がその2匹を吹き飛ばした。
「シルヴィアは先か!?」
「え?……あ、あ、うん」
そのまま先へと走り去った黒い影に狼ともども茫然としていると、来た道から人の足音が聞こえ始めた。
そして、数匹のオオカミが宙を舞い、11人の影がアンリを取り巻いた。
「アンリさん、生きてる?」
「あれ?ヨウか……」
「なんでちょっと残念そうにするかね」
「隊長、さっさと片付けるぞ」
「彼女のために先行したあのボケを張り倒すために」
「わかったわかった、アンリさんは休んでていいぞ、うん」
「え、でも」
そういうと、アンリは銀狼を指さす。
銀狼は2度目の方向を行い、木々の向こうからはやはり大量の足音が聞こえ始めた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃねーかな?なあ、お前ら」
「お前、もう少しオレ等を信用しろよ」
「最悪アンリさんだけ連れて逃げるから安心しろよ」
「だからお前らは信用できねーんだよ」
でも、まあ、というとヨウも剣を抜く。
「銀狼倒した奴は信用してやってもいいぜ」
「いらねぇよ」
「何様だよ」
「アイツ、今絶対ちょっとカッコいいこと言ったと思ってやがるぜ」
「寒いわー、この気候より寒いわー」
ボロクソに言いながらもそれぞれ剣を構える。
「よっしゃ、さっさと終わらせんぞ」
「仕方ねーな。協力してやんよ」
「ほっといたらすぐ死ぬしな、うちの隊長」
「さびしくても死ぬしな」
「それ兎じゃね?」
「ウサギと一緒にするなよ」
「ウサギに失礼だろうが」
「スマン、ウサギ」
「お前らはまずオレに謝れ」




