雪の帝国、氷の街 -22-10-
隠れ家としてアドリアナに案内された場所に到着したカナデ達を出迎えたのは騎士だった。
こちらを敵だと判断したのか、剣を抜き、まっすぐこちらに突っ込んでくる。
アドリアナは已然としてカナデが抱えているため、狙いはシオン。
おそらく、シオンを倒し、人質として王女を取り返そうという計画だろうが、相手がシオンという時点でその計画は破綻していた。
左右同時に斬りかかる2人の騎士を、軽くバックステップで躱したシオンは、腰に佩いた刀を取り、鞘つきのまま右の騎士の頭を殴りつけた。
よろける騎士(右)の腹に追撃を入れながら、左手で刀を抜き、攻撃を再開した左側の騎士の剣を弾いた。
休まず弾いた剣をもう一度打ち付け、完全に弾き飛ばした後、未だよろめいている右の騎士の後頭部に刀の峰を叩き込んだ。
「さて、弁解があるなら聞きますが」
「シオン、やり過ぎ」
アドリアナを降ろしたカナデがシオンの額をつく。
「すいません、兄様……」
シュンとするシオンの頭を思わず撫でるカナデ。
隠れ家の前で待機していた侍女たちがこちらをぼーっと見ている気がするが気のせいだろう。
「ヴァージム、プラト。この二人はおそらく大丈夫だ」
「しかし、宰相の間者かもしれませんし。身元の分からないものを近づけるのは」
「身元なら確認した。ステラ教皇の手のものだ。印章も確認した。……だからと言って完全に信用するわけではないが」
「そうですか……」
「まあ、別に信用とかなくてもいいや……」
「カナっ……兄様!?」
シオンが驚いてカナデを見る。
「神殿の場所だけ教えていただければ内政には関与しませんよ?」
「なるほど、目的はスティーリア神殿だったか……」
もう一度なるほどとうなずいたアドリアナは顔を上げる。
「残念ながら神殿は私の手で封印した」
「え?」
「宰相がなにやら企んでいたので、奴の手が伸びる前に封印させてもらった。氷龍ジェイル様の許可もとってある」
「えええ……じゃあ、とりあえず場所だけ教えていただけませんか?封印は自分で破壊するので……」
「兄様、破壊しちゃったら確実に悪役ですよ……」
「そうかな?でもなんだってこんなことになってるの?」
「部外者に教えれるわけないだろう」
プラトと呼ばれた方の騎士が反論する。
「あ、あの……皆様中に入られてはどうでしょう。寒いですし……」
侍女のうちの一人がそう提案したために一行は隠れ家――浅い洞窟の中に作られた木造の家へと入っていった。
「それでは改めて自己紹介をしたいと思う。私は第一王女アドリアナ・ディラ・テミス・ニックス。そしてこっちが」
「妹の第二王女ファイーナです」
アドリアナの隣に座る少女が立ち上がり一礼する。
「それと、元近衛騎士のヴァージムとプラト。元侍女頭のゾーナと侍女のラリサだ」
「ご丁寧にどうも……カナデ・H・レゾナンスです」
「弟のシオンです」
「先ほどは助かった。礼を言おう。一瞬死を覚悟したのだが」
「大まかな事情は分かりましたけどなんであんなところウロウロしてたんですか?」
「第一王子のパーヴェルを探しているのだ。何とか接触できればいいのだが……」
「大変なんですねぇ……皇帝が即位したって言ってましたけど、その第一王子がそうなんでしょうか?」
「いや、おそらく第三王子のヴィタリーのことだろう……」
「それほど優秀なんですか?その王子」
「いや、あれはまだ6歳とかそこらだった気がする。大方傀儡にするために宰相が仕立てたんだろう」
「大変ですねぇ……」
「兄様、びっくりするほど他人事ですね」
「そりゃ、こんな大きな話には下手に関われないし。やれと言われれば城ぐらいは落とせるけど……」
そういいながらカナデが出された茶を口にする。
「宰相の奴、どこからか魔人と契約したらしく、全く歯が立たずに。オレたち近衛騎士も壊滅した」
「魔人……?」
「そう。魔人だ」
「それはちょっと介入しないとダメかな……」
「一度確認取ってみます」
シオンが念話でハルト達と連絡を取り始める。
「その魔人っていうのは本当の魔人?」
「そうだ。ここ数百年目立った活動はなかったようだが、どこから現れたのか……」
「魔人か。……それは城に行けば会えるのかな?」
「いや、奴らは神殿の方を探っているようだった。城の方にも数人は控えているだろうが」
「まずいな……」
「兄様、確認取れました。この後即2名合流、あとで4番がきます。では、私は少し行ってきます」
そういうとシオンが外へと飛び出して行った。
「了解。じゃあとりあえず城に行ってみようかな。神殿はこの先の森の奥でいいんですよね?」
「そうだが……本当に何をしに城に行くのだ?」
「魔人を討滅しようかと。一緒に来ますか?」
「何を、おい、待て」
制止を聞かず、カナデが外へと出るため扉を開ける。
そこにはシオン、アンリ、シルヴィアがスタンバイしている。
「アンリさん、とりあえず神殿は後回しで、城にいる魔人から潰します」
「うん、わかった。腕が鳴るね」
「行きましょうか」
シオンが魔法陣を展開する。
「一応、屋根の上に出ます。そのまま走って城の方へ」
「私は隠密あまり向かないから囮として突っ込むけど、シルヴィは?」
「とりあえずアンリさんと一緒に行きます。アンリさん一人で十分なようならば私もカナデさんたちに合流します」
「了解です。シオン飛ぶよ」
「はい」
「待ってくれ!」
アドリアナが声を上げる。
「私も連れて行ってくれ」
「殿下!?」
「……何をしに行くんですか?」
「これでも継承権一位の王女。魔人と共に宰相が潰れたならば今の体勢も瓦解するだろう。私が国を建てなおす」
「構いませんが、それなりに危険ですよ?」
「そうです、殿下!そもそも此奴等の素性もわからないんですよ?」
「まあ、そこはいったん置いておいてだな」
「……私が言うのもなんですが、置いておいていい問題でしょうか?」
シルヴィアが首をかしげる。
「現状、城に行くにはこれが最良の手だ。なにせこちらには騎士2人と婦女子が4人しかいないのだから」
「城下に潜んでいる者もいますよ!」
「彼らを簡単に動かすわけにもいかないだろう。何のために潜ませているのか」
「とりあえず、行くならはやくしてほしい感じなんだけど……」
カナデが苦笑いをしながら話を切る。
「すまない、今行こう」
「殿下!……ああ、私も同行します!」
「じゃあ、行きます」
アドリアナを追ってプラトと呼ばれた方の男が魔法陣に飛び込むと、シオンの声と共に魔法陣が弾けた。




