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女神の箱庭I =カサナルセカイ=  作者: 山吹十波
第22章 砂漠の城と氷の帝国
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氷の帝国、雪の街 -22-09-

男装スタイルに着替えたカナデとシオンが降り立ったのは雪の降り積む石と鉄でできた街。

魔導工学による工業製品の生産が盛んという事で、いくつかの工場からは機械的な音が聞こえる。

しかし、街の雰囲気はどこかさびしげで、活気はないように見える。


「思ったより静かなところね、じゃなくて……静かなところだね?」


「一応兄弟という設定ですし、あまり硬くならなくても」


「なんで兄弟なんだろう……この通り似てないのに……まあいいか」


街の方へ向かおうとすると、港の出口あたりで兵士二人が立っているのを見つけた。

そのまま進もうとすると、止められる。


「申し訳ありあません、身分証の提示をお願いできますか?」


「はい、これですね」


カナデに続きシオンもステラからもらった身分証を渡す。


「街の方を少し観光したいのですが、ダメでしょうか?」


「メンシスの……神官様ですか………申し訳ありません。先日、新しい皇帝が即位されたところでして、治安もあまりよくないもので、できればご遠慮願いたいのですが……」


「そうなのですか……こちらの国の神殿にだけでも訪問させていただけませんか?」


「神殿ですか……簡易な神殿ならこの先にありますが、女神様をお祀りしている正規の神殿でしたらかなり森の奥地になってまして、現在はそのあたりは封鎖しておりますので行くのは難しいかと……」


「そうですか、無理を言ってすみません」


「兄様、一度港の宿まで戻りましょう。明後日にはスペーラに向かわないといけないですし」


「そうだね。シオン」


兵士二人に礼を告げると宿の部屋へと引き返した。

この二人がそのままおとなしく過ごすわけもなく、《不可視化》した後、部屋の窓から屋根に飛び移り、街の中へと侵入した。


「さてと、どうする?」


「姿を視られたら一発でアウトですから情報収集も難しいですね……」


姿を消しているとはいえ、人とぶつかるとまずいのでできる限り路地裏を縫って移動する。


「思ったよりも人が少ない」


「というよりもなんか兵士がうろうろしてますし不穏な空気ですね……」


「宿のおばちゃんも多くを語ってくれなかったし……何が起きてるのかな?」


「考えられるのは新しい皇帝による暴政とかですかね」


「即位したとこですぐそれ?」


「よっぽど能がないのかもしれません」


驚くほどに人の姿がない大通りを歩きながら2人が街の南側、つまりは街道に通じている側を目指していると奥の路地から唐突に声が聞こえた。


「今、いたぞ!ってだれか叫ばなかった?」


「盗賊でも入り込んだんでしょうか?」


興味本位で路地を覗き込んだ2人が目にしたのは、長い髪を1つに束ねた女性とそれを取り囲む兵士の姿。


「なにアレ」


「助けますか?」


「どうしよっか?」


2人が思案している間にも状況は進む。


「第1王女アドリアナ・ディラ・テミス・ニックス。我々に同行願います」


「ははは、何をバカなことを言っておるのだ。着いていくところされるとわかっていてついていくものがどこにおるのか」


「そんな殺すだなんて物騒な」


「ならば剣を下げろ。妾は継承権第一位第1王女アドリアナ・ディラ・テミス・ニックスであるぞ」


「しかたありませんね。何故か護衛もいないようですし、ちょうどいい。生きて連れて帰るのはあきらめることにします」


それでも兵士たちを睨みつける王女。

隊長格の男が剣を振り上げた瞬間、兵士全員の構えていた武器が砕け散った。

兵士たちとアドリアナの間に2つの影が滑り込む。


「なるほどなるほど、大体状況は理解したよ」


「兄様、アドリアナ王女を。この程度でしたら私だけでも十分です」


「いやいや、もう終わったよ。ごめんね、シオン。見せ場を奪ってしまった」


突如肩から血を流して倒れる兵士たち。


「悪いけど、まだ上に知られるわけにはいかないから」


光となり、蘇生されるはずの兵士たちの骸はその場に留まる。

これが意味するのは死。


「お主等、何者だ」


「あ、ええと。こういうものです。できればこの場は信用してください」


カナデは躊躇いなくステラからもらった方の身分証を渡す。


「神国の者か?しかし、そのような制服は見たことがないが……だが印は確かにステラ様のものだ」


「この制服でしたらスペーラ製の新しい物でして」


「なるほど……今は信じるしかないか……そして、この場からどう去る気だ?」


「差支えなければ、御送りしますが」


「あまり隠れ家を知られたくないのだが……頼めるか?」


大通りの方からはこちらに足音と声が向かっているのが聞こえる。


「シオン」


「はい、とりあえず上へ」


カナデがアドリアナを抱えあげ、ほぼ垂直に大跳躍し屋根に上る。


「おおお!?」


「どちらに向かえば?」


「あ、ああ……ニックス街道から東へ、アーヴィの森の入り口付近に隠れ家がある!」


「了解しました」


すぐに姿をかくし、南へと屋根を渡る。

門までたどり着く。

街を囲む城壁は思いのほか高くどうすべきかと思案しているとアドリアナが声を上げた。


「もう少し東側に行けば抜け道があるのだが……」


「そこへ行くのは難しそうですね」


「攪乱しましょうか」


「堂々と正面から出てもいいけどね」


シオンが魔法陣を展開し、街の誰もいない十字路へ向かって魔法を撃ちこむ。

かなりの規模の爆発が起き、兵士たちがそちらに集中するのを見ると、カナデが城壁の一部を斬り抜き、そこを潜って脱出した。

ちなみに壁はシオンが錬金術で修正した。


「……良く斬れる剣だな」


「でしょう?」


カナデはアドリアナを抱えたまま雪原を走ろうとしたが思ったよりも雪が深く、脚が取られて走りにくい。


「融かしますか?」


「いや、融かしたらばれちゃうだろ?」


融かさずとも足跡は残る。逐一時間回帰を掛けるのも面倒。

という事で、


「空間固定」


あまり使われない魔法だが、時空魔法の中にある魔法で、空間を固めるという単純なもの。

これを使って宙を駆けるカナデと、それに続くシオン。

移動時間はずっと短縮されあっという間に隠れ家にたどり着いた。


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