水辺の女神 -22-03-
「すまん、今、正気に戻った」
「鼻血でるとは……」
「あれはずるいよな、だって目が離せないもの」
「いやらしいこと考えてないで早く剣構えて戦って!」
モエの声が3人+1人を叱る。
「ツバサは私とカナデさんをカイトとタツヤでシオンさんを探して!モエはアスカの方に!」
「了解!」
細かな魔法発動で足場を作りつつ、アスカを探してフィールドを走るモエ。そこに容赦なく矢が向かう。
「よっと、」
身軽に躱し矢の飛んできた方向と匂いからアスカを追う。
「マナミ!10時の方向から時計回りに移動中!」
「了解!」
しかし、モエの読みは外れた。確かにモエの言う方向に移動はしていたが、その移動方法は、
「!?、モエ!上!」
マナミが叫び、モエが躱すが、間に合わず肩に矢を受ける。
「シオンさん、アスカ抱えて飛ぶとか反則ですよ」
「安心してください、疲れるのでもうしません」
シオンがカードを投げ沼を凍らせ足場を作る。
「というか、アスカの匂いがしない……なんで?というかどこ行ったの!?」
「飛び回りながらカナデさんのシャンプーと同じ香りをばら撒きました。アスカさんにも塗りたくってあります」
「うわぁ……完全に私とリゼットの鼻潰しに来てる」
モエが短刀を構えなおす。
「いえいえ、この香りの中ならやる気も上がるといううものです!」
唐突に現れたリゼットがシオンへ高速の突きを放つ。
シオンはそれをなんとか躱し、距離を取る。
「甘いです。爆!」
「へ?」
「げ」
いつの間にかリゼットとモエの間に浮かぶカードが弾けた。
モエとリゼットがリタイアした頃カナデは相変わらず笑顔で応戦していた。
「あれ、何企んでると思う?」
「こちらにとっていいことではないのは確かだ」
「だよねぇ」
ミサキとツバサが同時に切り込む。
ミサキの横薙ぎにワンテンポ遅れてのツバサの突き。
しかし、カナデはミサキの剣を屈んで躱し、そのままミサキの脚の間をすべり抜けた。
「なっ……!?」
「泥だから滑り易くて良かったよ、っと」
ミサキの背を叩く。
「おい、不味いぞ!」
ツバサが声を上げる。
「はい、爆!」
ミサキの背が派手にはじけた。
7番隊の訓練ルールではHPが半分を切ったら全快するまで攻撃に参加することはできない。
いくら攻撃力の高くない符術の攻撃でも爆破が直撃すれば5割近くまで削れる。
それはもちろん普通の爆破攻撃ではないからでもあるが。
「あれ、立ってるってことは」
「危なかったぁー……」
上半身がインナーだけの状態だがミサキのHPはまだ7割残っている。
「あの符、重ねたら火力あがるみたい」
「それはいいが、どうしてそんな格好に」
ツバサがミサキから目を逸らしながら尋ねる。
「さすがに直撃はまずいと思ってシャツを切り捨てた」
「咄嗟にそんなことよくやるね……」
カナデも驚いている。
「まあ、とりあえず何か着たら?ツバサも目のやり場に困ってるし」
「いや、それを今のカナデさんが言います?」
苦笑いすると、カナデは制服に衣装を戻す。ただし上着は着ない。
「さて、行くよ」
カナデが剣を構える。
「裂光」
カナデの動きは読める。しかし、避けることはできない。
「ミサキ!一閃と同じだ!」
「え!?」
ツバサが剣で防ごうとするも失敗。
ミサキは攻撃を読めずもろに食らう。
「はい、2人退場―」
「初めて見る技でしたが……」
「まあ、刀技あんまり使ってないからね……」
一方、タツヤとカイトはかなり苦戦していた。
カナデが着替えたのを見てシオンも着替えようとしているところを強襲したが失敗に終わり、着替えも済まされてしまった。
2人でタイミングを合わせて斬りかかるが、全く通じない。
ただし、シオンの集中力も無限ではない。もう少しで活路が、と思った矢先。
アスカによってマナミが討たれた。
「おい、ヤバいぞコレ」
「ああ、いつの間にかナナミとイーリスを片付けたカナデさんがニコニコしながらゆっくりこっちに来てるし、アスカからも照準合わされてるんだろうな……」
「現実逃避終わりましたか?」
「「え゛?」」
シオンが15枚のカードをばら撒く。
「ラグナロク・ライト」
タツヤとカイトが白い光に塗り潰された。
「「全然軽くじゃない!?」」
あっけなく決着がつく。
シオンのやり過ぎでタツヤとカイトが即死したため蘇生魔法を掛けるイーリス。
それと同時進行で地面を元の状態まで治す作業が行われ、気絶したままの2人を放っておいて食事の準備が進められる。
タツヤとカイトが目を醒ましたときには既に全員食べるのに集中していた。
「しまった、出遅れた!」
「……第一声がそれ?」
ナナミに睨まれつつカナデ作の弁当に手を付けるタツヤとカイト。
「この後はどうするんですか?」
既に食べ終わりお茶を啜っているツバサがカナデに問いかける。
「一人ノルマ10匹でこの辺でモンスター狩りかな。私とシオンがここで待ってるから。最初に帰ってきた3人にはアイスクリームをあげます」
おお、と歓声が上がる。
「そうと決まれば」
「お先に!」
モエとナナミが立ち上がり駆けて行った。
「うわ、ずるい!」
「イーリス、早く!」
「え?私まだ食べ終わってないんですけどっ!?」
「あれ!?アスカ?消えた!?」
「タツヤ、はやく食べないと」
「ああ、判ってる。だが、掻き込んで食べるには惜しい」
といいつつもかなりの速さで咀嚼を進め2人は駆けて行く。
「ツバサも適当に頑張ってね」
「わかりました」
溜息をつき、2人の後を追うツバサを見送った後。
「さて、本格的に水遊びを楽しみましょうか」
「そうですね」
シオンと二人で水辺の整備をし、勝手にをウッドデッキを創り、水着に着替えてもはや泉とはいえなくなった規模の水溜まりに飛び込む。
「冷たいっ!」
「周りは荒野ですし、凄まじい贅沢をしているように思えます」
「元の世界ではこういうの簡単にはできないからねー……今のうちにやっとかないと」
「確かに、ここまで綺麗な場所はないでしょうね」
2人で水面に浮かびながら空を見上げる。
シオンが手を握ってきたので握り返す。
そのままぼーっと10分ほど浮かんでいると荒野の方から声が聞こえてきた。
どうやら帰ってきたらしい
「私が一番!」
「負けた!でも2番!」
モエとアスカだった。
「私3番!?危なかったー」
一拍遅れてナナミが帰ってきた。
それに続いてぞろぞろと帰ってくる。
「カナデさん、シオンさん……何満喫してるんですか」
「ああ、ちょっと待って」
カナデとシオンが水から上がる。
あらかじめ作っておいたデッキの上にハンガーラックを出し、大量の水着を展示していく。
「好きなの選んでいいよ?」
女子メンバーが殺到する。
実はこの水着、カナデシオン用にレイが作ったものだが、いくらなんでもこんなに大量にはいらない。
「男子用もあるけど、まあこっちはあんまり種類ないけどね」
ブルー、グリーン、ビビッドなピンクの三択。
男子メンバーのじゃんけん大会が始まった。
「いやっほー!」
「わーい!」
モエとナナミが歓声を上げて飛び込む。
「そろそろかな」
「何がですか?」
カナデの呟きに首をかしげるシオン。
すると転移の魔法陣が現れオトハ、シズネ、エンマ、ゼオンが現れた。
「お疲れ様……前来た時こんなに大きくなかったわよね?」
「ちょっとシオンと手加えたかな」
「共犯にしないでください……」
「夏までいるのは無理そうだから、ってわざわざオアシスで水遊びするとは思わなかったわ……」
「まあいいじゃん、お姉ちゃん。私も泳ごっと!」
メニュー操作で水着に着替え、水の掛け合いをしているモエ達の中に飛び込むオトハ。
「他のメンバーは?」
「忙しいみたいで。どっかの誰かが調子に乗って祭とかするから……」
溜息をつきながらも遠慮する気は無いようで、エンマがいるせいかかなり気合の入った水着に着替えたシズネはエンマの手を引いて水辺へ走っていった。
「……姉さん、水着は?」
「ああ、忘れていた」
そのまま入ろうとしたゼオンがシオンに止められている。
「あ、そうだ。みんなアイスと飲み物はこのクーラーボックス(というよりも冷蔵庫)に入れてるから勝手にとってね?」
声をかけるとはーい、と返事が返ってくる。
シオンも今はゼオンの世話を焼いているので一人でゆったり浮かんでようと思ったところで背後から攻撃を受けた。
「ひゃっ!?ちょ、え?オトハ!?」
「前々から思ってたんだけど、なんで私だけ胸無いのかな?発展途上なだけ?」
「いや、それはわかんないけど、とりあえず胸揉むのやめてくれる?」
「大きさならシズネお姉ちゃんかお母さんの方が大きいけど、お姉ちゃんのが一番綺麗な気がする」
手をはなす気配はない。
背後で誰か倒れた気がしたが、そんなことを気にしている余裕はない。
「……それはいいから早くはなしなさい!」
「わ」
オトハに脚をかけて水に沈める。
「ぷは!もう、冗談だってば」
「いや、オトハ超マジな目してたよ」
横で見ていたモエがそういう。
「なんだとー!私よりないくせに!」
「ええ!?そんなに変わらないでしょ!?ねえ、イーリス!」
「だからなんで私に振るんですか!?」
標的が変わったようで安心したのも束の間。
水面が盛り上がり水柱がいくつも吹き上がった。
「えええ!?」
「ごめん、私も試して見たら意外とできて」
どうやらシズネの仕業らしい。
とりあえず、はじめの10倍以上の大きさになった泉(というかちょっとした湖)をどう隠すかを考えるカナデだった。




