風の魔剣士 -21-04-
「なんでオレが王都なんだよ」
「今更文句言うなよ」
「オレも神殿守って、カナデちゃんに感謝されたかった」
「そんな下心持ってるから王都に飛ばされたんじゃねーの?」
「あの、大群が来てるんですけど」
「ああ、そうだった」
隊員の一人に促され、剣を抜くヨウとタロウ。
「数どれぐらい?」
「3万ぐらいでしょうか、他の所に比べれば少ないです」
「じゃあ楽勝だな」
「待て、アレはどうする?」
タロウが魔物の軍勢の一番前を悠々と歩いてくる男を剣で指して言う。
「……どうすっかなぁ」
「おい」
「とりあえずオレが止めるから、掃討の指揮権はお前に委譲するわ」
「大丈夫か?体力が数万あるから一人じゃきつくないか?」
「何とかして見せる」
愛用の剣を構え、魔人へと突進していくヨウ。
「オラァッ!」
真っ直ぐ頭を狙って斬りかかる。
しかし、腕で受けられ、止められてしまった。
「どんだけ皮膚硬いんだよ」
「39位、イーガ。鋼のイーガ」
「……硬化魔法か……これは不利だなぁ」
一度距離を取り、再度攻撃を仕掛ける。
こちらは剣、向こうは素手。
ヨウの斬撃を避けることもせず受け続けるが、一向に体力が減る様子はない。
攻撃を仕掛けて隙だらけのヨウの体に拳が入る。
「ふん!」
「ぐぇっ……お前、腹はダメだろ、あ、ごめんちょっと待って、吐くわ」
内臓がいかれたのか吐瀉物に赤い物が混ざる。
「内臓が逝ったか?」
「はあ?これは昼飯のミートソースだよ」
意味のない虚勢を張る。
「魔法剣V mode:Sylpheed」
構え、風を纏わせる。
「行くぜ」
踏み切り、まっすぐ懐へ。
腹を目掛けて刃を走らせる。
「ぬ!?」
「はっは、ちょっとダメージ通ったぞ……これで1%とか泣けるわ」
「予想外だ」
ヨウとしては胴体を二つに割るぐらいの気持ちで切りつけたのだが、硬すぎて刃が通らずほんの少し皮膚を裂いただけで終わった。
「まだ終わってねぇぞッ……おわっ!?」
拳の振り下ろしを間一髪で躱し、地面に転がる。
「このヤロウ……首落としてやるぜ」
「無駄だ」
真っ直ぐ首へと入ったヨウの突きはやはり皮膚を少し裂いただけで止まってしまう。
「どうなってんだコレ、はぁ」
「喰らえ」
「ちょっ、まずっ!?」
思わず剣で受けるが、剣は粉々に砕け、そのままヨウの体へと拳は通った。
バキッ、っという音を立てた後、ヨウの体が3メートルほど飛ばされる。
「チッ、おいおい、冗談じゃねーよ」
剣の柄を捨て、膝に手をついて何とか立ち上がろうとするも、思った以上にダメージは大きく崩れる。
「まず1人」
頭を潰す打撃がヨウへと届く
「何やってんだお前は」
事はなかった。
「な、に……?」
黒く細い剣がイーガの肩を貫いていた。
「……ちょっと休憩だよ、見りゃわかんだろ?」
今度こそ無理やり体を起こすと、口元の血を拭った。
「血、出てるぞ」
「だからミートソースだって、それよりなんでお前の剣アレ斬れるの?」
「ああ、カナデさんにつくってもらった」
「おいおい、そんな話聞いてねぇぞ」
「大丈夫だ、お前以外の隊長は全員知ってる」
「おい」
緑色のポーションを一息に煽ると瓶を投げ捨てる。
「はぁ……お前予備の剣とか持ってねぇ?あと、もう行っていいぞ?」
「一人でやれるのか?」
「余裕余裕」
呼吸はかなりおかしく、吐血を繰り返している。
「見た感じ肋骨バッキバキに折れて肺に刺さってるよな」
「そういう演技だって。それより早く行かねーと王都潰れる」
「……しかたねーな。これ使え」
ひと振りの剣を取り出し、地面に差す。
「なんだこれ……」
「お前用の魔剣……決して渡すの忘れてたわけではない」
「お前な」
剣を抜き、3度ほど振る。
「まあこれなら余裕だわ。早く行けよ、手下A」
「うるせえよ」
タロウが魔物の掃討に戻る。
「さて、ポーションも効いてきたし終わらせますか」
「剣が変わったところで」
「あーあ、あの剣お気に入りだったんだぞ。まあこれが手に入ったから全然惜しくねーけど」
剣に魔力を込める。
「魔法剣VI mode: Anemoi」
剣が風を纏う。
「今度こそ真っ二つにしてやるぜ」
「やってみろ」
重い体を魔法で強化し、より速く。
必殺の一撃を放つ。
「行けッ!」
「!?」
ヨウがイーガの体を通り過ぎ、剣を払って鞘に収める。
イーガの下半身から上半身がゆっくり滑り落ちた。
「人型のもの殺すのって思ったより後味悪いな……」
そうつぶやきながら頭をかく。
「さて、正直限界だがあの大群どうすっかな……」




