龍の谷 -20-05-
少し苔生した滑り易い岩場を進んでいく。
どうやらここだけはある程度の水辺がどこかにあるようでコケ以外にも植物がみられ、いくらか気温も低く感じる。
そしてより感じるものといえば、
「どこからかはわからないけどすごい殺気が……」
「竜がどこかに潜んでいるんでしょうか?」
カナデの呟きにクロエが返答する。
そしてカナデのすぐ後ろを歩いていたアスカが弓を構え、深い谷の反対側の岩壁にむけて放った。
ぎゃあ、という声と共に岩だと思っていた部分が谷底に落ちていく。
「あんな感じで擬態してますよ?」
「……撃ち落とさなくてもよくなかった?」
一番先頭を歩く星影(人型)がじと目でアスカを見る。
太陽もある程度遮られるため不快な暑さはないが、この殺気を受け続けるのも辛い物だと考えてたとき、星影が手で後ろを制した。
そして前方を見ながらつぶやく。
「道間違えたかも」
「何やってるのよ……」
前方はかなり開けた空間になっており、まさに竜の楽園。
数頭の竜が寝そべり、空にも翼を広げて舞う飛竜の姿が確認できる。
「引き返せますか?」
「いえ、もう気づかれています」
こちらに気付いた竜たちがこちらをじっと見ている。
「……全部倒せるかな」
カナデが刀を抜きながらそういうとすぐ前の星影が全力で止めに入る。
「ちょっと待って!なんかいつもより荒っぽくない!?」
「そうですか?」
「カナデさんはいつもこんな感じですよ?」
リゼットとアスカが顔を見合わせながらそういう。
「……そういえばあのバカにも容赦なく切りかかってたわね」
「で、どうするんですか?」
クロエが星影にそう尋ねると、星影は深くため息をついたあと龍たちを見る。
そして手を打つ。
一度。
二度。
三度。
すると岩陰から巨大な老龍がのそのそとこちらへ向かい始めた。
道中にいる龍たちは道を開けていく。
「ひさしぶりね。長老」
星影がそう声をかける。
「……お主、天上神の怒りに触れて冥界に堕とされたのではなかったのか」
「女神様に拾ってもらったのよ。それよりココ通っていいわよね?」
「それは構わんが…………ヒューマンか?」
カナデの方を見てそう言う。
カナデ、そしてスズネもこれといった異種族の特徴はない。
「私はシルフです」
「私はそこの冥龍の主」
「……ずいぶんと若い冥王じゃな」
「そうね。私の1/10も生きてないわね。あ、力を示せとか言わない方がいいわよ。長老なら勝てるだろうけど、龍族の数減らしたくないでしょ?」
「歴代最強のお主がそういうか」
「まあ戦ったことはないけど、愚弟は制限下とはいえあっさり負けたみたいだし」
「……あの無天龍がか?」
どうやら私は馬鹿みたいに強いから喧嘩売らない方がいいよ、という旨の話をしているらしい。
何と失礼な。
「納得しないんだったら私がカナデと戦ってあげるけど?」
「む?」
「はぁ?」
ちょっとやりたかった、という意志の籠った視線を感じた。
「結局どういう方向で話が進んでるんですか?」
会話の内容をイマイチ聞き取れてないらしいクロエが尋ねる。
「良くわかんないけど。とりあえず私と星影が軽く戦う感じ?」
「そうそう」
その方向で無理やり話をまとめ上げた星影が笑顔でこちらを向く。
「大丈夫。殺しはしないわ」
「龍の峰の封印下以外では龍にまともなダメージを与えることはできないって聞いたけど」
「そういう説もあるわね。高位の十三天龍に限るけど事実よ。ちなみに私は覇天龍。地上では一番強いわよ?」
「あはは……」
思わず苦笑い。
「カナデさん、もしかして今一番危機的な状態じゃ……」
「そうかもしれない」
「最終手段として全員でかかるというのはどうでしょうか」
クロエが提案する。
「それは本当に最終手段になりますね。おそらく向こう側の竜もすべて参加することになるでしょうから」
クロエの案はスズネの発言によって棄却される。
「とりあえずだけど、スズネさんは私が戦っている間に全員連れてこの部屋越えちゃって」
「なるほど、了解しました」
スズネに転移珠を2つ握らせる。
「どういうことです?」
リゼットが首をかしげているが気にせずカナデが前に出る。
「待たせたわね」
「本気で行くわよ?」
「……殺しはしないんじゃなかったっけ?」
「殺さないわよ?……たぶん」
星影の呟きに静止した後、再起動。
両手に刃を構え、魔法陣を展開していく。
「じゃあ、軽く遊んでみよっか」
刃を前にカナデが走りだす。
対する星影は龍の形状を取り吼える。
牙と刃が交差する。




