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女神の箱庭I =カサナルセカイ=  作者: 山吹十波
第19章 揺らぐ王国と異族の誓い
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紅い雫 -19-13-

シオンからハルトへメールが送られてくる。念話という手段も考えられないほどに緊迫した状態なのだろうか。

内容は、


『魔人出現 lv186&68 増援もtむ』


余裕がないのか名詞の羅列に誤字もあるが、それほどに彼女が焦っていることが良くわかった。

ハルトはすぐにエイダイとカケルを走らせる。


「無事だといいですけど」


「カナデなら勝てるだろ……って言いたいところだけどLV186はちょっとな」


ハルトから指示を受けてからすぐに転移門に向かう彼らだったが、シオンがメールを送ってからすでに10分近く経過している。

これは手が空いているメンバーを見つけるのに手間取ったからである。


転移門を潜りアリオの街へ。2人ともゲーム時代に訪れているため転移は可能である。

ただし、見覚えのある街並みは存在せず、街の各地では煙が上がり、門は崩れ、街の中央には城がそびえたっている。


「ぐっちゃぐちゃだな」


「元からあまり整理されてはなかったですけどね」


「カケル、探せ」


「りょーかい…………………アリオ街道を北にしばらく行ったところに……まずいです」


「なんだ二人とも体力減少(イエロー)にでもなってるか?」


「二人とも体力危険(レッド)です」


「……急ぐぞ。ハルト!」


『なんだい?』


「7・8番隊を送れ!カナデもシオンも赤だ。場所はアリオ街道を北」


『……了解。できるだけ死亡してほしくはないものだしね』


「オレたちでも倒せるかわからん。早くしてく……おわっ!?」


進行方向で凄まじい光が吹き上がった。


「なんですかねアレ」


「しらん。とにかく急ぐぞ」


3分後。カナデたちがいると思われるエリアに到着する2人。

風上からは濃い血の臭いが流れてくる。


「おぇ……これはキツイ」


「どこだ……カナデ!シオン!」


2人がまず見つけたのはカナデの制服だった。

血が染み込み胸から腹にかけてが大きく裂けた上着。

風に飛ばされたのか砂まみれで転がっていた。


「こいつは……」


「嫌な予感が……」


次に見つけたのは血だまりの中の潰れた球状の何か。ピンポン球ぐらいの大きさで真っ赤である。

しかし、赤の下に白と、青の瞳があることはなんとなくわかった。


「もしかしなくても目ですよねこれ。うぷっ……」


こういうものに耐性がないのかカケルは嘔吐を繰り返している。


「……シオンか?くっそ……」


その時点で後ろから全力で駆けてくる7・8番隊の面々が現れる。


「エイダイ隊長!……ここは」


「追いついたか、もう近いぞ」


エイダイの声に全員武器を構える。

そこから少し進んだ先、人2人分の臓物と血が散らかる場所。


「……っ!?」


しかし、見覚えのある顔ではない。


「あそこです!」


アスカが指差す場所には人が座り込んでいるように見えた。

砂を含む風に靡くのは銀髪。


「シオン!」

「シオンさん!」


一同が駆け寄るとシオンは唇の前に人差し指を立てた。

見るとシオンの膝では血塗れのカナデが眠っている。


8番隊のメンバーが急いで駆け寄る。


「大丈夫です。回復は終わっていますから」


顔の右半分を真っ赤に塗られたシオンが微笑む。


「お前、眼が……」


「大丈夫です。抉り出されるのはもう経験したくありませんけど……」


已然として目を瞑ったままシオンが答える。


「それじゃあ、あそこに転がってたのはシオンさんの眼球……」


カケルが顔を青くする。


「消えてないんですね。カケルさん、焼いておいてください」


「了解、しました」


シオンが目を開く。


「安心してください。目なら頂きましたから」


そこには見覚えのある赤い瞳がある。


「それって……」


察したアスカが言葉に詰まる。


「大丈夫ですよ。カナデさん自身のは既に再生しているはずです。私の瞳はどうなるかわかりませんが、放っておいたら青に戻る可能性もありますし」


「無茶するな、お前ら……」


「とりあえず救援ありがとうございます。魔人は私の眼の件で激昂したカナデさんが一人で倒しました」


「マジかよ……」


「とりあえず移動しましょうか。ツバサさん、カナデさんを運んでください」


「わかった」


ツバサが意識のないカナデを抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこの体勢だ。

一行は街道という名ばかりの砂の道を歩きアリオへと戻る。

アリオに入ると心配したアナが駆け寄って来たが、何とか宥め、転移門を通ってスペーラへと帰った。



次にカナデが最初に見た光景はこちらを覗き込むシオンの顔だった。

どうやら自分のベッドにいるようだが、頭に体温を感じるので膝枕をされているのだろう。


目を開いたこちらをこちら嬉しそうに見つめるシオンの右頬を撫でる。


「よかった……でもごめんね」


シオンの赤い瞳を見ながらそういう。


「いいえ。私はカナデさんと同じ色を得られてうれしいですよ」


「………シオン、おかしくなってない?」


「ええ!?」


体を起こそうとするがうまく力が入らずもう一度シオンの膝の上へと戻る。


「そういえば私血塗れだったけど……」


「安心してください。私が綺麗に洗いました」


「……すごく不安。変なことしてないよね?」


「何のことでしょうか」


「……まあいいや。もう一回お風呂入るから手伝って」


「喜んで」


「……いやだからそういうのが不安なんだって。しかし、ここまで体に負担かかるとは思わなかったな……………ってなんで私、下着だけ?」


シオンに手を貸してもらいながら布団から出た自分の姿に驚く。


「服を着せるのは案外難しくてですね……一応頑張ったんですけど」


「……もういいや、さてお風呂入ったらもう一眠りしようかな」


「そうですね。ゆっくり休んでください」


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