魔の邂逅 -19-11-
「カナデさん、アレは……」
掲示板を閉じ、すでに撤退を開始する王国軍の方向から歩いてくる2人の影を見る。
「待ってて、解析するから」
すぐに解析を行う。
神眼の効果からもアレがまともな存在ではないことはわかっているし、前線にいる獣人たちが遁走を開始している。
「魔人ヴァリアー、レベル186……魔王軍列席19位……」
「……どうやってここへ!?」
「レベル差があり過ぎてステータスが読み取れない。ただ、HPは10万ぐらいある」
「私のHP、1000ほどしかないんですが……」
「とりあえず出ないと、アリオが潰されそうだね」
「はい」
シオンと共に城の屋根から飛び降り、屋根を伝いながら北側へと走る。
アリオ軍は立ち向かわず順調に撤退している。好戦的なバカかと思っていたがそうでもないらしい。
「もう一体の方は76位・魔人アーネスト。レベルは68」
「私とほぼ同じってとこですかね」
「いやだなぁ、戦うの」
「話し合いに応じてくれるかもしれませんよ……」
荒野の真ん中で対面する。
「なるほど、今代の女神か」
「どうやって結界を越えて来たの?」
「結界?あのビリビリする壁か」
「あれは辛かったっすね」
「それはお前が弱いからだ」
どうやら強い魔人には効果はないらしい。
「自己紹介しよう。オレはヴァリアー。魔王直属部隊に所属している」
「オレはアーネストっす。クピディタス様の部隊に所属しています」
びしっと敬礼をするアーネスト。
「観光にでも来たの?」
「いや、魔王様に戦争でも引き起こしてこいと言われてな」
「へぇ……魔王様も暇なんだね」
カナデはため息をつく。
とりあえず、内乱を唆したのはコイツらのようだ。
「それと、可能な限り殺してこいと」
「そんな雑多な命令しか出せないとは器が知れますね」
シオンが挑発するように首を振る。
「アーネスト、ここで女神を仕留めれば褒賞がもらえるぞ」
「マジっすか」
「ああ、50位ぐらいまで上げてもらえるようオレが掛け合ってやる」
「じゃあ、オレやるっす!」
アーネストが拳を構える。両手にはナックルがはめられている。
「という事だ、ここで散れ」
ヴァリアーも腰に差した短剣を構えた。
「……シオン、増援を。さすがに無理。特に19位の方は二人掛かりでも勝てるかどうか……」
「もう呼びました」
「とりあえず、アーネストの方は頼んだわ」
「お任せください」
カナデは両刀を、シオンは薙刀を構える。
最初に動いたのはシオン。
「究極魔法《月夜の天幕》」
朝日が昇り始めていた空が黒く染まっていく。
「行きます!」
踏み込んだカナデが鋭い一閃でヴァリアーを無理やりに移動させ、アーネストとの距離を空ける。
「甘い!」
魔人が腕を振り上げ短剣がカナデの首を狙う。
「まだまだっ!」
突き出された左腕を掴み、軸とし側頭部めがけて蹴りを放つ。
「うぐっ!?」
魔人でも脳が揺れるとダメージはあるようだ。
「襲・木賊、襲・柳」
スピードを重視した光・(雷+風)の刃で追撃を行う。
しかし、敵も甘くはなくギリギリのところで躱され、かすり傷程度しか与えることはできない。
「かすり傷で1500ポイントか、何時間かかるのかな」
「今度はこちらから行くぞ!」
耐性を低くした突進。
腹への一閃をバックステップでギリギリ躱すが、足を払われバランスを崩す。
そして、追い打ちをかけるべく刃を構える。
「しまっ……」
「行くぞ!」
「カナデさんっ!」
翼を使った高速移動でシオンがカナデを攫う。
しかし、かなり無理な行動だったため、シオンも無事とはいかず、翼に深く傷を負い、さらに地面に突っ込んだ衝撃で全身を打ちつける。
「痛っ……」
「墜天使とは珍しい。持ち帰って剥製にしようか」
悠々とこちらを見てそんなことを言っているヴァリアーめがけて、カナデの瞬刃が飛ぶ。
「ほう……」
あれだけの奇襲をしても皮膚を少し裂いた程度。
次に用いたのは投げナイフ。
刀を構え、突進すると同時に20ほど放つ。
「小賢しい!」
ヴァリアーはナイフを全て弾くか避けると考えていたが、そのすべてを受けきり、攻撃のモーションに入り受け身の取れないカナデに対して全力の斬り上げを浴びせた。
「カナデさんっ!?」
レイが作った簡単には壊れないはずの制服が無残に切り裂かれ、血が溢れ出る。
「きっつ……」
「まだだ!」
傷口への容赦ない蹴り。
「ぐぁ……ううっ」
地面に転がされ、背中を痛打。
出血量は思っていたよりも多いようで思考はまとまらず、体を動かせない。
HPは残り30%。対する相手は90%残っている。
「死ね」
カナデの心臓目掛けて突き出される。
しかし、それは目的を達することなく宙を舞った。
「はぁっ……はぁっ……」
軋む体を無理やり動かしたシオンは肩で息をする。
「アーネスト!貴様は何をやっている!」
「すいません、ヴァリアーさん閉じ込められましたっ」
ヴァリアーが視線を向けると光の結界に閉じ込められたアーネストが目に入る。
「貴様には後で罰を与える。そして、小娘。お前にもだ」
斬りおとされた手を拾うと傷口にくっつける。
どうやら手はくっついたようで握ったり、開いたりを三度ほど繰り返した後、自分の血に塗れた短剣を拾い上げる。
未だ動けずにいるシオンの首を掴み締め上げる。
「簡単に死ねると思うな」
シオンの右眼へ短剣が突き刺さる。




