森の民の光 -19-06-
エルフの里・ポロスにて待機していたオトハの元にハルトから連絡が入る。
いくつか返答を返すと念話を終え、真剣なまなざしでこちらを見る長老たちを見る。
「ライナルト王はこの里の独立を認めるって」
「おお!意外にも話が分かるではないですか」
長老以下エルフたちが歓声を上げる。
「ただし、今大規模なクーデターが起きていて、すぐに調印できるような状況じゃないらしいよ。この一帯を治めてる領主は反逆者とするみたいだから潰してくれたら報酬も払うって」
「そうですか。それでは、戦いましょう。一刻も早く故郷を取り戻したいですし、ここの領主の横柄な態度は気に入らなかったのです。まあ、結界の効果からほとんど顔を合わすことはありませんでしたが」
「私は直接は手伝えないけど……まあこれぐらいはいいか」
そういうとオトハは魔法陣をいくつも展開し、エルフの戦士たちを強化していく。
「ついでに女神の加護も与えておいたから、命は落としにくくなってるはず。それでも死ぬときは死ぬから気を付けてね」
「ありがとうございます光の女神・クラン様」
「オトハでいいよ。なんかむず痒くなるし。それより、外の森では里を探して兵たちがうろついてるらしいよ。エルフ迫害を止めてた王様が居なくなったから好き勝手し始めたみたいだね」
ちなみにこれはスズネの影からの情報である。
そろそろ、戦いに出向こうかというときに、転移門から現れる1人の少女の影。
「!?……オリーヴ!どうして帰ってきた!?」
「お爺様!私もお手伝いします」
「ダメだ!お前は私の跡を継いでこの里を守ってもらわねばならん。危険な戦場などに立たせられるか!」
「しかし!私だって里のために役に立ちたいのです!次期長として指名していただけるならなおさら!」
終る兆しの見えない言い合いをオトハが止める。
「オリーヴ・ノーマン……いや、オリーヴ・スピル・リアフォレスト。どうしても戦場に立つの?」
「はい!」
「仕方ないなぁ……あんまりやり過ぎると姉さんたちに怒られるんだけど」
オトハはオリーヴの額に口付けを落とす。
「今から1時間だけあなたは傷つくことはないよ。だから1時間で終わらせてきなさい」
「……ありがとうございます!皆さん、私に続いて!」
戦士たちが声を上げ、銀の弓を持ったオリーヴに続く。
「多分、金でしか動かない私兵ぐらいなら誰も死なずに終わると思うけど」
「全員無事で帰ってくれればいいですが……」
「最悪頭だけでも残ってたらお姉ちゃんに頼んで再生してもらうけど」
「……あまり物騒なことは言わんでください」
オトハと長老がそんな話をしていた頃、戦士たちは森を駆けていた。
樹の間を、樹の影を、樹の上を、この場での戦闘を知り尽くしたエルフならではの動きで敵を翻弄しながら確実に1人ずつ仕留めていく。
「アスカ先生に教わった弓をこんなことにも使うのは申し訳ないのですが……」
その先生も敵の大将の眉間をぶち抜いたりしているのだが。それは知らない方が幸せだろうか。
体制を崩した戦士の一人が今まさに、敵によって斬り付けられそうになっている。
「危ない!」
オリーヴの放った矢は一直線に走り、剣を持つ鋼の籠手を貫いた。
「助かりました!姫様!」
オリーヴに救われた戦士が叫ぶ。
「魔法行きます!ブラストショット!」
右手を貫かれたままの敵に風弾を撃ち込み昏倒させる。
「みなさん!このまま一気に畳み掛けます!」
長年の不満を募らせたエルフたちの猛攻は一気に森を抜け、精霊の湖の湖畔に建つ悪趣味な屋敷を破壊しつくした。
「そろそろ1時間ですね、姫様」
「はい。それでは撤退します。樹魔法の使える者は何人か残ってここを森に還してください」
「わかりました」
数人が魔法陣を展開し始める。
「姫様、コイツは?」
必死に命乞いする領主であった男を掴んで戦士が言う。
「……どうしましょうか」
「私が預かるよ」
どこからか突然現れたオトハが男の手にスキル封じの手錠をかける。
「ライナルト王の名前であなたは指名手配されてるから、クーデターを一掃するまでスペーラの牢屋で、全部片付いたら処刑かな」
「なんとか!命だけは!」
「同じこと言ったエルフを何人殺したのかいえるかな?」
「わ、私が殺したわけではないぞ!」
「はいはい、あとは断頭台で聞くからねー」
オトハが領主だった男を引きずりながら消える。
「…………」
「姫様、里に戻りましょう。長老も心配しています」
「……そうですね」
これで手を出そうと思わなくなったのか、それとも他の所で何かあったせいで余裕がなくなったのかこの後王国からの攻撃はなかった。
「すまないな、オリーヴ。そして良く皆を率いてくれた」
「いえ、私はまだ未熟ですし、お爺様に教わらねばならないことも多いです」
「そうか」
「ですが、今は力を手に入れるのを優先させていただきます」
「……もう行くのか」
「はい、これからも講義がありますから。それに、私がしっかりと力を身につけられることを証明すれば、他の子たちも行きやすいでしょう」
「わかった。しっかり学んでくるといい。オトハ様にあったら感謝を忘れないよう」
「わかっています。それでは」
既に空が白み始めているがオリーヴは自分の今いるべき場所へと戻る。
とりあえずアナが起きる前にシャワーを浴びなければと考えながら寮に走る




