疾く、動け -19-05-
前方にスペーラの街の灯が見え始める。
先ほど通過したプリマよりもはるかに明るい。
『カケルさん、門の前にラルフ降ろしても大丈夫?』
『あー、ダメです。そっちは騎士崩れの片づけしてるんで……エイダイが一人で』
『罰?』
『そんなところです。結界といてあるんで港の方にお願いします。それとメンシスの方に話は着いてるので転移門を使ってください。教会の方で匿ってくれるそうです』
「星辰、港の方に降ろして。結界解けているらしいから」
『あ、言い忘れました。一応説明があるので自警団本部の会議室に全員お連れしてください』
『了解。なんか辛そうだからそろそろエイダイ手伝ってあげてね』
空の上から数百人を相手にする修羅を見ながらカナデが苦笑いを浮かべる。
『カナデさんにお願いされてしまったらしかたないですね。ちょっと行ってきます』
港に到着し、王妃たちを降ろし、そのまま星辰には帰ってもらう。
不安げな表情の2人と、ハイテンションなラルフを引き連れて自警団本部へと入る。
「おお、無事だったか!」
「怪我はないか!」
王と王太子がそれぞれの妻に駆け寄る。
「さて、思ったより思い切ったことしてくれましたねぇ」
ハルトがため息をつきながら言う。
こちらを心配して駆け寄ってきたシオン(着替え済み)の頭を撫でながらカナデが質問する。
「これからどうしますか?ほとぼりが冷めるまで王様をここで匿う……のは難しいですね」
「影からの情報ではコリンズたちの行動に反対した貴族たちが街を出て行ってるらしいですが」
影って……とつぶやくカナデだったがその呟きは無視される。
「その人たちはどこへ?」
「ビリードを目指す者が半数、残りはプリマからスペーラかマーレに向かっている模様です」
「カナデさん、ビリードに行って彼らの支援を。できれば神殿を解放してあげてほしい」
「了解です」
「ヨウ。プリマ方面からこちらに来る貴族や王都から逃げてきた冒険者が押し寄せるだろうから彼らの整理を」
「おう、わかった」
「エイダイさんたちには引き続きサイフラ平原の掃除を、シオンさんはメンシスまで王妃様たちを送り届けてからカナデさんに合流してください」
『もう限界だが、わかった』
「わかりました」
「シズネさんは6番隊とゼオンを貸すからマーレ方面に話しつけてきてくれる?」
「わかったわ。エイダイとエンマが居れば何とか持つでしょうし」
「僕もいるしね」
「「「「「「「……………」」」」」」」
「なんだよその反応!」
ライナルト達は呆然としているが気にせず話を進める。
「キクロさん。王国の貴族の子女を集めて現状の説明を。ただし、王様の行方などは話さないでください」
『任された。というかフィリーネとフィーネに丸投げしますが』
クロエの抱いているクマらしき生き物のぬいぐるみが喋る。
「……念のためヴィクターさんもお願いします」
「……わかった」
ヴィクターが部屋を出ていく。
「とりあえず今はそれだけ、追って連絡するけど落ち着いたら一回帰ってきてね。あとカナデさん、ギルドにも一応伝達を。混乱の対処ぐらいは任せても大丈夫なはず」
「わかりました」
『ツバサ、悪いけど今から全員集めてギルド前に集合』
『わかりました。掲示板で何となく状況は理解しています』
『お願いね』
「さて、じゃあ頼んだよみんな。一週間で片付けよう。ライナルト王もそれで構いませんか?」
「あ、ああ」
一斉に部屋から出ていく、部屋から出ると同時に外でスタンバイしていた彼らの隊員が一斉に移動する。
『エイダイ、応援いるかい?』
『カナデがカケルたちを動かしてくれたから今のところは大丈夫だ』
『そう、限界来たらエンマが代わるから』
『大丈夫大丈夫。もう全部片付いた。今、武器と防具の残骸拾い集めて水魔法と地魔法で隠蔽しているところだ』
「『そうか』……カナデさん、武具の残骸錬金術の部室においておいて大丈夫?」
「はいどうぞー。それでは私も出ますね」
カナデが部屋から出ていく。
まずはギルドへ。
ギルドはいつも通り人でごった返していたが強引に前に入る。
「アイリス!急ぎだからメリルさんとカミルさんを呼んで」
「え!?カナデさん!?わわ、わかりました!」
アイリスが中に引っこむ。
そういえば忘れてたけど男装のままだった。
すぐにメリルとカミルが現れる。
「ごめん2人とも。ちょっと上まで来て」
「はい!」
「了解です!」
2階の部屋に入り、これまでの事と今後の対応について話す。
「そんなことになっていたとは……」
「とにかくここは任せてください」
「ごめんね。何かあったらエイダイかハルトさんに。最悪今日は早めにギルド閉めちゃってもいいよ」
「了解しました」
2人に後を任せて、ギルドを出る。
「カナデさん……?」
「アスカ、みんなも。……ああ、この格好ね。ちょっと待って」
いつもの制服へと着替える。
リゼットあたりから少し残念がる声が聞こえた気がした。
「さて、行こっか。詳細は走りながらで良い?」




