混ざり合う思念 -19-04-
「カナデ様、お話良いですか?」
笑顔のラルフがカナデに声をかける。
「ええ」
カナデが頷き、ラルフの元へと向かう。
その間もシオンはしっかりと右腕に張り付いている。
「今日のお姿もお美しいです」
「……性別も関係なしですか」
「あなたの姿に惹かれて求婚してしまった愚かな私の事は忘れてください。今は信仰心と神への愛で生きています」
「……完全に宗教にどっぷりつかってますけどカナデさん変な暗示とかかけてないですよね?」
「うん……」
「……それで、そちらの方は」
「……婚約者らしいです」
「そうです」
カナデは困惑しながらラルフの問いに答える。
そしてシオンが平然とそれに乗っかる。
「……まあいいでしょう。それで……っと、誰だ?」
ラルフがカナデの後ろから近づく人物を睨む。
「お話の邪魔をしてしまって申し訳ありません、ラルフ王子。それと、スペーラの大臣様」
絢爛に着飾った女性が一礼する。
「ミリアか……何か用か?ダンスなら断ったはずだが」
「それでは、どちらかお相手が決まっているのですか?」
「それは……」
そう言い淀むとカナデの方をちらっと見る。
『カナデさんに相手頼む予定だったみたいですね』
『ああー、残念だね。今、男だし』
『そういう問題ではないと思うのですけど』
『いや、わかってるけど何となく認めたくないものがあってね』
カナデは苦笑いしながら隣のシオンを見る。
「まさか、こちらの方の婚約者をお誘いする気ですか?」
「いいえ、そっちでは……そのようなことはしませんよ。残念ながら今日は来ることができなかったようで」
「そうなんですか」
本当に残念だ、という表情でこちらを見ている。
「そんな目で見られてましても……」
「カナデさん、せっかくですから踊りましょうか。王子もそちらのご令嬢とお話があるようですし」
「え、うん」
シオンがカナデの手を引いてホールの真ん中へと向かう。
オーケストラが奏でる音色に合わせてステップを踏む。
かなり自然な動作で男性パートを踊るカナデと完璧にこなすシオン。
シオンの表情は楽しげで、それを見てカナデも自然と笑顔になる。
2人の持つ”神格”の効果もあってか周囲の人間の視線を集める。
もっとも肝心の二人は気づいていないようだが。
曲が終わる。
それと同時にカナデとシオンは部屋の端へと移動する。
「思った以上に目立ってたようですね」
移動しつつもずっと集中する視線を感じながらシオンが言う。
「まあ、ハルトさんたちは奥に入ってるみたいだし、できるだけ私たちが視線を集めておいた方がいいかもね」
「なるほど、やっぱり囮ですか…『…そういえばここスキルが発動しないんですけど』大丈夫ですかね」
「外には軽装備の騎士は居たけど、正直あんなのが役に立つのかな……」
「普通に暗殺狙ってくる輩とかいると思うんですけど、スキルが発動しないからって安心しすぎではないでしょうか」
「まあこんな情勢だからもう少し気を使ってもいいと思うけどね。念話の方はスキルじゃなくてシステムだから使えるみたい」
そんなことを話しているとハルトから念話が入る。
『思ったよりコリンズ公爵がやる気みたいでね。こっちは王様と王太子連れて逃げるからラルフ王子と王妃と王太子妃を探し出してくれる?あとできれば側室の皆さんも』
『そんなに探せませんよ……』
といいつつもシオンに解析の魔法珠を手渡す。
「側室さんが2人いるみたいだから探してきてくれる?」
「わかりました。カナデさんもお気を付けて」
一瞬で侍女の制服に着替えたシオンが足早にホールを去る。
「さて」
ラルフと王妃、王太子妃のいるホール奥へと向かう。
『星辰。グロリア城の5階の窓から人を3人ほど落すから拾ってくれる?で、その後私も脱出するから』
『構わないが……どこの窓だ』
『多分北側のどこかよ』
『……善処しよう』
王子の周りには依然として令嬢たちが集まっている。
「さて、どうしたものか」
とつぶやいてはみたものの、何かいい案が出て来るわけでもない。
『カナデさん、僕たちは先に出るよ』
『了解です。私の方はギリギリまで時間かかりそうです』
そのとき、貴族たちが動いた。
「逆賊どもを捕えろ!」
ホールの扉が破られ、武装した騎士?が突入する。狙いは私かその他王族のみなさん。
『カナデさん、こちら側室2名、侍女5名を逃がします』
『了解。もう派手に動いてもいいよね』
ちなみに令嬢たちは既に散ってしまい、王子は抵抗、王妃と王太子妃は捕縛されている。
私にはあまり興味ないみたいだが、そろそろ動かないとまずい。
相手に比べて身体能力が高いラルフもさすがに3人がかりでは苦戦している。
とりあえず、レイさんの作ったこのつま先と踵に金属が入っているブーツで騎士服の横腹を思いっきり蹴ってやった。
「ぐぇ……!?」
「なんだ!?」
「貴様ッ、邪魔をっ……がはっ!?」
2人目も片づける。
呆然とする3人目をラルフが片付けるのを確認した後、王妃と王太子妃を取り戻す。
「さてと、皆さんあの窓まで走って!」
窓まで先にたどり着いたラルフが窓を蹴破る。
「ここからどうしますか!?」
「ええ、私を信じて飛んで」
「バカな!?この高さだぞ!?」
しかし、ラルフはためらいなく飛び降りる。
信じすぎるのもどうかと思うぞ。
「それでは、失礼いたします」
女性2人を抱え、窓から飛ぶ。
落下。
という事はなく、すぐに白い背中に降り立つ。
「きゃあああ……え!?」
王太子妃が悲鳴を上げるが風を切る感覚に驚きの声を上げる。
「星辰!とりあえず高度を上げて!あと、ラルフは?」
「ここです!カナデ様!」
星辰の前足にしっかり捕縛されていた。
「このままスペーラ……といいたいところだけど……」
『カナデさん、私の神殿で王妃さんたちは匿うことにしたそうです。ラルフ王子はスペーラにお願いします』
『了解!「星辰、とりあえずスペーラに向かって」
「わかった」
状況を理解していない2人と思いのほか楽しんでいるラルフを連れて夜の空を飛ぶ。




