光の洗礼 -19-01-
「よーし、みんな。ポーションは持った?じゃあ、出発!」
オトハが元気よく転移珠を発動させると、集まったメンバーが光に包まれた。
「……で、ここどこ?」
同行していたシズネが口を開く。
「ん?森」
「それは見ればわかります」
シオンが冷静にツッコむ。
「この辺りに確か……」
何もないようにしか見えない空間を探り始めるオトハ。
完全に奇行だが、ある一点に触れた瞬間空間に波紋ができた。
「あった!こっちだよ、着いてきて」
そういうと波紋の向こう側に消えて行ったオトハ。
「とりあえず追ってみる?」
「……そうだね」
妹の奔放さに少しあきれながら、姉二人と隊員たちが続く。
何もないようにしか見えない空間をくぐり抜ける。
「……ほんとだったのね」
「嘘ついてると思った?」
先行していたオトハに睨まれる。
後に続いてぞろぞろとやってくる隊員たちに驚き、エルフたちが集合し始める。
「なんだ?」
「よそものか!?」
「見たことないエルフだな」
「おい、ヒューマンがいるぞ」
「あ、私ヒューマンじゃないですよ。安心してください」
殺気を向けられた気がしたので早めに弁解するカナデ。
「オトハ様、この方々は?」
長老にしか見えない老人が現れ、オトハに問いかける。
「ん?私の姉と姉と……あとは姉の部下の皆さん?」
一応紹介されたので会釈をする一同。
「それで、何をなさる気ですか?」
「私の神殿を解放しに来ただけだから、終わったらすぐ帰るよ。大丈夫、長老には迷惑かけないから」
やはり老人は長老らしかった。
私の神殿?と首をかしげる長老を無視してオトハが話しを進める。
オトハは既に目で見える位置にある神殿の方向へと歩き出し、皆もそれに続く。
「生活水準をみると他の街よりは劣る気もしますが、至る所から魔法の気配がしますね」
「キクロさんの研究室もこんな感じだよね……」
シオンとカナデの話にオトハが入る。
「そうそう、なんか簡単な魔道具がたくさんあるから買ってキクロに渡したことあるよ。あと、街の北側に転移門もあるよ」
すでにここへ訪れているオトハは楽しげに案内してくれるが、住民の警戒は続いている。
「さて、それじゃあ神殿に行こうか」
「思ったんだけど、神殿に直接転移できなかったの?」
「なんかこの村に転移できないみたいで神殿にも難しいかな」
すぐ近くに見えていたように思えた神殿だったが、案外遠く、20分ほどゆるやかな坂を上がることになった。
「しかし、闇神殿を掃討するのにあれだけの人を使ったのに、今回たった20人ですけど大丈夫でしょうか」
タツヤの問いにナナミが答える。
「今回はカナデさんや副団長やオトハ隊長がまともに戦闘に参加してくれるし、あの時は突然だったし」
「まあ、最悪龍を呼んでもらって薙ぎ払えばいいか……」
「それもそうね」
そうこうしているうちに到着。石段を一歩上がった瞬間に魔法陣が無数に展開され守備兵士がわらわらと湧き出した。
「オトハは間を縫って中に入ることだけ考えてなさい。カナデ、御剣の舞と月読の舞」
「え、舞うの!?強化魔法でいいじゃん……」
「全体に掛けるんだからこれの方がはやいし持続時間が長い」
《舞》のスキルによって攻撃力を底上げし、闇属性を付加させる。
「はあ……恥ずかしい」
「綺麗でしたよ、カナデさん」
「ありがとね、シオン。それじゃあ、オトハ。5分で道開いてあげる」
「さすがお姉ちゃん、頼りにしてるよ!」
そういうと同時にオトハは駆けだす。
前方ではシズネとエンマが隊員を率いて道をこじ開け始めている。
「シオン、モエ。装飾曲発動させるね。系統は闇で」
「わかりました」
「なんか技名言われると微妙にむず痒いんですが」
ヨウジのメモによると、同系統の付与をするで付与効果を上昇させる。といった感じで書かれていた気がする。
「襲・秘色と襲・椿」
「大薙刀・紫水晶」
「短刀術・狂骨」
それぞれ闇系統の付与された魔力を纏う。
カナデ達が飛び込み、一気に道を開いていく。
その後を他の隊員たちが地や氷の魔法で無理やり壁を作っていく。
「オトハが中に入ればいいから後退の事は考えなくていいよ!だから後ろ側潰されたら無視!」
シズネが叫ぶ。
既に囲まれている状態。しかし少しづつ前進はしている。
「きりないねこれ……」
「広範囲の攻撃で一気に焼き払うか?」
「溜めるのに時間かかるでしょう?」
「それぐらいなら何とかしますよ、っと」
タツヤがエンマを守る位置に移動する。
「カナデさん!団長が溜め終わるまで持たせてください!」
カイトが叫ぶ。
「わかったわ。じゃあ重奏で。オトハも参加して」
「わかった!……で、この技名は誰がつけたの!?」
「ヨウジさんですよ」
「完全に“響”とか“奏”とか意識して付けたね絶対」
そういうもののしっかりと自分の仕事は果たす。
「光火装・飛輪」
「大薙刀・黒玉」
「襲・百合」
「火、光、闇、地、雷がとられちゃったから……短刀術・水虎」
「じゃあ、大弓・凍風」
「えええ!?ちょっとまって!」
ナナミも参加しようとしたが重複させてはならないので焦る。
「扇術・銀葉」
過剰攻撃力で周囲に集まった木偶人形を滅していく。
「すご……でもそんなに一気に消滅させたら……」
シズネの読みは当たり、倍増した。
「ああー……忘れてた」
「どういうこと?」
「カナデさん、簡単に言うと、これ倒すと増えるんです」
「そういうことは先に言って!」
カナデに叱られる一同。
先ほどよりも圧倒的に数が多い。
先ほどの技の応酬で扉の見える位置までは移動できたが、まだ距離はある。
「どうしよ……」
「とりあえず、MPは限界です!」
ひたすら壁を作り続けている隊員たちが叫ぶ。
「オトハ、一気に駆け抜けろ」
そういうとエンマが剣を振り下ろした。
剣から迸った豪炎は、扉までの直進を焼き尽くしオトハは一気にそこを駆け抜けていく。
「そんな大技あったっけ?」
ふらつくエンマを支えながらシズネが問いかける。
「神剣II・迦楼羅だ。一度打つと24時間MPとSTRとINTが1/1000になる」
「1/1000ってほぼ0になるじゃない……まあそれだけの威力はあるみたいだけど」
黒く焼け焦げた元は白かった廊下を見る。
オトハがガーディアンを止めたようで白い人形の姿は消えていった。
「とりあえず、神殿の修理からだね……」
魔法などで被害を受けた壁や柱は危険だ。
「私の神殿の時はできるだけ壊さないように配慮してたみたいですからね」
「とりあえず私が適当に時間回帰していくけど、もしかしたらガーディアンも一緒に蘇生されるかもしれないから覚悟しといてね」
カナデの声に全員従う。
特に問題は起こらず、スムーズに修復を終えた。
ポロスの街に戻ると取り囲まれ崇められるという事件が起きたが、オトハを置き去りして撤退することで何とかやり過ごした。




