魔力の進歩 -18-11-
魔法研究機関の研究棟にあるシオンの研究室に今、珍しく客が来ている。
その客というのは、ハルトとスズネ。
この街のトップである。
研究室でほのぼのとお茶を楽しんでいたアレットとナツコは非常に焦りつつ、様々なことを考える。
どうしてこんなタイミングでこんな人たちが来るのか。
なぜ、こういうときに室長であるシオンはいないのか。
そして、危険を察知してか真っ先にシオンを探しに行く名目で逃走したパーシヴァルの行方。
「いや、別に取って食おうってわけじゃないから落ち着いて」
「大丈夫ですよ。この男に手は出させませんから」
「……まるで僕が節操なしみたいに言うけど、浮気とかしないよ?」
「ええ、わかっています」
なぜか惚気ているようにしか見えないが、とりあえず、どうしてこの有名人2人がここへやってきたのだろうか。
「えっと、とりあえず君たちが発見した身体強化の魔法について、資料というか記録全部見せてくれる?」
「えええ、あ、はい!わかりました!」
アレットが立ち上がり、ガサガサとファイルをあさり始める。
『いや、それじゃなくて、その右の赤いやつ……あ、そうそうそれ!』
と念話でアレットに声をかけるナツコだが、顔は緊張で固まっている。
「なんでそんなに緊張しているの……?」
「ハルトさんは一応国のトップだからではないでしょうか」
「一応っていうのが引っ掛かるけど……」
その時、扉が開く。
パーシヴァルが帰ってきたのか、それともシオンがやってきたのか、そちらでもいいと思ったがどちらでもなかった。
「あれ、ハルトさん、何やってるんですか?」
クロエとアルマが部屋に入ってくる。
「クロエさんこそ、何しに?僕は強化魔法について資料を貰おうかと」
「ああ、シオンならもうすぐ来ますよ待ち合わせしてるんで、っていっても開発したのシオンじゃなくてその子たちですけどね」
「ああ、そうだったんだ。じゃあ話は直接聞こうかな」
「この後お茶に行く約束なので手短にお願いしますね」
「……お茶に行くって、さっきまでここでお茶してた気がするけどね、彼女たち」
結局、ハルトに記録を渡し、いくつかの質問に答えるとすぐに終わった。
終始彼女たちは緊張したままだったが。
終ったと同時ぐらいにシオンは部屋に現れ、パーシヴァルも戻ってきた
「あれ?ハルトさん何やってるんですか?」
「君たちが報告書とか一切出さないから僕が周ってるんだよ」
「そうですか、お疲れ様です。というか報告書出してもキクロの所で止まるのでそこを何とかしてください」
「……なるほど。書類管理はクロエさんに任せようか」
「え!?なんで私がそんな面倒な……」
「クロエ、本音」
アルマに注意される。
「と、とにかく秘書みたいな事やってるフィリーネに任せたらどうでしょう。それがいいと思います。私は自分の事で忙しいので」
「また惚れ薬ばら撒く気?」
「うぐ……大丈夫です、今度は完成させるので」
「全然信用できない……」
「あああ、そうだ。スズネさんもご一緒しますか?カナデさんがお菓子作ってくれてるので」
「いいんですか?じゃあ」
「え?僕もいっていい?」
「ダメです。男子禁制です」
がっかりした様子のハルト。
「アレットさんとナツコさんも行きましょう。強化魔法についてはハルトさんが適当にしておいてくれるでしょうし」
「すみませんハルトさん、それではっ!」
女性陣が出て行ったせいで静まり返る研究室。
「……とりあえず、ヴィクターにでも聞くか」
ハルトはため息をつきながら階下にあるヴィクターの部屋へと向かう。
「ん?どうしたハルト。スズネは一緒じゃないのか?」
「ああ、女子会とやらに呼ばれていったよ?」
「なるほどなぁ……で何用だ?キクロなら知らんぞ」
「いやいや、今日はキクロの話じゃなくて、身体強化の魔法についてなんだけど」
「ああ、それなら。ちょっと待てよ」
ヴィクターが棚からファイルを取り出す。
「第2研究室のアレットと第3研究室のアルマの発見だな。無魔法や古代魔法の魔法陣をベースに系統をかけ合わせていったら偶然できたらしい」
「また危険なことを」
「新しい魔法陣ができるたびにキクロに持って行っていたからな。そのころは爆発が絶えなかった」
「一時期やたらと爆音が聞こえていたのはそれか……まったく」
「まあいいだろう。かなり大きな収穫だぞコレは」
「まあそれが完成したせいでまたこの世界においていけない兵器が生まれたんだけどね」
「カナデの響啼って武器か。アレは確かに凄まじいな。そして問題は7番の隊員がたくさん持ってることだな。異常な戦力だ」
「もともと強い彼女たちを女神なんかにしたもんだから誰も勝てないよ。そういえばエイダイが昏倒した奴、原因わかったの?」
「んー……医者じゃないから良くわからないが、気絶の状態異常とは違うみたいだ。エイダイは状態異常が効きにくい“半龍”だからな」
「でも、脳震盪っていう事象がこの世界には認知されてないだろうし、もしかしたらそれを知ってるってことが弱点になるかもしれないね……」
「なるほどな。ならば他にもいろいろ試してみなければ……」
「人体実験とかやめてね?」
「ああ、善処する」
そういうと、ヴィクターは立ち上がりファイルを片付ける。
その足でコーヒーを淹れマグカップを二つ持って戻ってきた。
「いるか?」
「ああ、ありがとう」
口をつける。
「……っ!?甘っ!?」
「そうか?」
平然と激甘コーヒーを啜るヴィクターだった。
「え?真剣に体が心配になるレベルだけど……」
「ストレスが多くてな。甘い物が欲しくなる」
「……なんかゴメン」
ハルトはコーヒーを無理やり煽ると部屋を出た。
ヴィクターにはしばらく休暇をあげようと決意したという。




