鈴の音、遥かに -18-02-
会議の終ったあと、各自自分の仕事に戻ったため、部屋にはハルトとスズネだけが残っている。
緊張が切れたのか、疲れた様子でテーブルに伏せるハルト。
「……最近寝てないでしょう?」
「まあね。カミサマも無茶な仕事押し付けてくれるよホントに」
「管理する数が数ですからね……せめて外交ぐらいは私が」
「いや、君の能力を疑うわけじゃないけどね。やっぱり、それは無理だと思う」
「外交官として派遣して納得するかどうかですか……まあ、よく考えれば音羽さんたちは外交はしてませんものね」
スズネが新しく紅茶を入れる。
「まあ、それが普通に通るぐらいには“学園”を通して成立させるけどね。あ、ありがとう」
スズネの入れた紅茶を受け取り、口にする。
「そもそもなんで国の運営なんて……そのせいで王国は混乱してますよ?」
「それはね」
そういうと、ハルトは空中にマップを投影した。
「レスクリービアのマップですか?少し広いような……」
「こっちが本物。圧縮したって言ったでしょ」
「あれ本当だったんですか……」
自分の分のお茶を用意し、簡単に片づけを済ましたスズネがハルトの向かいに座る。
「……いや、待ってください。広いというか明らかに途中で切れてませんか」
地図の西端を見てスズネが指摘する。
「うん。まだ、誰にも言ってないんだけど、ここの不自然な切れ目が門だよ。そして、この向こう側には大陸が続いている」
ハルトがそういうと、マップが縮小され、西端から続く大陸が現れる。
「さっき、王国が混乱してるとか言ってたけどね。魔王領をであるこの西半分の大陸を支配できるのはやっぱり王国になってくるだろう。そうなると現状でもギリギリのバランスが壊れるよね。だからこそ今のうちに割ってしまえばいいかと思って」
「魔王のみ潰して再封印とはいきませんか」
「無理だろうね」
「そうですか……」
「実際の情勢はどんな感じなの?」
「うちの街が気に入らない貴族たちが、王に対して抗議してみたり、クーデターまがいのものを民衆に起こさせたり……。これを機会にとポロスが独立しようとしているようですね。それと、アリオにも動きがあります」
「アリオというと……獣人の街だったかな?」
「はい。貴族連中はなんだかんだ言っても獣人差別を引きずってるみたいですし、情勢は不安定なのでポロスが動けばそれに乗じて独立戦争でもしかけるかもしれませんね」
「思ったより厄介なことになってるみたいだね……部外者の僕たちがこんなに引っ掻き回していいものか……」
「そういえば、キクロさんの 人造人間は何に使うんですか?意味もなくそんなグレーなもの作らせてるわけでもないでしょう?」
「まあね」
紅茶で口を湿らす。
「この世界を去る時に僕らの代わりとして置いていこうかと思ってる。今の研究では所有者の能力の30%を引き継がせられる」
「なるほどそういう事でしたか」
「僕だって帰りたいからね。それに、君をこの安全とは言い難いことに巻き込んだのがバレたら白銀の小父さんに何を言われるか」
「それなのに、こちらにはちゃんと対策を取ると」
「らしくないかな?」
「いえ、それもいいと思いますよ」
少し不安そうにするハルトに、ふふっと笑いながらスズネが答える。
「残りの火・風・地・雷・氷の神殿攻略はそれほど手間取らないだろうけど、いくつ妨害が入るか……」
「①魔物の大量発生、②王国の内乱、③アリオの独立戦争、④未だに正体の掴めないニックス帝国、ってところでしょうか」
指を折りながらスズネが数える。
「やることが多すぎて死にそうだよ」
「残念ながら死は終わりではありませんよ、この世界では」
「そうなんだよ……どうして神様からの依頼なんて安請け合いしちゃったのかな、僕は」
「まあ、それは完全に自業自得というか、全部終わったら皆さんに土下座するんですよ?」
「まあ、考えとくよ。父さんがそんな姿を見たら泣くかも知れないね」
そういうとハルトは次の予定のために立ち上がる。
「次は何のお仕事ですか?」
「いや、今日は終わり。そろそろ寝るよ」
「お疲れ様です。添い寝しましょうか?」
「……思考能力おちてるから何でも頷いてしまいそうだ」
若干足元おぼつかないハルトは苦笑するスズネに支えられながら久々の休息へと向かう。




