冥府の王 -17-06-
唐突に飛び出した求婚に処理落ちする1人と1匹。
「なんだ、聞こえなかったか?私の妻になれと……「あー、もう。わかったからあなたは黙ってなさい」
冥龍が言葉を遮り、黙らせる。
「私こっちの世界に来てからやたら求婚されるんだけど、なんか変な魔力でも振りまいてるのかな……?」
「まあ、性別があまり関係ない龍の私からしてもアルモ様は魅力的ですからねぇ……」
バラスを無視して、女同士?の会話に入る。
「それで、答えは……「まあ、その話は置いておいて」
バラスの言葉を容赦なく斬る。
「帰りたいんだけど?」
「私がお前をおとなしく帰すと思うか?」
「全く思わないけど……冥龍、どうやったら帰れる?」
「地上側と冥府側からゲートを開けば帰れます。地上は無理ですが、こちら側からなら私が開きますよ?」
「なるほど……向こう側に星辰がいるし、誰かしらが開いてくれてると信じて、冥龍、ちょっと送ってくれない?」
「お任せくださーい」
「待て待て、冥龍。私の妻(仮)を勝手に逃がすな!」
「はぁ?攫っといて求婚とか頭湧いてるんじゃないですか?今時魔王でもそんなことしませんよ?」
「お前、私は主だぞ!?なんだその言い種は!」
猫と偉そうな男が口喧嘩している。
なかなかシュールな絵だ。
「そういえば、魔王の魂リリースしたとかなんとか……」
「ああ、あまりにも冥府に来る魂が少ないのでな。少し殺戮を」
「まあその魔王のせいでいくつかの世界が吹き飛ぶ危機なんですけどね」
「はぁ……少しは箱庭を管理する側の責任とか考えてくださいよ。あなただって一応神の一柱なんだから」
「……そんなことはどうでもいい!妻になるのか、ならない「なりませんけど……」なんだと……」
食い気味で断ったカナデだった。
「……私の許可なしに冥府から出れると思うなよ」
「今、ハデスに攫われたペルセポネの気持ちがすっごくわかる。……ところで冥龍、アイツの許可っているの?」
「残念ながらー」
「じゃあ、アイツを倒せば……」
「!!……ナイスアイデアです!ついでに私もここから出してください」
「おーけー」
膝に乗っていた猫を肩に乗せ、カナデが立ち上がる。
「おい!冥龍!なぜそっち側なんだ!?」
「いや、正直バラスの事苦手なんだよね……それに冥府の現状を見るにそろそろ世代交代かなと」
曰く、主が働かなすぎていてもいなくても変わらない現状らしい。
「なんだと!?」
「補佐官のリュディとかいいと思うな私。正味、彼がほとんどの業務やってるし」
「え!?滅相もありません!」
顔を隠して立っている一人が声を上げる。
「散々言ってくれるな。だが、彼女が私に勝てるとでも?」
「さあ?」
「さあ、って無責任な……」
でも、まあ。と言いながら刀を抜く。
「やるからには本気で」
「思ったよりも本気で殺しに来ている……!?」
「だってそうしないと帰れないんでしょ?やめとく?」
「いや、止めぬぞ。私が勝ったら妻になってもらう!」
バラスも禍々しいオーラをまとった剣を構える。
「剣を抜いてる時点で男としてダメな気がするけどね」
冥龍に言われ苦い顔をする。
「行くぞ!」
そう叫んだかと思うと、バラスの姿が霞み、数が増えていく。
「ふははは、これはすべてが実体を持つ分身。本物がわかるかな?」
「えっと……」
すっと、たくさんのバラスの間を縫うように移動し、一人の心臓を貫いた。
「これが本物だよね」
「ごふっ……」
口から血を吐き出す。
周りの分身が消えていく。
「何故……わかった……?」
「超感覚と神眼で本体の動きが読めたんだよね……」
「何だそれ……勝てるわけが……」
バラスの体が光となって消える。
「……えー、あれでもそこそこ強い神様のはずだけど、一撃か……。死んだにしては還元された魔力の量が少なかった気もするけど……。でも、とりあえず、アルモ様、冥王も兼任してくれる?仕事はリュディがやるから」
「こっちにはもう来ないと思うけどそれでいいなら」
「じゃあ、よろしくね。リュディ」
「え!?え!?えええええ!?」
「あ、ちなみに私は彼女に仕えるから」
「え?」「ちょっと待ってください!」
冥龍の発言にカナデも固まる。
「……やっぱ冥王の件はなしで」
「殺ったちゃったんだから責任とってもらわないと」
「マジですか」
「マジです。さあ、私に名前を付けるといいよ」
「星……星影でいい?」
「いいよ。じゃあ、帰ろうか地上に」
猫が龍の姿に戻る。
帰れるのだが、厄介なことを1つ抱えたカナデは少し暗い顔でその背に飛び乗る。
「え!?本当に行ってしまわれるんですか!?しかも、もう!?」
「どうせバラス働いてなかったんだから今までと変わらないでしょ?」
「……………そういわれれば、そうですね」
そういうと、業務に戻って行った。お疲れ様です。
「アルモさ「カナデでいいよ」カナデ。一切躊躇わずにバラスを殺したけど……」
「今更躊躇っても仕方ないしね。相当数のモンスター斬ってるし、魔王領に入ればもっと人型に近い奴らと戦うことになるだろうし、ここら辺で覚悟しとこうかと」
「なるほどねー。じゃあ、帰ろうか。いやー、地上に行くのは何千年ぶりだろうか……」
「星辰と喧嘩しないでね?」
「わかってるって」
紫黒の龍は真っ暗な空へと飛び立つ。
「現世の門」
真っ黒の空間が白色に切り抜かれ、スピードを保ったまま紫黒の龍はそこへ突っ込んでいった。




