地に落ちた翼 -17-01-
“それ”についてはもちろんハルトの所へすぐに連絡が入った。
「精霊の湖とティーモルの森の間辺り……神国国内のノクト墓地の一帯が滅んだそうだよ」
「確実にお姉ちゃんの仕業ね……」
「滅ぶって……」
緊急事態が起きたので既にルイザ達は帰らせている。
カナデからの連絡を待っているが一向に来ない。それどころか、メンシスにいる冒険者からマップから1つ名前が消えたという報告があった。
「とにかく行ってみるしかないか……シオンさん」
「了解です」
ステラやラルフも含めて問題の場所へ向かう。
多きく抉れた地面。
消える様子のない謎の白い焔。
そして、光の剣で地面に縫い付けられている黒髪の女性と闇の槍で同じく地面に縫い付けられている白金の龍。
何重にも拘束の魔法が駆けられているらしく、全く動けるような様子ではない。
それらの間辺りに立つのは見知った白髪の男。
「星辰。これはどういう事かな?」
「……カナデはどうした?戻ってないのか?」
「は?あなたと一緒に出て行ったでしょうが」
「そのあと、コイツらのブレスをまともに喰らったから転移したはずだが……やはり嫌な予感は当たっていたか……」
星辰が後ろに倒れる2頭の龍に視線を送りながら言う。
「……そういうことか」
エンマが何かを悟った顔でそうつぶやいた。
「……でも、戦神の加護がある以上死にはしないでしょう?」
ハルトが星辰に問う。
「同等の力を持てばそれを超えることも可能だ」
「同等というと……」
「神か……」
ステラの発言に視線は一斉にシズネに向かう。
「……え!?私今妹殺しの嫌疑掛けられてる!?」
「安心しろ。クティではない。人の生き死に関われるのは無神と冥王だけだ」
「めいおう?」
「そんなのいるなんて聞いてませんが?」
スズネがハルトを睨む。
「僕も聞いてないよ」
ハルトがいつになく真面目な顔で応える。
「それに神は死んでも冥府に行ったりはしない。世界に魔力として還元されるだけだ。ただその還元が確認できていない」
「という事はカナデさんはHPが全損しかけて転移するという事をファクターに冥王に攫われたと?」
「そういうことになるだろう」
「どうにかしてお姉ちゃんを助ける方法は!?」
オトハが星辰に詰め寄る。
「方法はある。冥府側とこちら側から同時にゲートを開ける。ただしこちら側からは闇魔法でこじ開けられるが、向こう側からはどうやるのかわからん。なにぶん冥府に行ったことがないのでな」
「とりあえず、門開いて待ってればいいのね?カナデなら何とかするでしょう」
「そうですね」
「君たち2人思ったより冷静だね」
ハルトがシズネとシオンを見ながら言う。
「まあ、カナデさんですから、自力で帰って来れる気がします。それより私たちにはやることがありますし」
どう見ても瀕死の龍を眺めながらシオンが言う。
「今のうちに試練とやらやってしまいましょうか。せっかくカナデさん用意してくれたことですし」
シオンの左手に光と共に鍵が出現する。
「……ちょっとまて。どうしてお前がそれを持っている」
シオンの手に現れた龍の峰へと至る鍵を見て、星辰が顔をしかめる。
「カナデさんが“複製”しました。女神しか使えないようなので、シズネさんお願いします」
「任せて」
シオンから鍵を受け取る。
「ハルトさん。速攻で黒龍倒してきますので神殿の掃除お願いします」
「……しかたないな。エイダイ、人集めて」
「7番隊も同行します」
「カナデさんの復讐はシオンさんに任せます」
星辰はため息をつくと右手を振り上げる。
その直後に、龍たちを地面に縫い付けていた魔法が解除され、ゆっくりと起き上がる。
「さて、行きますよオトハさん」
「うん。白い方は私に任せて」
シズネが鍵で空を切ると同時に3人と2匹の姿が消える。
「スズネ。3、4、5番隊も集めて。さすがにあの数のガーディアンは出し惜しみしてたら負ける」
「了解です」
「エイダイ。全滅させるのは不可能だけど、神殿内部まで道をつけるぐらいはできるかな?」
「切り開いて、結界で道を作っていくしかないだろうな。ヴィクターとキクロにも連絡を」
「そうだね。エンマはしばらく街を頼む。それと八番隊をできるだけ出してくれ」
「了解した」
ハルトから受け取った転移珠を使い街に戻る。
「さてと、僕も加勢しようかな」
「ハルトさんが戦うなんて珍しいですね」
「というかハルトって戦えるのか?」
「ひどい言われようだね……」
「海竜戦の時、武器スキルが低すぎて役に立たなかったのは誰でしょうか?」
「結局アレ全部オトハが倒したでしょ……」




