水の都 -15-03-
計画通り、二回に分けてメンバーを運び終え、改めて街を見渡す。
屋根の上から滾滾と溢れ出す水に、勢いよく水路を流れていく水。
「……思ったより水の都だね」
「それ皮肉?」
カナデのつぶやきにシズネがツッコむ。
「とりあえず、この水路をたどっていけばいいんだよね?」
「ええ、でも、地上の終点はわかってるからとりあえずそこまで行きましょう」
シズネを先頭に街の中を歩いていく。完全に怪しい集団だと思われているが、世界のためなので我慢してほしい。
「ここね」
ただりついた場所では、水路の水が勢いよく地下に落ちている。
「……高さとか大丈夫?というか帰れるの?コレ」
オトハの問いにシズネはさあ?という風に首をかしげた。
「……じゃあシズネさんたちからどうぞ」
「……え?ここは代表がどうぞ」
「えええ……「ご武運を」……へ?」
明らかにスズネに押されてそのまま落ちていくハルト。
「スズネさん、それはちょっと」
「大丈夫ですカナデさん。あれでもシルフなので死にはしないはずです」
『死ぬかとは思ったけどね!』
念話で応答があった。それを確認すると、順に中に飛び込んでいく。
ウォータースライダーのような水路を抜けると開けた空間に出た。
「ここからどうするの?」
「とりあえず、水も海の方に流れて行ってるし、北を目指そうか」
真っ暗な水路の中を歩いてゆく。足元は膝まで水につかっているので非常に歩きくい。
「うわ、なんか踏んだぞ」
「ん?どうしたのショウゴ。人骨でも転がってた?」
「いや、そういうのじゃなくて、なんかぐにゅっとしてた」
「ぐにゅ?」
超感覚で気配を探ると、確かに何かがいる。
「お義姉ちゃん、水で匂い薄れてるけど、音で判断するとスライム系の奴がいると思う」
「なるほど」
「いや、なるほどじゃないから!っていうかお義姉ちゃんって何?」
落ち着いた様子のカナデに焦るシズネ。
「ああ、モエはエンマの妹だよ?」
「ああ、そうだったの……じゃなくて、スライムどうするの?」
「お姉ちゃん、もう凍らせちゃったら?歩きにくくて仕方ないし」
他に特にいい案も浮かばなかったので、氷魔法を使える全員で水路を凍らせていく。
「……寒っ」
「でも、これで足場もよくなったし、急ごうか」
さらに10分ほど北上する。すでに位置的には海の下だ。
「天井が低くなってきた?」
「というか、行き止まりみたいだけど」
石の壁を叩きながらオトハがぼやく。
「カナデさん、これもしかして……」
「どうしたのシオン」
「下じゃないですか?ここから」
完全に凍りついている水を差してシオンが言う。
「じゃあ、降りてみましょう」
そういうとスズネさんがハルトの足元に火の魔法陣を描く。
「え?」
「火の檻」
「またっ……がぼぼぼ」
ハルトさんが水に沈んでいった。見た感じだいぶ深くまで潜って行った気がする。
「あってましたね、シオンさん」
「なんか私共犯にされたような気持ちなんですけど、ハルトさん生きてますよね?」
「大丈夫じゃない?」
やはり、ハルトさんに続いて先へ進んでいく。
水中を進むこと10分。突然の強い光に目を覆う。
「つい……たの?」
水路から開けた場所に出ると、そこには空気があり、浮島のような場所を渡った先に神殿が建っていた。
「ここを渡れば……っっ!?」
シズネが浮島の一つに飛び移った瞬間、水面に巨大な影といくつもの小さな影が現れた。
「水龍!?」
「いや、違う」
「カナデさん、解析行けますか?」
「うん……小さい方がブルーシャーク。数は8。で、大きい方が海竜アビサス」
「龍なの?」
「亜龍とかそういう感じかな、さて、どうします?」
「1、3番隊はルイさんの指示でサメの方を殲滅して」
「「「「「「「了解」」」」」」」
「じゃあ、私たちであの大きなお魚を倒すの?」
「そうするしかないよね……っと」
地面が揺れる。シズネが後ろに飛び、最初の島に戻る。
「今度は何?」
神殿の奥からゆっくりと巨大な影が近づく、影はゆっくりと小さくなり、人型になった。
「あれは?」
「水龍……フルーエル」
そのまま水龍は水の上を歩き、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
『ハルト!!!』
『どうしたのエイダイ、今、サメと海竜と水龍に直面してて割とピンチなんだけど』
『そりゃすまん、それよりもだ。残ってる奴ら動かすぞ!ブレービス洞窟でゴブリン大量発生だ!このままじゃ、ビリードが滅ぶ!』
『わかった、できればすぐにでも帰りたいけど、こっちもそんなに余裕はない。任せたエイダイ』
『おう』
念話を終え、前を見直すと、フルーエルがゆっくりとこちら側に上がってきていた。
「初めまして、リツの娘たち。私が水龍。……ふーん、ソムニウムの奴もリツの娘を無の女神に選ぶとは、なかなか判ってるじゃない」
カナデの手を取りながら、なぜか自慢げにほほ笑む水龍。
「初めまして、女神アルモ。それじゃあ、試練を始めましょう。あ、他の皆さんはそこのアビサスとでも戯れていてください」
全員緊張で固まりながら、マジかよとという表情を作る。
「誰が気に入ったの?……って聞くまでもないか」
「そうですね」
水龍の手をはなすとカナデは姉の元に寄り、手を握る。
「!?」
「頑張ってね」
「え?ちょっと、どういうこと!?」
光と共にカナデの手に現れた、鍵のようなもので、カナデが空を切る。
強烈な光と共にカナデ・シズネ・水龍の三つの影が消える。
「なるほど、試練ってそういう事か」
「どういうことです?」
「とりあえず僕たちは、シズネ君が帰ってくるまで、アレの相手をしなくちゃいけない」
「……お姉ちゃんが帰ってこなかったら」
「……さあ?」
「縁起でもないこと言ってないで、行きますよ?」
スズネの声で全員が武器を構える。
アビサスの巨体が水面から飛び出し、戦いが始まった。




