犬耳男の陰謀 -Hidden Story-08- After:-13-03-
組合・建築部のノブヒロとショウジに突然仕事の依頼が入った。
「ちょっとさ、温泉掘ってくんね?」
自警団の4番隊の隊長のヨウとかいう男からだ。
「は?……別にいいですけど、一人用?」
「いやいやみんなで入れるような奴とか。金ならオレが出すから」
とりあえずと言って水晶貨10枚を手渡された。
「不足分は言ってくれ。その代わり露天風呂付きの温泉施設を作ってくれ」
「わかりました。設計はこっちでやって大丈夫ですか?」
「ああ、任せる。ただ露天風呂をつけてくれ」
それだけ言い残してヨウは去って行った。
「なんかいやな予感するんだが」
「奇遇だなオレもだ。まあ、金貰った以上はやらないとな」
結論から言うと温泉自体を掘るのは簡単だった。受注から3日目には既に掘れていた。その理由は基礎などを作る時に使っていた《掘削》スキルが《掘削2》に謎の進化を遂げたからである。さらに、ヨウジ頭取が嬉々として作ったドリルの活躍もある。
7日目、建物の骨組みが完成した。ヨウが勝手にチラシを配り始める。
10日目、外観はほぼ完成。内装に関してはニコル部長やレイ部長にお願いしてデザインしてもらった。
14日目、内装もほぼ完成。魔研のクロエちゃんとヴィクターさんに頼んで結界を張ってもらう。
15日目、完成。この日に事件は起こった。
「それじゃあ、完成を記念して、スタッフ全員に一番風呂を」
ヨウの粋な計らいで?お風呂を頂くことになった。途中で取得した〈温泉の達人〉という謎の称号のおかげでオレが掘った温泉はいろいろな効果があるらしい。
我ながらいい仕事をしたと、露天風呂でくつろいでいると、衝立の向こうから女性陣の声が聞こえる。
見えないとはいえ、緊張するものである。
「……時は満ちた」
「はあ?何言ってんの?頭イッたの?」
謎のつぶやきをこぼしたようにタロウが怒涛の攻撃をかける。お前もちょっと前まではこんな感じだっただろうが。
「おいおいタロウちゃん。温泉・女子・露天風呂といったら?」
「は?「ノゾキだろ!?」お前バカじゃねェの!?」
タロウが全裸のヨウに回し蹴りを決める。
やっぱり君は常識人なようだ。
ノゾキと言っても、ニコルさんとレイさんとクロエちゃんの手によって、この壁は鉄壁になっているのだけど。
そう思いながら衝立を眺める。
「まったく、落ち着けって。オレに任せろって」
「現行犯逮捕でいいよな?」
4番隊の他のメンバーに確認を取る。満場一致で賛成らしい。
「甘いな!お前たち。オレが簡単にばれるような方法でやると思ってんのか!」
「まあ、バカだからすぐばれるとは思ってる」
「甘い!オレのこの《透視》スキルがあれば!」
「なんでそんな屑スキルとったんだよ!」
「男のロマンだろ?」
「はぁ……もうどうなってもしらねぇよ。勝手にしろ」
タロウが室内の浴槽へ戻っていく。こいつらどっちが年上だったっけ?
なぜか、ヴィクターさんが手招きをしているので近くまで行く。
ヴィクターさんが発動させた結界の覆われる……ヨウ以外全員。
「よっしゃ、行くぜ……《透視》!………」
「…………」
「…………………」
「…………見えない、だと?」
『あのね、こっちまで丸聞こえだから』
ニコルの声が響く。
「げ」
『クロエちゃん』
『任せてください』
ヨウがすぐに逃げようとするが、影に足を取られる。
「これは……シャドウ・バインド……おのれタロウ裏切ったな!」
「いやいや元から仲間じゃねぇし」
『地獄の轟雷』
クロエの放った雷は正確にヨウに降り注いだが、瀕死のダメージを負いながらヨウは逃げ出す。
「一時撤退だ」
「動くな」
「へ?」
すでに一番隊によって包囲されていた。
ヨウはそのまま連れて行かれた。
風呂から出たオレたちを待っていたのは、説教だった。
曰く、こんなもの作ろうとする時点で疑え。
曰く、もっと真剣に止めろ。
曰く、今度やらかしたら連帯責任。
オレたちはもうアイツからの仕事は受けないと誓った。




