花の街 -02-01-
衛兵の立つ門をくぐり抜けると、整った美しい街並みが広がっていた。
門から見える大通りには武器、防具などの各種のショップや外観さまざまな宿(高そうなのから安そうなのまで)、酒場やレストラン、大通りをから逸れると、広い道の端で絨毯を広げ、自分の作った武器や防具を売る生産プレイヤーたちの姿があった。
うん。こういう風景が一番MMOらしいなって思える。
ここ【花の街 プリマ】はある意味初心者プレイヤーたちの本当のスタート地点でもある。
優秀なプレイヤー(というか高位種族のプレイヤー)を誘い込むべく、ここにギルドホームを構えるギルドも多く、王都が解放されていない現在ではプレイヤーたちの活動の中心となっている。
多くのプレイヤーたちが行き交う中、多くのパーティー申請(という名のナンパ)を片っ端から断りながら、目指すのは役所といわれる施設。
国から(一応、王の名で)出されるモンスターの討伐依頼はすべて各街、町、村にある役所(始まりの村のみ村長宅)を通して受けることができる。それ以外のクエストは原則としてその辺にいるNPCから受けられる。
役所で討伐系の依頼を片っ端から(ゴブリン20、ホブゴブリン5、ロックワーム10、ミルース5)まとめて受け、次に念願の剣を買うべくNPCの武器屋を見る。
後々、自分で作っていくつもりなので今のところはあまり高価なものは買わない。3000Gでブロードソード(ヒルトが手を守るように覆うタイプ・鋼製 STR +8)を購入し早速装備。
続いて防具。
今の布の服とスカートではダメージに耐性がなさすぎるが、鎧とか着るのはなんかいやなので魔法強化された服が手に入るまでは革製の装備で我慢しよう。
ということでステータス補正のない普通の服の上にいい感じのブランウンのレザーコート(CON +4)それと革のショートパンツ(CON +3)を購入(3500G)し早速装備。
さてスキルショップを覗こうかな…でもスキルスロットに空きないんだよなぁ…。
「かな…じゃないや、ベル!もう着いてたんだ。早かったじゃん」
はじめてプレイヤーネームを呼ばれた気がする…。
「姉さん!あれ?神殿にいったんじゃなかったっけ?」
「準備せずに特攻したら死に戻りしたから今から補給なの」
姉さんの横に立ってた大剣のお姉さん(身長高い)が答えた。
「直前の町で補給してもいいんだけど、生産職連中の武器も見たいしねー。あっ…そうそう、大剣がアンで弓がリリー、杖がゼオンね」
「ウンディーネって女性しかいないの?」
「たぶん。反対にイフリートは男しか見たことない。シルフとノームは両性あるみたいだけど」
「それよりその妹ちゃんの紹介してほしいなー」
そういったのはアン。…ウンディーネって大剣使うようなパワー系だっけ?
「この子はベル。私のリアル妹で第2陣から」
「第2陣って今日からでしょ!?どんだけ規格外なの!?」
「まあ種族がレアなんだけど、確実に騒ぎになるから今は言えない」
「まあ前例があるから無理には聞かない。聞かれたらハーフエルフとでも答えとくね」
「すいません。ありがとうございます」
「いいって。第1陣でグリゴリ引き当てた子はばれた途端大変なことになってたからねー…。最近またログインしてるみたいだけど、絶対パーティ組まないらしい」
「ベルちゃんも気を付けてね。大きいギルドは特にそういう種族欲しがるから」
と言ったのはリリーさん。なんか優しそうな人。
「まあ最悪スクのギルドに放り込むから大丈夫」
「まだその話残ってたの!?…って私の事はいいから!姉さんたちポーション買いに来たんじゃ?」
「ああ、そうだった。魔法メインで戦うから回復にまでMPまわせなくてさー」
「まあそのMP自体補給が間に合ってない気がするけど」
「あの辺の敵硬いから水属性じゃないとあんまり聞かないじゃん」
「氷は燃費悪いし」
「グリーンポーションとか使えばいいのに…まっずいけど」
「あんな高級品買えないわ…。素材自体は大したことないみたいだけど、道具生産の奴らが最前線にしか売らないから」
私の言葉に答えてくれたのはゼノンさん。姉さんと同じタイプだけどこっちの方が数倍落ち着いてる。
「…《生産:道具》持ってたわよね?」
「うん」
「もしかして作れるの?」
「さっきできるようになったよ?」
「今頼んだら作ってくれる?」
「素材そっちもちでいいなら」
「スライムゼリー(緑)と薬草ね?あと何かいる?」
「うーん…とりあえず味変えたいならなんか果物とか?多分できないことはないはず。調理スキルも持ってるし。あと素材は少し多めに頂戴。レベルとDEXの関係上、成功率100%じゃないから」
「わかったわ。というか果物なんてあったっけ?」
「【ドゥーロス山】に生えてたギルの実っていう奴ならいっぱいあるよ?」
「そんなのあったっけ?」
「アンはモンスターしか見てないもんね。私は弓だから周りかなり見るし。というかみんな援護しないまま倒しちゃうからぶっちゃけ暇だし。どう?これ。どう見てもリンゴだけど」
「確かにリンゴだねコレ……」
「でも味はマスカットっぽいかんじ」
「なにそれ……」
「……じゃあ、素材も受け取ったし、早速作ってくる」
「わかった。じゃあその辺で装備見て来るからできたらコールして?」
「りょーかい」
とりあえず近くにあった宿に入り部屋を借りる(24時間で100G、一週間借りると500Gに値引き)一階の食堂にあった飲料水を(勝手に)大量に貰い、部屋に入る。
はたして飲めた味のポーションができるかどうかは不安だがスキルを使う。アイテムバッグからいくつかアイテムを選択し、スキルを発動。MPが少し減り、手の中に光ができる。3秒ほどその白い輝きを放ち、手のひらの中に瓶入りのポーションができる。どうでもいいけどこの瓶はいったいどこからきたんだろう。
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グリーンポーション+ HP +30% MP +15%
EXP +8
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すこしいいのができた。念のため味見を行う。あのひどい味がどう変わったのかと思うほどに飲みやすい。従来のHPポーションの薬っぽさもないし、……これは売れる!
……というか売れすぎてハプニングになるから姉さんたち以外には売らないと思うけど。ギルの実を見かけたらたくさん収穫しておこう(主に自分用)。
その後、30個目の成功をしたところで(失敗6個)レベルが上がった。本格的にポーションづくりだけでレベル上げできるんじゃ…?MP消費激しいけど(一度の合成で5~8ぐらいの消費)。MPが少し回復するまで時間がかかりそうなのでスキルポイントを振り分ける。とりあえず失敗を減らすため《生産:道具》をLV 20まで上げる。残りから20ポイントずつを《剣術》と《魔法:系統・風》へ使う。スキルレベルが上がったせいかノーミスで残り20を合成。結構時間がかかってしまったので待たせてないか心配だ。
「姉さん終わったよー」
『早かったわね。じゃあそっちに行くわ』
5分もかからず宿の前に現れた【水妖の剣】の皆さん。
「ごめん。思ったより時間かかった」
「大丈夫。私たちが思ってたより遥かに早かったから。いったいMPどれだけあるの?で、ちゃんとできた?」
「まあできたっていえばできたけど……。できすぎたというか……」
「どういうこと?」
「まあ現物見て判断して」
フレンドの中からウルを選び(といっても2人しかいない)、50個のグリーンポーション+を姉さんに送る。
「……確かに成功しすぎてる。全然かまわないんだけど、これは市場に出てるんだろうか?」
「出てないと思いますよ。というかできることなら独占したいです」
「味はどうなったのー?」
「なぜかジュースみたいな感じになりました」
「レシピ出さないほうがいいわ。たぶんあなたにほとんど利益無くなるから。で、報酬だけど」
「別にいらないよ?素材出してもらったし、経験値もかなり稼げたから」
「本当!?ありがとう!ベルちゃん!」
なぜか私に抱き着くアンさん。曰く、お礼のハグらしい。そのまま頬ずりされる…姉さんたち見てないで助けてよ。
「素材こっち持ちじゃないときはいくら払う?これからも頼むと思うけど」
「相場ってどれぐらっ…アンさん!そろそろやめっ…むぐ!?」
「相場は1ビン1000Gってとこね」
「高っ!500でいいよ?」
「オーケーじゃそれで」
「それはいくらなんでも安すぎじゃない?」
「じゃあ700ね。アンそろそろ放してやって?目まわしてるから」
「わわっ、ごめんベルちゃん可愛くてつい」
「可愛いというかウルに似てキレー系だと思うけど」
「そろそろ行きません?」
「そうね。またねー」
「ではまた」
そのまま軽く挨拶をし、街の中心の転移門に歩き出す4人を見送った。




