魔溢レル -12-03-
神殿の入口あたりに降り立ったカナデたちが最初に目にした光景は、白い神殿の雰囲気とはまるで合わない黒い雲。雷を帯び、光っている。
「何この雰囲気……天気が悪いってだけじゃなさそうだけど……」
シズネの言葉に海の方を見たオトハが答える。
「多分あれのせいじゃない?」
海に面した崖の上にあるこの神殿からは、青い海が臨めたが、今はそれを覆い尽くすようなモンスターの群れがこちらに迫っている。
「なんで海の向こうからあんなに大量のモンスターが!?」
「この海の向こう側ってたしか……大陸があるとすれば門の向こう側ってことになりますが……」
「っていう事は……魔王目覚めちゃったの?」
「とりあえず迎撃した方がいいのか?」
エイダイの問いに答えたのは意外な奴だった。
「ふむ。さすがに我一人であれすべてを駆除するのは骨が折れるな」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「何を驚いている?」
「いや……うすうすお前が何者かは感づいているんだが、一応聞いとく。何者だ?」
いつの間にか混ざり込んでいた白髪・金の竜眼の男に尋ねるエイダイ。
「誰だと思う?」
「……………で、私たちは手伝った方がいいの?ソムニウム」
呆れ顔でカナデが訪ねる。
「お前たちの街を襲ったことで怒られると思ったが」
「こんな異常事態にそんなこと気にしてられるか」
エンマが静かに答える。そんなことって言い捨てて良いこともないよ?とハルトが叫ぶが、全員スルー。
「で、何があったの?」
「そうだな。簡潔に説明すると、西と東を隔てて女神の結界が消えかけている。というかほとんど消えている。主な原因はヘシオドスが弱っているせいだ。とりあえずお前たちはアレを一通り片付けてくれ。我は所用で途中までしか戦えない」
「まあ、倒せばいいのね?」
「全然見たことないモンスターばっかりですが、大丈夫でしょうか……」
「あ、それと。カナデはヘシオドスの所へ行け。神殿の奥で待っている」
「は?なんで私?」
「よくわからんが、伝言があるそうだ」
「来たぞ!」
翼竜の様なモンスターが神殿めがけて降下する。
「とりあえず行くだけ行って来たら?おねえちゃん」
「……うん。じゃあしばらく頑張ってね!」
カナデが神殿の中へ消える。
「送り出したはいいが、……この数はねーよ」
エイダイがぼやく。
「あなたとの戦闘のせいで結構満身創痍なんだけど?」
「我は主の命に従ったのみ。だが、足手まといになられても困る。しかたない回復してやろう」
金の光が全身を包み込み、HP・MPが回復する。
「とりあえず魔法で撃ち落とす?」
「それがよさそうね」
「カナデさんから魔法珠預かったのでとりあえずこれを投擲しましょう」
「……一粒で国落とせる魔法が詰まってるんだろ?」
「まあ、何が入ってるかはお楽しみという事で」
「あの神々の黄昏とかいう魔法はすごかったな。思わず死ぬところだった」
「ソムニウム。お前魔力デカいんだからこれに魔力全力でこめて投擲してろよ。見た感じ龍になる気ないんだろ?」
「人型の方が燃費がいいのだ。まあそれぐらいならしてやろう」
ソムニウムが一気に5つの魔法珠を起動し、モンスターの群れへ投げ入れる。
さまざまな属性の光がはじけ、群れの大部分を削る。
「これはすごいな」
「この調子ならすぐ全滅させられるんじゃない?」
「そうだね」
「いや、そうでもなさそうだ」
ハルトが魔法陣を展開しながら、海の向こうを見る。
まだまだたくさんの敵影を確認できた。
「マジかよ……」
「思ったよりも数が多いな……」
「倒しても倒しても次々やってくる……限ないわ」
「合成魔法で一気に吹っ飛ばすか?」
「ここにいるメンバーなら黄昏ぐらい撃てるかな」
「まあ、そんな魔法陣展開しきる前に神殿落とされるぞ」
「やっぱカナデさんがいないと無理か」
「エイダイ、神剣で行こう」
「行ってもいいが、お前もオレもしばらく使いもんにならなくなるぞ?」
エンマとエイダイがMPの配分を計算する。
「交互に行けばなんとか……」
「よし、じゃあオレから。神剣・皇騎!」
MPポーションの瓶を咥えながらさらに技を発動させるエイダイ。
「魔法剣Ⅳ mode : King」
光の弾ける刀身をモンスターの群れに向かって薙ぐように振るう。
一直線にモンスターが掻き消える。
「すごいじゃんエイダイ」
「もう撃てないぞ。MPも枯渇しきった」
「休んでろ。神剣・焔帝」
空を覆うモンスターに次は火の一閃が襲い掛かる。
「これで8割がた落ちたかな?」
「まだです!」
シオンが叫びながら魔法を撃つ。
海の向こうからは依然としてモンスターが飛来している。
「くそ!どうすれば……」
「ソムニウムは!?」
「ダメだ!いつの間にかいなくなってる!」
「おいおいマジでヤバいぜこれ」




