龍吼エル -12-02-
HPバーが6割を切ろうとして瞬間、全回復する。
これで3度目。
ペースはだんだんと落ちている。みんな消耗しつくしているのだ。
「これはまずいね……」
「とりあえずこのポーション配れるだけ配ってください」
ハルトに黒い液体の入った小瓶の山を押し付ける。
「なにこれ?」
「錬金術師秘蔵の秘薬です」
「………そりゃ効きそうだ」
その効果と味を知っているものはためらいなく持っていく。
が、初めて見たものには極大の抵抗がある。
「カナデさん。神々の黄昏撃ちましょう。限ないです」
「やってみる価値はあるけど、一撃で死ぬとも思えないんだよね……」
ハルトが全員に指示を送り、撤退させる。
「今思ったんだけど純粋な戦闘員って少なかったんだね」
「なぜかしらんが職人とガキばっかりだったからな」
「……!?ヨウ!?なんでここに!」
「エンマたちが補給に入ったから代わりに」
「中の様子は?」
「今のところ異常ナシ」
「じゃあいいんだけど」
目の前のカナデとシオンは次々に魔法陣を重ねて巨大な一枚の魔法陣を作り上げる。
「「神々の黄昏!!!」」
眼前の平原には抉られたような半球状の跡が残る。そこにあったものは完全に消滅していた。が、しかし、依然として空を舞う龍の姿があった。
「無傷!?」
「いえ、あの中でダメージを受けながら回復したものと思われます」
「無茶苦茶だ」
「おいおいウソだろ!?そんな奴倒せるのかよ」
他の冒険者たちにも動揺が広がる。
「やっぱり……まともにやっても勝てなそうだね」
「でもあれとどうやって話をすれば……」
「女神サマの所に直接乗り込んでみる?あの龍女神の所有物なんでしょ?」
「私が乗り込みましょうか?」
「カナデさんが?まあそれが一番早いんだろうけど、主力を失ってこの戦線が持つかどうか……」
「え?私ってそんな要になってるんですか?」
「当たり前でしょ。なにせ普通の攻撃じゃ1%も効かないんだから」
シズネがため息をつきながら答える。
「ここにいる全員でできる限り魔法陣重ねて黄昏とかどうでしょうか」
「下手すりゃ街ごと消えるからね?」
「おい、龍の動きがおかしいぞ……?」
ヨウの声で全員が龍に注目する。今までの攻撃方法とは明らかに違う物理攻撃の応酬。
「もしかしてMP切れとか?」
「龍ってMP:∞が相場じゃないのか?」
「とりあえず今のうちにいけー!」
「もしかしたら回復もできないかも」
「なるほど!お前天才じゃね?」
「よっしゃ一気にたたみかけろ!」
希望が見えたことによって一斉に全力攻撃が飛び交う。
龍の爪を、尾を、腹を、牙をよけながら冒険者たちは前進する。
誰かの攻撃によってHPは6割に達した。
しかし、回復は起こらない。
「いけるぞ!」
「このまま押し切れー!」
体力が5割に達した。
龍が天に吼える。
HPは回復した。
唖然とする一同。
「もう無理だろ!」
「誰だ回復できないとかいった奴!」
「とりあえず撤退だ!」
「そうだ撤退だ!」
「「勝手に退くな!」」
戻ってきたエンマと最前線のエイダイの喝が飛ぶ。
「無垢なる両爪!」
龍に向かって10の閃撃が走る。この攻撃でカナデのMPはほぼ0だ。
「カナデさん。大丈夫?」
「まあそれなりに……」
黒いポーションを喉の奥に流し込みながら答える。
その時、突然ソムニウムは空に渦を描きながら飛び去った。
「………え?何この終り方」
「来る時もいきなりだったが帰る時もそうだったな……」
「でもなんで急に帰ったの?」
オトハが首をかしげる。
「ちょっと見てこようか?」
カナデが魔法陣を開く。
「見るってどこへ?」
「神殿」
「あーなるほどね。神殿に何かあったら帰らざるおえないもんね」
ハルトがうんうんと納得する。
「私も同行してもいいですか?」
シオンが声を上げると、オトハ、シズネ、エンマ、エイダイも後に続いた。
「いいけど……なんでついてきたがるの?」
「いやだっておねーちゃんだけ行かせたらまた二段階ぐらいすっ飛ばして強くなって帰ってきそうだし」
「オトハに同じく」
「まあいいけどさ……」
足元に転移の魔法陣を描き、神殿へと飛んだ。




