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星神様  作者: 空花
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第三幕 「神様の心」

さあて学校がんばりまっしょい

 俺は、水無月のことが好きだ。


名前を忘れてしまった弟と同じ、恋をした。


初めて彼女に会った時に、一目惚れした。


ただ彼女が愛しい、自分だけのものにしたい。弟もこんな感覚だったのだろうか。


彼女を見たとき、本当に驚いた。こんな忘れられた神の下に人間が来たこともそうだが……あの黒髪に大きな翡翠色の瞳――まさに空姫の生き写しとも思えるほど、そっくりだった。


 もしかしたら、彼女の血縁なのかもな……。


 いや、今はそんなことは関係ない。彼女が生きていたのは五百年も前の話だ、彼女はもういない。彼女がもし生きていたら、鬼に飲み込まれた弟を助ける手掛かりにならないかと思っていたが……もう、無理だろう。


 もう、弟のことは諦めた。名前を忘れてしまった俺は、もうすぐ消えてしまう運命。できる限り残った時間を楽しみたい。そう、水無月といられる時間も少ないんだ。


 左目を失って力がほぼ無くなり、ただただ一人で過ごした孤独の五百年間、俺の世界から色が消えてしまった。空姫は居なくなり、弟は鬼と成り果て、大事なものを失い続けて……目の前に見える色は――まるで水墨画の様だった。


 だけど彼女が目の前に現れてから、俺の世界には色が戻った。残り少ない時間の中で、恐らく最初で最後の恋をした。


 初めての恋。まだよく分からないこともあるが、恋というものが何か知ることができただけでも、満足だ。


 多分彼女は特に何も思ってないんだろうな……


 俺が恋というものを自覚したのは、不覚なことに……水無月が熱で倒れた、六月二十八日の今日だ。


 ずっと前から、彼女を見ると止まらない動悸に離れたくない、またはそばにいたいという気持ち、急に体が熱くなったり、いつもだったらアッという間に過ぎていった夜も、永遠と感じるくらい長く感じた。


 彼女を独占したい……! 愛おしくてたまらない、離したくない!!誰にも渡したくない! 他の誰かと一緒にいてほしくない!!


 ……どうやら俺は、かなり独占欲が強いようだ。こんな気持ちで彼女と一緒にいたら、ろくなことにならないだろう。それに、独占欲なんて関係ない。


 俺は気持ちを伝えられなくとも、彼女の隣にほんの数時間居られるだけで、とても幸せだ。


 気持ちを伝えて、受け入れられなかったら、せっかく手に入れた――いや、与えてくれた色を手放すことになってしまう。


 普通は、神と人間の恋なんて……実りはしない。噂で聞いた遠い西洋の国の話だと、ある男の神が何度も人間と浮気し、子ができた人間は、男の神の妻の嫉妬を買って、様々な罰を与えられたらしい。


 そう、神と人間なんだ。根本的に違う。こんなちっぽけな神に、どれほどの罰が下るのか分からないが、あまり快くないものだというくらいわかる。


 それでも、傍にいたい。


 弟もそれを承知で恋したのだ。自分なりの愛を貫き通したんだ。俺だって自分なりの愛を貫きたい。だが、その結果が規則破りでは……いや、この事は何回も書いたな……。


 残り少ない時間の中で、彼女にはあと何回会うことができるのだろうか……?


 百回? それとももっと上……または少ないのか……。


 そんな事を考えると、やはり寂しくなる。


 改めて考えてみると、あと彼女に会えるのは数か月。実際に会っている時間のみで考えると、その半分にも満たないだろうな。さらにしばらく、彼女の風邪が治るまで会えないのだ。その分も差し引くと、かなり減ってしまうな……。


 いや、悲観的になってはいけないな。こんな時こそ、楽しいことを考えるべきなのだろう。そうだ! 彼女が元気になった時、何をするか計画を練るのはいいな。


 彼女は何をしたら喜んでくれるだろう? 女子はやっぱり花が好きだけど――花畑は前にも行ったしなぁ……川で遊ぶのもいいかもしれない。暑くなってきたし、きっと気持ちいい。 一緒に釣りをしてみたいなぁ……いや、俺が釣ってあげて、一緒に食べたり。


 水無月はいつも山菜採って帰るし、一緒に山菜採りに行くのもいい。他にもいっぱい採れるところもあるし、楽しいだろうな。


 あと山の動物達と触れあうのも。ここは熊はあまりいないし、鹿や兎もいる。想定外のことがなければ危険なことにはならないだろうし……これも考えておこう。


 ああ考え出したら色んなことが思い浮かぶ。書ききれなくなってしまうから、別紙に書き記しておこう。


 んん? ……どうやら、何かが来たようだ。まぁ、恐らく……何も知らずに道に迷い、偶然見つけたという感じだろう。また少々雨が降ってきたし、雨宿りも兼ねてるんだろう。


 外を覗いてみた。居たのは……四、五十代くらいに見える男一人だ。やはり旅人なのだろう。それなりの荷物を持っている。ここで野宿するようだ。


 さすがに暗いので、顔までは見えなかった。だが、偶然でも子の祠の存在を一人の人間に知ってもらえただけで、とても嬉しい。



 ……やはり、悲しいものだ。



 人から、忘れられてしまうということは。


 昔は、男も女も子供もお年寄りも、どんな人でも――願いをかなえてほしくてやってきたものだ。


 昔は今より世の中は荒れて――いや、今とあまり変わらないか。国でなくても、誰かが支配するという事、それはいつか崩壊を招くのではないだろうか。


 虐殺を行った織田信長然り、朝鮮侵略を行った豊人も秀吉然り……だが、この村の支配者は何かが少し違う気がする。


 鬼となった弟……もとい鬼神は、支配者でありながら村人と共存して生きている。彼の予言の代償は村人要求したものを等価交換する。


 要求されるものは内容によってかなり変わる。それなりの食料や家畜、金品……しかし村人が困るほどは要求しない。余程がなければ村人が生贄として要求されることも滅多にない。


 はたして一様に悪と言えるのか……だが、善ともいえるわけでもないな……。そこはよくわからない。いや、分からないことがわからない。


 俺は全知全能の神ではない。いや、神の中まではあるのだが、付喪神とも違うし、妖怪でも精霊でもない。どちらかというと、八百万の神と似たような感じだ。


 人間は神なら何でもできると思いがちだが、実際俺たちのような者は自分たちの持っていた力以外のことは何もできない。生命を作れないし、天地を創造することなどもできるはずがない。


 別にそんな力などいらないが。


 ……こんなことを書くことすらどうでもいいか。


 まぁ日記だし、別にかまわないか……。


 今考えてみると、いつから日記を書き始めただろう。


 まだ神として未熟だったころからだろうか……いや、もっとたってからだな……確か五百歳になった記念に書き始めた気がする。そう考えると、今までの日記はどのくらいの量になっているのだろう。


 最近はずっと日記の消費が激しかった。水無月のことしか書いてなかったからだな。


 改めてここに記す。俺の水無月への愛に偽りは一切ない。あるのは彼女に対する情熱のみ。俺が消えてしまうその日まで、愛し続けると俺はこの日記と、天地を創造した神々に誓おう。


 ああ、もう夜遅いな。そろそろ寝ないと。


 今日の日記はここまでにしよう。続きはまた明日。


 明日も、よい一日が訪れますように。
























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