表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星神様  作者: 空花
3/11

第二幕 「日記」




五月十五日 晴れ


 今日、初めて本物の神様に出会いました。

 しかもその神様は「鬼神様」の話にでてくる兄神様です。

 名前はもう忘れてしまったらしく、鬼神様の本当の名前も覚えていないらしいのです。

 だから、仮に「星神様」と呼ぶことになりました。

 星神様はもうすぐ死んでしまうらしいのです。「明けの時から宵の時に代わる時、この世界から消えてしまう」――、私にはこの言葉の意味がよく分からなかった。だけど、死んでしまうことだけはよく分かりました。

 星神様は私に言いました。来てほしいと。だから明日も行くつもりです。

 早く明日になってくれないかな。とても楽しみです。





「星神様――!」

 タタタと祠に向かって走っていく。祠のすぐ後ろにある、巨大な木の根に座って、彼は待っていた。

「水無月! ありがとう、来てくれたんだね」

 彼女が来たことが分かると、彼はとびっきりの笑顔になった。

「はい。星神様の頼みですから」

 とびっきりの笑顔にさらにとびっきりの笑顔で帰す。そんな彼女の顔を見て、彼の顔はリンゴのように真っ赤になった。

「さ、さぁ一緒に遊ぼう! 君の話もたくさん聞きたいな!!」

 神様とは思えない、まるで子供のような無邪気な笑顔で話しかける。

「はい、楽しみましょう!」


五月十六日 晴れ


 今日は星神様と遊びました。

 彼といることで、二つほど、新しいことを発見しました。

 一つは、彼は日が沈んだら祠に帰らねばならない事。これは、神様としての大事な約束事らしいのです。

 もう一つは、彼は人よりも誰より人らしいという事です。

 彼は子供の様に笑い、とても元気に遊びます。誰かのために悲しんだり、泣いたりします。そんな彼の様子が、誰よりも人に見えてしょうがないのです。





「見てくれ水無月。ここはとっておきの場所なんだ」

「わぁ……! 綺麗――!」

 彼が連れてきたのは、とても美しい、色とりどりの花畑。とても美しい花が風に揺られて花びらを飛ばしている。

「この山に、こんな素晴らしい場所があったのですね」

「ああ。ここは俺が生まれた時からずっとある。だけど、昔はもっと広かったんだよ――って何してるの?」

 水無月が花を摘んでせっせと何かを作っている。そして作ってそれを自分の頭に乗せた。

「はい、花冠です! 星神様もどうぞ!」

 烏帽子を取り、彼の頭に乗せる。

「……に、似合うかい?」

「はい、とても可愛いですよ!」

 その時、プイッと星神様は水無月に背を向けた。

「ど、どうしました?」

「な、なな何でもない!」

 後ろから見ても、顔を赤くして照れているのが分かった。そんな様子を、水無月はとても可愛らしく見えた。


五月二十九日 晴れ


今日は星神様がお花畑に連れて行ってくれました。

そこはとても美しく、まるできれいな着物の様でした。

昔は見渡しきれないほど広かったらしいのですが、時が経つにつれ、山の木が広がり、今のような小さなお花畑になったようです。

星神様に花冠を差し上げ、可愛いと言ったら、顔をリンゴみたいに真っ赤にして照れていました。この時の彼は子犬の様に固まってしまい、何度も言うようだけど、とても可愛らしかった。

次はどんなことを教えてくれるんだろう?





「あ、雨……」

 ポツリポツリと降り始めてしまった。まだ彼の所に向かう途中だったのに。さすがにもう六月の下旬だ。梅雨の時期に入ったのだろう。ちょっとずつ雨の勢いが強くなる。雨に濡れて目の前が見えにくい。それにとても寒くなってきた。

「寒い……」

 急がなければ。このままでは風邪をひいてしまう。

 

長時間、雨に当たっていたせいか、とても寒く、手足の感覚がなくなってきた。雨の勢いはどんどん強くなり、今はもう土砂降りだ。

 ――フラフラする……目眩が……

 水無月の意識は、そこで途切れた。





 ――き、――づき……

 誰かの声が聞こえる。この声は……星神様……?

「水無月!!」

「っ!? あれ……? 星神様?」

 目を覚ますと、目の前には彼が居た。ここはどうやら祠の前らしい。巨木が大きな傘の役割を果たしているおかげで、ここは濡れていない。

「はぁ……起きてよかったぁ……様子見に行ったら倒れてたから、すっごい心配した……」

 どうやらあの時に倒れてしまったらしい。体がとても熱い。熱が出てしまったんだろう。そのせいか体もかなりだるい。

「今日は家で寝なよ? あ、そうだ、送っていかないとな!」

「えっ!? そ、そんなそこまで……!」

「いいからいいから! そんなんじゃまた倒れるぞ?」

 さすがにそこまで厄介になるわけにはいかない。そう思いながら起き上ろうとすると、急に星神様が胸に顔を埋めた。 

「ふぇ!? ちょ、ちょちょちょ星神様!!?」

 動揺し、ブンブンと手を振り回す。その時――

「おわっ!」

「あ、ごめんなさい! ……え?」

 手が星神様の顔に当たり、その時に、きっと見てはいけなかった何かを見えてしまった。

 それは、髪で隠していた――左目と、傷。


「あ、えと……これ――」

「見ちゃったね」

 見えたのは、左目の下辺りから顎にかけての深そうな切り傷と、何も入っていない――左目。そう、左目が無いのだ。

「なぁ、水無月……君には、俺みたいになってほしくないんだ」

「え……?」

 とても悲しそうな表情で、彼は話しだす。

「この傷はね……俺が昔無理してできた傷なんだ。水無月、今日無理して、ここに来ようとしたでしょ? 結局、無理して何も得られなかったら、意味がないと思うんだ。だから、無理しないでほしい」

 子供が甘えるように、彼はとても悲しそうに水無月の腕を強く掴む。水無月は、自らの胸の鼓動が早く、熱くなるのを感じていた。彼にドキドキしている心臓の音が、聞こえてるのではないかというくらい、大きな音が鳴っていた。

「……ごめんなさい」

「分かってくれたらいいんだ。さ、行こうか」

 そういうと、軽々しく彼女を背負い、歩き始めた。






「よかったね、そんなに時間はかからなかったみたい」

「そ、そうですね! 長老様もいないみたいですし……」

 雨が降ったからか、止んだ今でも外に人が全然いない。長老もどこかに出かけていないみたいだ。

「じゃあ他人に会わないうちに帰るよ」

「あ、ああはい! ありがとうございました!」

 送ってもらったはいいが、結局ずっと胸のドキドキは収まらず、まだ顔は少し真っ赤だ。

「ちゃんと寝て、大人しくしてるんだよ? 完璧に治るまで遊びに来るの禁止!」

「ええぇ――!?」

 そんな文句も挟ませず、星神様は戸を開け外に出る。

「じゃあね、次に会う時は晴れてるといいね!」

 そういうと、風になって煙のように消えてしまった。

「あ、いっちゃった……」

 二人が一人になっただけで、なんだかとても寂しい。別に長老様が居なくてもこんな気持ちにはならなかったのに。それにずっと感じているこの気持ちはなんだろう。自分の気持ちなのに分からないところが何だかもどかしい。最後まで彼の顔を見ることができなくて、そんな自分が何だか恥ずかしかった。

 ――まだ体がだるいし……寝てよう。


 そのまま水無月は、深い眠りについた。
































誰か読んでくれんかなぁ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ