エピローグ 「あれから」
あれから二年の月日が経った。
ここは水無月と二人の神が天へ旅立った場所。今ここには祠のあった場所に石碑が一つ建っている。鬼神様の生贄となった者達の慰霊碑であり、双子の神様が存在し、人間の少女が天女へと変わったことを記す証拠でもある。
「……また、来たぞ」
そして私、基塚陽英もこの歴史を知る唯一の生き証人である。
七月三日。これは星神伝説に終止符が打たれた日である。結局あの場に生き残っていたのは私一人で、初めに気絶したと思われていた村人達は全員死んでいた。あの叫び声で魂が抜かれてしまったのだろう。二年が経ったが、鬼神信者は未だに減らない。無理に仏教を信仰させてるわけではないが、自らを支える存在が居なくなったことを信じることができないのだろう。
石碑にそっと手紙を置く。
「なぁ水無月……きっと読んでくれているんだろ?」
私は月に一回、この場所に来て手紙を置きに来ている。内容はなんてことない、村の様子や私のことをひたすら書いている。その手紙は飛んでしまわないように供物を入れておく箱に入れている。そして一か月後にそこを覗くと手紙がなくなる。天から彼女が取りに来てくれているのだ、きっと。
「私は……本当にお前が大事な存在だった。英月の大事な一人娘で、私のたった一人の姪。一緒に過ごしたのは本当に短い時間だったけれど……本当に楽しかった」
私には妻も子もいない。あの家で一人は本当に寂しかった。だから「家族」を見つけたときは本当に乾ききった心が潤った。
だが、また独りになってしまった。
「すまないが……あまりここに居れる時間はない。すぐに村人達の様子を見に行かねばーー!?」
箱に……手紙がある!? しかもこれは私の書いたものではないようだ。だがここには村の者は入れないことになっている。……となると――
「水無月からの……返事?」
そう思うと居ても立っても居られなかった。箱から手紙を取りだし、開いてみる。
『陽英叔父さんへ』
『あの日から二年経ちましたね。時間というものはあっという間に過ぎていきます。
私は天で明朝命様と幸せに暮らしてます。安心してください。夕宵命様も空姫と再会し、幸せな日々を送ってます。
毎月届けに来てくれる手紙、私はとても嬉しかったです。叔父さんが一生懸命に星洋村の皆頑張っている事を知ることができて安心しました。
私は天で両親に再会することができました。
お父さんとお母さんに叔父さんの話をしたら、「元気そうで安心だ」と話していました。
叔父さんは私といた時間が短く、私には貴方と過ごした記憶はありません。
ですが、叔父さんは私のために一生懸命になってくれた時、本当に「家族なんだ」という事を実感しました
今の私は明朝命と共に、国中にいる名を忘れた神のために、名前を思い出せるように様々な手助けをしています。
天照大御神も大助かりだと仰っていました。
ですから貴方の手紙で、叔父さんのことを少なからずとも知れてよかったです。
二年も経ってしまいましたが、やっと返事を出すことができました。遅れてしまってすいません。
今度叔父さんには、私の昔話を手紙に書いて送ります。私という人間と、星神様の話。
それでは今日はこのくらいで、またいつか貴方に会えることを願っています。
水無月 』
「水無月の馴れ初め、か」
目から何か熱いものが流れてくる。本当にこの物語は涙が多い。しかし物語の最後が中年の涙とは。笑えてくる。
「さぁ、次の手紙が来るまでに……物語を書かなければ」
ここ二年、土地神や鬼を研究していて分かったことがある。
鬼は人間の欲や心の弱さに惹かれてくるのだと。
この物語も夕宵命の恋への欲から始まり、そして星神様の支えがなくなった村人の心の弱さに付け入り、あの日まで支配するに至った。鬼とは地獄へ堕ちた人間に罰を与えるだけでなく、人間をここまで堕落させるものなのか。
正直のところ、私にはなぜ神が存在するのかわからない。神は世界を、人間を創造したと言われているが、それは何のために? 我らの存在意義は何なのだろうか? 考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。
この二つの恋物語も、神は起こることが分かっていたのだろうか?
……そろそろ考えるのはやめにしよう。もうすぐこの物語は終わる。終わってからでも研究はできるのだ。
この物語は、ぜひ子孫へと語り継いでもらいたい。鬼神伝説ではなく、この星神伝説を。
そして知ってほしい。欲は身を滅ぼし、ここの村人のように何もできなくなってしまうという事を。
さて、早く戻って物語を書かなければならない。
ひとまずこの物語は終わり。
新たな鬼神が生まれない限り、誰かが犠牲になることはない。
それでは、さようなら。
終わった……遂に終わってしまった……。
次の話を書く機会があったら、お会いしましょう!




