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残念な山田  作者: きらと
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8 使いこなせないと宝の持ち腐れ

 開演のベルは激しい爆発音だ。オレンジの光が広がり、収まる前に黒煙が吹き上がる。爆発の衝撃は植生する木々をなぎ倒し、陣地を文字通り吹き飛ばした。

「んっ……く……」

 兵士は意識を取り戻した。半分土砂に埋もれている体を認識した。埋もれた状態に恐怖する。

 爪の間に砂利が入りこむのも構わず必死で掘り出す。這い出して体を見回す。大した怪我が無い事を確認して一息つく。

(俺は生きている……)

 着ていた物がぼろ切れのようになっていた。体の節々が痛む。打撲と擦り傷があるが体は動く。

 炎が周囲で燃え盛っていた。咳き込みながら辺りを見回す。他の仲間は見当たらない。

 敵の動きを察知する前に同じ部隊の仲間はやられた。見張りの目と耳を潰す。日本人の手だ。

 聴覚が戻り、轟音が聞こえ見上げると空を悠々と駆ける青い竜がいた。お馴染みとなったF-2支援戦闘機。

 どんなに陣地を偽装したり補強しても見逃さない。悪魔の力を思わせる。憎悪よりも畏怖しか感じない。

 日本人の強さは聞いていた。覚悟もしていた。だが現実を見たら勇気など出ない。火竜を思わせる爆炎を広げ全てを破壊し尽くした後は、飛竜よりも早く飛び去っていく。

 生きている事を実感してほっとした後に死への恐怖が沸き出した。

(あんな化け物相手に何ができると言うんだ)

 日本人は敵対する者に手段を選ばない。害虫のように駆除される。

「――革命の理想は栄光と共にある! 死を怖れるな。今こそ圧政者に我らの意志を見せる時だ」

 最後の一兵まで戦えと叱咤激励する指揮官の声が聞こえたが、降下してくるヘリコプターの群れに気付いた。

 死守命令。革命軍でも末端の兵隊は消耗品だ。

(死ねなんて命令に従えん!)

 生存本能に従い兵士は逃げ出した。他の兵士は、逃げる背中を見て顔を見合わせる。

「お、おい」

「ああ……」

 武器を捨て後を追う。堤防が決壊したように、その動きは部隊全体に波及する。

 逃亡する足元に黒い影が広がった。ヘリコプターが強風を巻き上げて、押し止める指揮官の声はかき消される。

 機内に待機していたエルステッド軍の兵士は、着陸と同時に喚声をあげて飛び出す。7.62㎜機関銃が突撃支援の射撃をする。

 生身の人間は脆い。簡単に死んでしまう。革命軍の戦力は空からの攻撃で痩せ細るばかり。物量で優る正規軍はロクシナイ峠を抜いた。峠はゲリラの墓標になった――


     †


 ロクシナイ峠を越えた統合任務部隊(JTF)は、包囲の環をじわじわと締め上げていた。

 宿営地に並ぶOD色の天幕。車輛が並んで駐車している。

 タイヤの弛みを点検ハンマーで叩きながら、燃料、オイルの漏れがないか確認している車両整備班の作業を、太郎は腰かけて眺めていた。以前に「何か手伝いましょうか」と尋ねたが、言葉は柔らかだがはっきりと拒絶された。

 同じ日本人として打ち解けようとしたが、仲間として受け入れられていない。

(班長や小隊長には違うんだよな)

 自衛隊からの出向者と部外者の違いで線引きがされている。

 専門的整備は彼らの仕事だ。専門的と言っても自衛隊なら本来、操縦手自身がする第1段階整備のA整備に相当する部分もだ。

(あれぐらい、俺でも出来そうなんだけどな)

 もっとも、太郎自身は運転免許を持っていない。

 一般的な自動車に興味がなく、軍事関連の装備しか興味はなかった。モヤシっ子とは言わないが、色白で部屋に籠るインドア派だった。

 今、太郎の剥き出しの腕と顔は赤銅色に焼けており健康的で、3ヶ月前まで半分引き籠りの生活を送っていたとは思えない。

「山田」

 中隊長の伝令として靴磨きをしていた井上が戻って声をかけてきた。任期制隊員の元自衛官である井上は、完全な一般人から入隊した他の隊員よりは信頼され色々と仕事を任されていた。

(途中で辞めた俺とは違うな)

 普段の自信に溢れた井上を見て、教育を修了せず逃げ出した自分との違いを感じていた。

「ゴブリン対策で1中隊が駆り出されているんだってさ」

 開口一番に仕入れてきた情報を広める井上。

「御愁傷様」

 任期満了を迎え、太郎は契約を更新した。

 もし死んでも遺族に戦死通知は届かない。事故死か、失踪で片付けられる。

 この戦場から離れ平穏な生活に戻りたければ、今回がチャンスだった。だが自分達の中隊から離れようとする者はいなかった。理解した上での決断だ。

「お前は辞めると思っていたんだけどな」

 井上が太郎をからかう。

 家を出た以上、太郎は親を頼る事から卒業した。

「心境の変化ってやつさ」

「ふーん」

 新たな隊員が交代で入ってくると思ったが、中隊に配属はなかった。3班は横井、森本、小西、橘が死んで欠員が出たままだ。

「継続しても給料は増えないんだな」

「言ってみればバイトだからな」

 恒久的な身分が保証されている訳ではない。雇用期間の定めがある。

「アルバイトでも有給休暇が付いたり時給が上がるぞ。まあ今使えない金なんて意味無いが。職場環境の改善で武器だけでも良い物が欲しいよ」

 理論上は殺せない生物は居ない。いかなる金属でも朽ち果てるのと同じだ。虫には携行火器の弾、7.62㎜NATO弾では歯が立たなかった。

(あいつら硬過ぎだよな)

 弾は弾倉丸々消費しても危うい。確実に排除するには、ゾンビ映画の様に、頭部を破壊するしかない。楽に倒せない現実。

(また相手をしたくはない)

 虫の姿を思い出して太郎は背筋が震える。味方歩兵をばらばらにし吹き飛ばしていた怪力。目の前にいて相手にするなら逃げるだろう。

 逆に、空飛ぶ竜は逆に簡単だ。周囲に障害物もなく、空対空ミサイルと機銃で難なく叩き落とせた。

「虫に比べたら竜なんて可愛い物だ。20㎜に横っ面叩かれただけで死んでしまう」

「それだと虫も死ぬんじゃないか?」

 空爆は効果をあげていた。

「あーかもな」

 虫は硬さの他に数も問題だった。

「1匹、2匹程度なら何とか出来るが、あの数はどう考えても繁殖力があるだろうな」

 夏場のゴキブリは嫌いだと井上は笑う。

「空自だっていつも来てくれるとは限らない。出来れば、もう相手にはしたくない」

 樹海で接近戦に持ち込まれると射程を活かせず小隊全滅もあり得る。その為、人家から離れた森林地帯や山間部は直接戦闘を避け、偵察行動や移動の時だけ通過する。

 ゲームや物語のファンタジー世界ではない。銃は無敵ではない。戦闘を繰り返す度に思い知らされる。

(64式小銃が89式小銃だったら、あるいは分隊支援にMINIMIが配備されていたら、橘や他の班員が死なずに済んだのか?)

 政府や防衛省には、詳細な現地状況が伝わっている。今までは情報流出を怖れて、現地反政府ゲリラに手緩い対策しかしてこなかった。アニマルコマンドーが、雇用主である政府に反対する事は出来ない。意見具申は可能だが、装備の更新は難しい。

 自衛隊の一般部隊を差し置いて最新装備を与えても、使いこなせず被害を出すだけだ。自衛隊から出向組の誰もがそう思っていた。

「残念ながら期待には答えてくれない。我慢しろ」

 代わりという訳か、車輛には鹵獲した刀剣類やクロスボウも積まれている。状態の良い物が武器係にえらばれていた。万が一に弾薬欠乏等に成った時、身を守る武器は銃剣しかない。槍やクロスボウでも無いよりはマシだ。ゲームではない命懸けの戦争だと認識を強くする。

「ま、あれよりはマシだろ」

 そういって指差した方向に軽トラックの群れが駐車していた。

 シュジュキ、ダイマツ、四菱、チュバル、各自動車メーカーの多種多様な軽トラックが並んでいる。日本から有償貸与されたエルステッド軍自動車化歩兵の装備だ。

 ハウ将軍の第9旅団と共に第1中隊がゴブリンの討伐に抽出され、代わって第12軽歩兵連隊が新たな増援としてJTFに送り込まれた。エルステッド軍は自動車化歩兵を騎兵を補完する機動打撃戦力として運用する。

 エルステッド軍の最精鋭である第12軽歩兵連隊。

 日本式の訓練を受けて編成された連隊は、戦闘部隊として歩兵4個中隊から成る1個大隊に、軽トラックを装備した自動車化歩兵1個中隊、野戦魔導師1個中隊、弓兵2個中隊、それに騎兵を中核とする捜索1個中隊と工兵1個小隊の戦力を保有していた。

 連隊の兵站能力は、個人携行品に負う所が大きい。そもそもエルステッド軍自体が部隊段列や補給隊の整備が進んでおらず、衛生・給水能力も魔導師を除けば皆無に近い。国内が戦場と言うこともあり、行商人から購入したり調達は比較的容易だったのも理由だ。機械化されていない為、輸送能力も低かった。増援部隊や大量の補給品輸送は、日本人に依存していると言っても過言ではない。

 さすがに連隊に配備された車輛の運転はエルステッド軍の人間が行う。しかし車輛整備、給油など全て日本人の手で管理されている。

 面白くないが仕方ないとエルステッド側も理解していた。

 産業革命以前の文化レベルのエルステッド。基礎工業力が無いため、ライセンス生産、ノックダウン生産は不可能。

「日本で免許を取らせる訳でもないし、運転だけなら何とかなると思いますよ」

 日本人でも運転は出来ても、整備や車輛の構造を知らない物は多い。

 道路標識や関連法規が整備されてる訳でもない。最低限の運転技術は、エルステッドに教習所を設置し教える事で解決する。車輛は貸与し、整備や維持は日本人が行う事となった。


     †


 空にF-2支援戦闘機の群れがいた。螺旋模様を描いて舞う姿はあざとい演出だが、敵は自由に飛行する姿を見て日本人の空だと痛感する。

 鳴海1尉は近接航空支援を終えて、小松基地に帰投しようと機体を旋回させた。その時、太陽を背にして黒い影が見えた。

「ん」

 翼の形状が見えた。

(竜か)

 友軍の竜には敵味方識別装置が搭載されている。

 民間で使う商業用の竜は飛行制限区域を外れれば撃墜すると告知されていた。わざわざ落とされに来る物好きはいない。

(IFFに反応はない。つまり――)

 この空にいるのは敵だ。

 僚機に知らせ、念のために接近してみる。

 F-2の接近に気付き竜は急降下で降り切ろうとする。運動性能では格段の差がある為、無駄な足掻きに過ぎない。

(悪く思うな。これも仕事何でな)

 装備して来たが使う機会の無かった対空ミサイルが放たれた。

 ミサイルの接近に対して竜は戦闘機には不可能な急激な機動性を見せるが、乗っている竜騎士に負担を強いる。

 幾ら調教されたとは言え空中戦を想定した物ではない。竜騎士もミサイルの避け方など習っては居ない。

 予定調和が訪れる――

 出番を終えた役者は退場する。一瞬で血煙となり、肉と血をばら蒔き砕け散る竜。竜には唐突過ぎて、答えられぬ謎を残して短い生が終わりを告げた。


     †


 アニマルコマンドーの車輛を先頭に、第12軽歩兵連隊は攻撃発起位置についた。戦力比に応じる攻撃前進速度の基準によると、連隊は時速800m以上が期待された。

 空爆の後、車載機銃で武装したアニマルコマンドーのピックアップトラック30両が真っ直ぐ北進し、ホッジ高地に前進した。行進経路の偵察を直接出来なかった為、指揮官が部隊を統制しやすいように短縮隊形で行進する。車列に続くエルステッド軍は緊張感も無く、楽勝だと信じて疑わなかった。

 日本人の支援は大きい。共に肩を並べて戦うには十分な相手だ。地図上に描かれた前進軸に添って、各中隊は動き出す。

 事前の空爆で偽装された敵陣地を空爆したが、射ち漏らしはいる。陣地前では、軽トラックから歩兵が下車し展開する事になっていた。陣地攻撃の基礎として教えられた。

 民生品の車輛が魔法攻撃を受けた場合、耐久度は低い。乗車していた場合、人的損害は拡大する。

 テクニカルの1種として投石器やクロスボウを搭載してる軽トラックもあったが、機関銃を搭載したアニマルコマンドーに火力では劣る。日本人が露払いだ。

 ピックアップトラックが増速し、タイヤが砂埃を上げる。

 有効射程に捉え次第、機銃が吼えた。車輛は、バラバラと空薬莢を撒きながら敵に迫る。

 アニマルコマンドーが突破口を啓開した。後続する歩兵が確保した突破口から敵後方を遮断し包囲すべ猛進撃を開始する。 指揮通信車としてマイクロバスが代用されていた。

「突破口は、敵の逆襲で目標になります。予備隊を投入するならここですから」

 アニマルコマンドーの連絡幹部(LO)が、12連隊本部に随行し助言している。高級指揮官がうろうろするのは、敵の的だ。掃討も完了していない。

 エルステッド軍にも、機動力を持つ車輛が有効だと言うことは良くわかる。歩兵が騎兵並みの移動力を持つのだ。

(正面から向かうだけだからダメなんだよ)

 学習しない敵味方の戦術に呆れ返った。

 道路や橋梁は敵の撤退を阻止する為、空爆で破壊されている。黒煙が地平線に上がっている。ヨヨが近付くにつれて人の死臭がする。

 路肩に転がったら死体を視界に入れて顔をしかめるエミール。連隊の多くは、徴兵された一般兵の1人に過ぎない。

 同郷で新兵教育以来の付き合いであるミュラーが肩を叩いて話しかけてきた。

「ん?」

「俺たちが一般部隊に何て言われているか」

「日本人の尻尾」

 エミ-ルはミュラーへ向かってため息混じりにそういうと、面白くもないという態度で軽トラックの荷台に据え付けられた連弩に寄りかかる。徒歩の歩兵から見れば、自動車など夢のような乗り物だ。

(だが矢面に立たされるのは俺達だ)

 ふと、上空を見ると黒い機影がいた。

「今まで以上に日本人に頼る、か……」

 高空を偵察の飛竜がしばらく飛び、去っていく。

 晴天の上、地面はぬかるんでいた。

(こんな所をゲリラに襲われでもしたら……)

 ミュラーはまだあどけなさの残る童顔でエミ-ルを仰ぎ見た。緊張は見受けられない。

「日本人が相手をしてくれるさ」

 やる事はいつもの訓練と変わらない。それに連隊も掃討で実戦は経験している。

 街道を進む12連隊は待ち構えていたゲリラの弓矢と魔法、投石の攻撃を受けた。

「放て!」

 偽装し潜んでいた陣地から矢と石が雨のように降り注いだ。拳大の石が冑に当たり頸椎をへし折る。頭部を守る物などない。矢も数を射てば面制圧効果は大きい。並走していた捜索中隊の馬が次々と倒れていく。鎧と言っても金属部分は少なく、革製の薄い部分を矢が貫き損害を増加させた。騎兵が足止めを食らっている頃、後続する歩兵も掻き乱されていた。

「小賢しい真似を」

 エルステッド軍の指揮官は兵を下ろし、散開させて被害を軽減しようと動く。

「うわあああ」

 前にいたミュラーが姿を消した。

「おい、どうした!」

 消えた辺りに足を進めると、地面に大きな穴が口を開けていた。

「なん……と、言う……!」

 串刺しになり五臓六腑をぶちまけて死んでいるミュラーがいた。底には、先を尖らせた杭が底に仕掛けられた落とし穴が無数に掘られている。


     †


「僅かな時間で良く掘った物だな」

 金田1尉はゲリラの動きに感心したが、アニマルコマンドーも車輛2両を失っている。

「偽装技術も向上していますね。空から叩かれたのがよっぽど堪えたのでしょう」

「ゲリコマ演習と思えば、幹部・陸曹には良い訓練だ」

 準備日数に応ずる防御陣地の強度は、機械化されていないこの世界だ。人海戦術で昼夜を問わず行ったとしても知れている。自分達の築城作業力から算定すれば、敵がどれ程の作業をしたかが理解できる。

 有効な火器を持っていないにもかかわらず、ゲリラは巧みにアニマルコマンドーの車列とエルステッド軍を寸断した。

 指揮官は部隊の統制を回復しようとしていた。応戦している内に、中隊は釣り上げられていた。窮地に陥った中隊は、槍襖を張ることで戦列を維持するしか出来なかった。

 待機していた革命軍の予備隊が、第2小隊に突撃した。

「後ろ!」

 通過した後に穴から這い出して、後方で奇襲をする。

 これまでも、単純な待ち伏せで奇襲をしてくる事はあった。

 エルステッド軍が日本人の教育で鍛え上げられている様に、ゲリラも日々の戦闘で学びとり戦術を進化させていた。革命軍は錬度が低い、騎兵を先頭に立てれば蹴散らせると侮っていた。だが損害を増すばかりで前進出来ずにいた。

 中隊と切り離され包囲され、戦力が削り取られていく。目の前で仲間が倒されていくのに手助けが出来ない。

 農民に毛が生えた程度と侮っていた革命軍に負けた。衝撃が大きい。革命軍にとって貴重な魔導師はここにいない。それでも流される血は多い。

 中隊の射手は弓の照準をつける時間もなく敵からも矢が飛んでくる為、各個の射撃となる。手持ちの矢は消費が激しい。罠にはまった中隊は、誰一人として生き残れなかった。

「畜生」

 連隊長は顔面を蒼白にしながら無力感を感じていた。目眩を覚えながらも、後続する中隊に前進を継続させる。迷った時は進むことを教えられていた。それが罠の張り巡らされた地獄であろうともだ。

「あれって、待ち伏せですよね」

「そうに決まっている」

 エルステッド軍の損害状況を見て日本人はそう理解した。もちろん、エルステッド軍も気付いているが、強引に喰い破る以外に手段を知らないかった。

 連隊が装備していた軽トラックも、落とし穴や空堀に妨害されて思うように前進出来ない。

「ガンシップに応援を頼もう」

「秘密兵器のお披露目ですね」

 本来、日本の保有していないAC-130。実戦参加には、いくつかの事情が影響を与えている。日本の兵器運用は、エルステッドを実験場として進められていた。

「小隊長?」

 突然、矢山3尉が発砲した。太郎は驚いたが、敵の矢が傍らに着弾して気付いた。

「うわっ」

 すぐに他の班員も反応し周囲の敵に反撃を始めた。

「敵がこっちまで出てきたのか」

「休憩終わり。仕事するぞ、仕事」

 平時の自衛隊なら、ためらって発砲できなかった。エルステッドの経験数は確実に矢山達を鍛上げていた。同様に、ゲリラも日々の戦闘で学びとり戦術を進化させていた。

「1度目は引っ掛かったが2度目はない」

 車両用の落とし穴で車輛2両を失っている。大型生物、獣や虫を相手にする上で辺境の村が自衛の為、生み出した手段だ。

 ピックアップトラック相手にも役立っている。

「安全管理、事故防止でよろしく」

 負傷した敵兵は、捕虜にせず止めを刺していく。負傷者のふりをして襲ってくる事も珍しくない。捕虜にした所で処刑されるだけだ。敵も捕虜を作らない。お互い様だ。

 先人の犠牲によって敵も偽装技術を身に付け始めていた。目的地周辺に建造物が無いとは言え、伏撃を警戒しながら前進する。

 かつて、ナポレオンは戦略上の要地を放棄することで、逆に戦場の主導権を握り勝利した。

(敵より失敗を少なくした方が勝つ……か)

 通行税は高く付き、虎の子の第12軽歩兵連隊は2000名を超える損害を受けた。

 エルステッド軍は、後方に下がり連隊単位で交代と再編成が行われた。その間に、再び空爆が行われる。

 轟音と共に、土砂が噴き上がり再び地面に叩きつけられる。塹壕を掘って伏撃を狙っていた兵は、運が良ければ即死だが多くは大量の土砂で生き埋めだ。

 爆撃の轟音と衝撃に耐えきれず、破れかぶれで偽装を捨て突進してくる兵もいた。その後は確実な死が待っている。

 街道が見渡せる丘陵に中隊を進めた。矢山小隊はそれに同行する。

「ぐっちゃぐちゃだな」

 太郎の視界に映る物は、掘り返され何もかもが吹き飛んでいる。

「油断するなよ」

 空爆では敵を潰しきれていない。それはパラオや硫黄島で米軍が経験した事実だ。前進の障害となる敵を爆撃で粗方撃破したが、それでも生き残りがいるためエルステッド軍全体の進行速度は変わらない。確実な面制圧による安全管理の徹底だ。

 丘の頂上につくと敵の逆襲に備えて警戒配置に着く。

 ほっとして太郎が息を吐き出した瞬間、体が弛緩し屁が出た。周りの班員は吹き出す。死体に囲まれながらも笑う事が出来ると言う妙な心理状況だ。太郎自身、自分をたいしたものだと思う。

(死体さえなければ、ピクニックに最適な場所なんだが)

 風が汗ばんだ肌に心地良い。見晴らしの良い光景が広がっている。

 矢が太郎の側を掠めた。見晴らしが良いと言うことは、敵からも的に成りやすいと言う事だ。

 血の混ざった土が服に付くのも気にせず伏せ射ちの姿勢を取る。火の粉を払う様に、簡単に矢を放ってきた相手を倒す。敵が、どんな人生を歩んできた人間か、家族はいるのかなどと考えていては銃を撃てない。ただ彼らの流した血の赤さだけが記憶に残った。

 火器と戦術で勝てるはずも無く、ヨヨの最終防衛線は越えられた。

 日が暮れても戦闘は終わらない。夜間戦闘の装備をした日本人の支援でエルステッド軍は掃討を続けている。

 夜陰に紛れてJTFの陣地にゲリラの斬り込み隊が特攻して来た。エルステッド軍に夜間戦闘の装備は貸与されていない為、ゲリラの接近を許した。

 若干の死傷者をエルステッド軍に与えた物の、隣接部隊に指向した火力の配置で日本人は迎え撃った。この火力運用は、相互の部隊が潰されない限り穴が開かない。

 革命軍が行った夜襲は惨敗という結果に終わった。革命軍指導部は衝撃を受けながらも、ヨヨに撤退を指示する理性は持っていた。

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