第二十九話 『出口』
世界が裂けていた。
羽吹が開いた“道”。
その先には、赤黒い空間が広がっている。
壁も。
床も。
天井も。
全部が脈打っていた。
まるで巨大な生物の体内だ。
「……気持ち悪っ」
俺は思わず呟く。
右目が痛む。
ズキズキする。
でも止まれない。
ここで終わらせる。
じゃないと。
本当に現実世界が飲まれる。
「透真!」
レオンが叫ぶ。
「固定炉中心部を破壊しろ!」
「分かってる!!」
俺は脚部スラスターを吹かせた。
一気に加速。
空間が流れる。
途中、壁から無数の腕が伸びてくる。
黄色い壁紙の腕。
人間の顔。
ノイズ。
全部まとめてキモい。
「邪魔だァ!!」
左腕ガトリング展開。
掃射。
通路ごと吹き飛ばす。
だが。
再生が早い。
固定炉と繋がってるせいで、際限なく湧いてくる。
「透真君!!前!!」
八重の声。
直後。
空間そのものが裂けた。
固定者。
いや。
もう人型ですらなかった。
上半身だけ人間。
下半身は壁。
背中から通路が伸びている。
顔の半分はノイズ。
目だけが異様に光っていた。
「無意味だ」
固定者が笑う。
「この空間は既に完成している」
「現実とBackroomsは繋がる」
「人類は次の段階へ進む」
「んなわけあるか!!」
俺はレーザーソードを構える。
固定者が腕を振った。
その瞬間。
通路構造が変化。
「っ!?」
床が消える。
壁が裏返る。
Level接続。
落下。
下には暗闇。
Void。
落ちたら終わり。
「透真!!」
だが。
その瞬間。
空間へ一本の線が走った。
カリ――。
文字。
空中へ浮かぶ白い文字。
『この場所には、足場が存在する』
直後。
俺の足元へ透明な床が生成された。
「っ!」
羽吹。
振り向く。
少し離れた場所で、羽吹が本へ文字を書いていた。
だが。
様子がおかしい。
顔色が悪い。
右腕がノイズ化してる。
「お前……!」
「早く終わらせて」
羽吹が苦笑する。
「長く使うと、結構キツい」
固定者が怒声を上げた。
「ORANGE!!」
「なぜ邪魔をする!!」
「お前は我々の到達点だった!!」
「知るか」
羽吹がペンを向ける。
「僕はあんたらみたいになりたくない」
次の瞬間。
世界が歪む。
『固定者の位相を、一時固定』
固定者の動きが止まった。
「今!!」
「ッ!!」
俺は最大加速した。
脚部スラスター全開。
一気に踏み込む。
右腕レーザーソード出力最大。
赤黒い刃が唸る。
「終われぇぇぇぇッ!!」
斬撃。
固定者の身体を両断する。
だが。
まだ終わらない。
固定者の身体が再生を始める。
「無駄だァ!!」
「私は炉そのもの――」
「だからだよ」
俺は固定者の背後を見る。
そこにあった。
位相固定炉。
赤黒く脈打つ巨大装置。
「壊すのはお前じゃない」
HX出力、限界解放。
空間が軋む。
右目が焼ける。
警告音みたいな耳鳴り。
でも止めない。
赤黒いゲート展開。
巨大砲身召喚。
ヴァルグレイヴ武装部分召喚。
「うおっデケェ――!!」
鳴海の声が聞こえた。
次の瞬間。
超高出力ビームが、位相固定炉を貫いた。
轟音。
閃光。
そして。
世界が割れた。
『ERROR』
『ERROR』
『位相固定失敗』
『崩壊開始』
基地全体が激しく揺れる。
固定者が絶叫した。
「やめろォォォォ!!」
身体が崩れる。
空間へ溶けていく。
「私は……!」
「私はッ!!」
最後まで、ソイツは笑っていた。
次の瞬間。
固定炉が爆発した。
赤黒い衝撃波。
空間断裂。
Level崩壊。
黄色い壁が剥がれる。
白い空間が砕ける。
voidが開く。
「ッ!!」
俺は吹き飛ばされた。
身体が浮く。
落ちる。
暗闇へ。
終わった。
そう思った瞬間。
誰かが俺の腕を掴んだ。
「っと」
羽吹。
でも。
羽吹の右半身はノイズ化していた。
「お前……!」
「出口開いた」
羽吹が笑う。
その先。
裂けた空間の向こう。
夜の北海道。
現実世界。
「走れ」
次の瞬間。
基地全体が崩壊した。
俺たちは、そのまま出口へ飛び込んだ。
【次回予告】
北海道支部崩壊。
Backrooms侵食事件、終結。
一方、
ノイズ化が進む羽吹の身体。
そして透真の右目にも、
異常が残り続けていた。
「……まだ終わってない」
さらに。
世界各地で観測され始める、
新たな異常反応。
その中には――
《HX-13 Ragnarok 反応確認》
次回、
裏部屋編エピローグ。
『帰還者たち』




