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第二話

おはようございます。第二話のお届けです。喫茶店モゾビーに入って昔話に花が咲くチロと槇。時間は、着実に流れていた。お楽しみに。


 「続高校珈琲」

        (第二話)



         堀川士朗



「実家のお母さんの様子を見に来たのよ。もう年だから。どうしたの?チロくん」

「そうなんだ。とても久しぶりだね。元気そうじゃない」


僕は質問には答えず、意を決して言った。


「ねえ今から喫茶店に行かないか、槇。モゾビーに久しぶりに」

「え?良いよ」

「どっちの意味の『良いよ』?」

「オッケーだよーの方の良いよ」

「ありがとう。家には寄らずには良いのかい?」

「あ、忘れてた。大丈夫。後で寄るから」


僕らは、立村の実家からちょっと歩いて二人懐かしの喫茶店モゾビーに入って、二人とも『気まぐれマスターの更に気まぐれアイス珈琲』を注文した。

マスターは新しい人に変わっていた。

槇はナポリタンも注文した。

僕はダイエットのため、食事メニューは何も頼まなかった。


「懐かしくないかい?ここ」

「来たっけ?」

「来たよ。昔たくさん。内装は変わったけどね。槇。君と初めて会ってから30年が経った。街も変わった。人も変わった。僕も」

「昔は"俺"って言ってたのにねチロくん」

「そうか。そうだね」

「まだご実家に住んでいるの?」

「いいや。実家は、おばあちゃんが亡くなって10年前に財産分与で処分したよ。遺産で足立区のマンションを買ってそこに住んでいる。東京のかなり奥まった所だ」

「そうなんだ」

「うん」

「今は何をやっているの?俳優を続けているの?」


僕は、障がい者年金をもらっている事を自分ながら恥じていた。立村槇にそれを言いたくはなかったが、嘘をついても仕方あるまい。


「いや。俳優は16年前に精神を病んでしまって廃業したよ」

「そうなんだ……残念ね」

「今は障がい者年金をもらいながら照明清掃会社に勤めている。クリスマスやら催し物の照明機材の飾り付けなんかもやったりするんだ。働きながら、手が空いた時はweb小説家もやっているよ。『小説家になっちゃいなよ』と『夜空文芸』と『カイテヨンデ』と『ノベルタッププラスマイナス』の四つのサイトに小説をあげているんだ」

「へえ、すごいじゃない」

「読者は少ないけどね」

「でも。頑張ってる」

「そうかな。ありがとう」

「何もしないよりはるかに良いわよ」

「そうだね」


過去の事をない事にして、こうやってフランクに話す槇の姿に違和感を覚えた。

無理をさせているのではないか、その心配を僕はしていた。

二人久しぶりに再会して、話は自然と近況報告になった。

立村槇には子供が二人いて、上の子はもう独立して働いていて、下の子は大学生だそうだ。二人とも男の子。

そりゃ僕も年を取るわけだな。


立村槇は、年輩のウエイトレスが運んできたナポリタンを食べながら話を聞いている。


「役者辞めちゃったんだね。もったいない」

「うん。でもそうせざるを得なかったのさ」


僕の心は否応なしに過去へと戻る。


¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶


僕は森川チロ。

31歳の役者だ。

去年末に僕がヒステリーを起こしたために自分の赤ちゃんが流産で死に、婚約者と別れて、稽古中だった芝居もセリフが全く覚えられなくて暴れて演出家から、


「お前はおかしい。頭が狂っている!」


と言われて降板となり、僕はもう全ての事がどうでもよくなって精神の闇の中を独り彷徨(さまよ)っていた。


「僕って、どこにいるんだろう」

「僕って、誰なんだろう」


何だっけ。

何しようとしてたっけ。


自死して自分の人生全て御破算にしたいぐらいだった。

僕は、独りぼっち暮らしているこの実家で、携帯も解約して、カーテンも閉め切って、誰とも会わずそんな事ばかり考えて過ごした。

抜けた髪の毛を灰皿の上に乗せて、タバコの火でチリチリと残酷に焦がして遊んでいたりした。

ああもう人生は終わった。

これから、死ぬまでつまらない余生を過ごすんだ。

冬の風が、窓を打っている。

もう、何週間も、まともに眠れていない気がする。


¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶


「タバコはやめたの?」

「いや今も吸ってるよ。でも安いタバコだよ。カメル。一箱470円。金もないしね。マンションの台所の換気扇のところで吸っている。外では吸わないんだ」

「そう。私も吸うようになったのよ、働きだしてから。子育ての時はやめていたけど、今は手が離れたから」

「へえ。意外だな。タバコ嫌いだったのに」


槇と僕はあの時高校三年生だった。

同い年だ。

47歳になった槇は多少シワが増えたものの、劣化せずに相変わらず美しかった。

整形豊胸を繰り返しなどして、おぞましい顔とカラダに変貌していなくて良かった。

ありのままの、あの日の槇の姿だ。

劣化したのは僕の方だ。

あれから30キロ以上も太ってしまったんだからな。

カモシカのような槇に比べて、僕は言うなればまるで豚だった。

あ。いや、豚に失礼か。



           つづく



ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう。

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