追憶
眩しい。
扉が開くと、知らない男の人が僕を抱きしめてきた。
涙を流しながら喋りかけてくる。
どうしたのだろう。
どこか痛いのだろうか。
この人は、なぜ僕を知っているのだろうか。
そもそも・・。
「・・・あなたは、誰?」
そんな言葉が口からこぼれる。
その時の男の人の表情を忘れる事はなかった。
とても笑顔で溢れていた顔が、たちまち無に変わったのだから。
・・なぜだろう。
その表情を見て、何かが痛かった。
身体のどこかに不調があったのだろうか。
僕の身体は、おかしいのだろうか。
原因が分からない、身体を調べないといけない。
僕の・・。
また、疑問が浮かぶ。
僕は、誰?
・・分からない。
思い出そうとしても何かが邪魔をする。
痛い。
頭痛。
少し、眠い。
視界がぼんやりする。
男の人が喋りかけてくるが耐えきれない。
しばらくして、ゆっくりと瞼を閉じてしまった。
・・・。
ワン・・・。
なさい、ワン・・・。
声が聞こえる。
僕を呼ぶ声。
この声は・・お父さん?
「起きなさい、ワン。」
「・・おはようございます、お父さん。」
目が覚めた。
夢を見ていた様だ。
傍にお父さんがいた。
「おはよう、ワン。いつもより少し長く寝ていたな。」
「ごめんなさい、夢を見ていました。」
「夢か・・アンドロイドは本来であれば夢など見ないはずだが。」
「本当です。お父さんと初めて会った時の光景を見ていました。」
「そうか・・あれから一年経つのか。」
一瞬ではあったが、お父さんは悲しい顔をしていた。
「・・ワン、今日は大事な日だ。準備をして研究室に来なさい。」
「命令。分かりました。」
そう言うと、お父さんは部屋から出て行った。
今日は大事な日。
僕、ワンが生まれた日であり、この身体の持ち主である佐久間霧人の記憶を蘇らせる始まりの日。
僕は、アンドロイドでありながら人間の身体を保っている。
正しく言うと、身体の半分が機械で、もう半分は人間としての肉体。
人類の世界では、アンドロイドは当然の様に存在しているが、僕という存在はイレギュラーである。
仕事、日常生活、様々な場面でアンドロイドは人間を助けている。
そんなアンドロイドを開発した天才科学者が、お父さんである佐久間徹だ。
そして、お父さんの実の息子である佐久間霧人。
彼は、交通事故で亡くなっている。
過去のデータから、身体構造の半分を損傷する事故であった様だ。
その身体をお父さんが機械と魔術を使用して蘇らせた結果、生まれたのが僕だ。
霧人としての記憶が欠落していた何者でもない僕。
「お前の名前は、ワン。霧人とは違う、私のもう一人の息子だ。」
「・・僕の名前は、ワン・・息子。」
「そうだ。これから、人としての生き方を教えていく。手伝いもしてもらうぞ。いいな?」
「命令。はい、お父さん。」
その言葉を受けてから、僕はあの人をお父さんと呼ぶ事にした。
それから一年の間に、様々な命令を受けてきた。
家事、勉強、その他にも色々。
命令がないとアンドロイドは行動できない。
お父さんの簡単な命令も無ければ動けない機械だ。
故に、先程の発言も命令。
準備をして研究室に向かう。
命令に従い、お父さんが用意してくれた服装に着替える。
肌触りが良く動きやすい。
顔を洗い、目を覚まして研究室に向かう。
「ワン、到着しました。」
研究室には、以前と変わらず巨大な蘇生装置が佇んでいた。
変わった事と言えば、装置の側には大きな魔法陣が書かれていた。
装置は、お父さんが長い年月をかけて開発したと言う。
魔術師、科学者としても天才と呼ばれた者の集大成。
だが、これだけでは足りない様で、特別な術式が込められた魔法陣を描いた様だ。
「来たか、ワン。」
「お父さん、遂に始まるんですね。」
「ああ・・霧人を蘇らせるために必要な準備が全て整った。」
「おめでとうございます、お父さん。」
「まだ祝うのは早い。本当に祝う時は、その身体に根源から記憶が戻ってきた時だ。」
「きっと、上手くいきます。この蘇生装置は、天才であるお父さんが作ったのですから。」
お父さんの表情は、いつもより明るく見える。
無表情で冷たい感情が、今日は期待と興奮で柔らかくなっている。
「早速始めますか?」
「・・・。」
「お父さん?」
こちらを見つめて沈黙している。
こういう事は、たまにあったが未だに何を考えているのか分からない。
「ワン・・お前は・・。いや、何でもない。」
何かを言いたげそうではあったが止めた様だ。
「・・始めよう。装置に入ってくれ。」
「命令。分かりました。」
装置の扉を開ける。
僕が生まれた時と同じ状態のままだ。
ゆっくりと中に入る。
ひんやりとした冷たさが足元から身体全体に伝わる。
「ワン。これから、お前は眠りにつき霧人の記憶を取り戻す事になる。」
(・・はい、お父さん。)
「お前の記憶は霧人の記憶に塗り替わる・・怖いか?」
怖い?
分からない。
否定をするために首を横に振る。
「そうか・・では、別れの時だ。」
(ああ、もうそんな時間なのか。)
「・・さらばだ、息子よ。」
(待って、お父さん。)
徹は、装置起動のボタンを押す。
ワンの意識は遠のいていった。
お読みいただき、ありがとうございました!
果たして記憶は蘇るのか・・?
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