第5話 嫉妬なんて
昼休み、屋上に続く階段の途中。
人の気配のない踊り場に、未玲はひとり腰を下ろしていた。
風が抜けていく。外の空気が涼しいのか寒いのかもよくわからないまま、手に持った紙パックのストローを噛んだ。
(……なにやってんの、私)
図書室の光景が頭から離れない。
昨日も、今日も。あいつ――雪弥は、あの金髪の子と一緒にいた。
話してた。笑ってた。
しかも、あの子の隣では、やけに優しい顔をして。
「それ、思いっきり気にしてる顔だね」
突然、声がして未玲は肩を跳ねさせた。
「な、何よ、涼子」
「驚きすぎ。私が来るの、今日で何回目よ」
そう言いながら、未玲の隣に座り込むのは久我涼子。
キツめの目元に無造作な茶髪。文句を言いながらも、律儀に毎回ついてくる。
「で? 今日も図書室で“例のふたり”目撃したわけ?」
「……別に。見たくて見たわけじゃないし」
「ふーん。で、どうだったの?」
「どうって……別に」
未玲はそっけなく答えた。
でも、そのそっけなさに、涼子は敏感だ。
「……あんたさ、あいつに未練あるわけ?」
「はあ!? ないし!」
「ふーん。じゃあなんでそんなイライラしてんのよ」
ぐうの音も出なかった。
イライラしてる自覚はある。でも、それを「未練」なんて言われると、途端に認めたくなくなる。
「……あんな金髪の、ギャルみたいな子と一緒にいるとか、意外すぎて。正直、引いた」
「っていうか、あいつが誰かと付き合うのすら、想像してなかったって顔してるよね。昔からさ、未玲、あいつのことだけは“特別扱い”してたもんね?」
「ち、ちがうし……」
「違わないって。で、今それが崩れそうになってんでしょ? だから、動揺してる。嫉妬。これ、ジェラシーってやつ」
「うるさいな……涼子」
未玲は紙パックを強く握った。
「……でもさ、もし本当に“あの子”と付き合ってるなら――」
言いかけて、口をつぐんだ。
その続きを言ったら、きっと引き返せなくなる気がして。
「付き合ってないよ、まだ」
「……は?」
「図書室、私もちょっと覗いた。あいつ、あの子のこと“園宮さん”って呼んでたよ。敬語で」
そう言って、涼子は未玲の横顔をじっと見た。
「つまり、今はまだ“友達未満”。……よかったね?」
「べつに、“よかった”なんて思ってないし……!」
「顔が言ってる。すっごい“ほっとしてます”って」
「うっさい!!」
涼子に言い返しながらも、未玲はどこか安心していた。
自分でも、ほんとに面倒くさいと思う。
でも――もし、あいつがあの子に取られちゃったら。
そう思ったとき、胸がギュッと締め付けられた。
(……そんなの、絶対にイヤ)
自分の気持ちに、気づきたくない。
でも、気づかされてしまう。
未玲は無言でストローを噛んだ。風が吹き抜けた。