小さな一滴の冒険
ふわふわの雲から、私は生まれた。
身体中に涼しい風を受けながら、ぐんぐんと落ちていく。
「あはは、楽しい!」
周りが柔らかなミルク色からスカッとしたラムネ色に変わっていく。
スピードを出して進む鳥の群れが見える。
私は1羽の鳥の頭に着陸した。
「こんにちは、そんなに急いで、どこに行くの?」
鳥は答えた。
「旅をしているんだ。海を越えて、いろんなところに行きたいんだ!」
私は言った。
「それは素敵ね。気をつけて行ってね!」
私は鳥の頭をすべりおりて、再び空へと舞い戻った。
下を見ると、緑の畑が広がり、色とりどりの屋根がすき間を開けて可愛らしく座っていた。
「いいところね。さて、どこに行こうかしら。」
ふと、1輪の花が目に入った。その花はキラキラ輝くおひさま色で、青色の屋根のおうちのそばに一人で咲いていた。
「あそこにしましょう」
私は、花びらの上に降りて、元気にあいさつをした。
「こんにちは」
花は、目を開けると、優しくほほ笑んで、
「こんにちは、おじょうさん」
と言った。
私は尋ねた。
「どうして一人で咲いているの?」
花は少し考えてから答えた。
「まだ子どもだったころに、風に乗って、一人でここまで飛んできたんだよ。」
「寂しくなかった?」
「たしかに、兄弟とはなれて、はじめは心細かったよ。でも、ここに来る途中で、大きな森や、広い海、今まで見たことのないたくさんのきれいなものを見たんだ。わくわくして、それどころじゃなくなった。」
私は鳥の話を聞いて、胸がおどり出すのを感じた。海! たしかさっきの鳥も言っていた。どんなところだろう?
花は続けて言った。
「もうすぐ、私も自分の子どもたちを送り出すんだ。その子たちがどんな冒険をするのか、楽しみだな。」
私はにっこりとした。
「それなら、たくさん栄養をとって、元気に子どもたちを送り出さないとね!」
そして、私は花の葉っぱをすべりおりて、ぽちゃんっと地面に吸い込まれていった。
次に生まれ変わったら、もっと長い旅に出かけて、海を見れたらいいな、と思いながら。