09.潜入②
前作:『ジョーカー・ザ・ネクロマンス ―死者の蠢く街と、双翼の機士―』は
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メディエットが冷静に男の脈を確かめ、立ち上がる頃、廃屋の奥から低く響く声が届いた。
「バンプ、何ごとだ?」
その声は廃墟の奥深くから響き渡り、空気を震わせていた。
微かな足音が近づいてくる。
二人だ。
静まり返った空間に、その足音だけが規則的に響いていた。
メディエットは倒れた大男、バンプに一瞥をくれると、すぐにその声の主へと意識を集中させた。
薄暗い光が差し込む中、廃屋の隙間から二つの影が現れ始める。
先頭に立つのは小柄な男、その背後には黒いコートを纏った男が続いていた。
小柄な男は倒れ伏すバンプの姿を見つけ、驚愕に目を見開いていた。
「バ、バンプ……!」
声が震え、恐怖がその表情に色濃く浮かぶ。
男は足を止め、どうするべきか戸惑っているようだった。
その背後で、黒いコートの男が静かに現れる。
長いコートが風に揺れ、陰鬱な雰囲気を纏っている。
彼はバンプの無残な姿を一瞥し、表情一つ変えずにメディエットを見据えていた。
「バンプの野郎、油断しやがって……。おいッ!! スニークぼさっとしてるんじゃあないッ!! あの小娘をさっさと仕留めろ!!」
「ボス、ですがあいつ、魔鉱機士って名乗っていたじゃないですか!! それが本当なら、俺たちがいくら束になったって勝てっこない……。あいつら一人で街一つ壊滅させるだけの超常の力をもっているって……。もっぱらな噂ですぜ……。」
「バカ野郎、あんなのハッタリに決まっているだろうが。バンプが五体満足に倒れているのがその証拠だ。マジェスフィアを使ったっていうならこうはならないぜ。追ってきたのが小娘と知って不意打ちをくらったのが関の山だ」
「仮に、仮にですぜ……。ボス。あの小娘が本当に魔鉱機士だったなら――」
黒いコートを纏った男は、鬼気迫る表情でスニークを睨みつけ、その言葉を容赦なく遮った。
「それなら、なおのこと、ここで始末するべきだ。俺たちの計画の邪魔をする奴等には全員消えてもらう。さっさと仕留めて来い、スニークッ!!」
冷酷な命令が下された瞬間、スニークは腰に差していたナイフを一閃で抜き放った。
冷たい刃が闇を裂き、銀色の閃光と共にメディエットへと一直線に迫る。
刃先はメディエットの喉元を正確に狙い、光を反射しながら鋭く突き出された。
しかし、メディエットは微動だにしなかった。
その瞳は深い静寂を湛え、相手の動きを完全に見切っている。
スニークの動きがどれほど迅速であろうと、メディエットには通じない。
瞬時に体を軽くひねり、紙一重の差で凶刃をかわすと、スニークの放った刃は空を切り、バランスを崩して前のめりになった。
その一瞬の隙を、メディエットは逃さなかった。
メディエットは素早く足を伸ばし、スニークの脚を巧みに引っ掛けると、そのまま力強く蹴り上げた。
その衝撃でスニークの体は宙へと放り投げられ、無防備な姿勢のまま空中を舞う。
すかさず、メディエットの追撃の蹴りが稲妻のように彼の胸元へと放たれた。
鋭い一撃がスニークを直撃し、彼の小柄な体は重い音を立てながら遠くへと吹き飛ばされていった。
「ぐあっ……!」
スニークは暗闇の中へ姿を消し、廃屋の奥深くへと勢いよく叩きつけられた。
遠くから、激しい衝突音が朽ち果てた建物に響き渡り、崩れた瓦礫が土埃とともに無情に散らばる。
その騒音も次第に静寂に呑まれ、やがてスニークの気配は完全に消え去った。
「これで私の力量が分かったと思うが、一応聞いておこうか。 次はキサマの番か?」
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