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08.潜入①

前作:『ジョーカー・ザ・ネクロマンス ―死者の蠢く街と、双翼の機士―』は

こちら→https://ncode.syosetu.com/n6754ij/

メディエットは、仄暗い日差しが差し込む倉庫街の路地を、音もなく進んでいた。

昼間にもかかわらず、ここにはまるで時間が止まったかのような静寂が漂っている。

先ほどまで視界の中に捉えていた三人組の姿が消え、湿った石畳に残された三つの足跡だけが彼女の手がかりだ。


やがて彼女の前に、古びた廃墟が姿を現した。

過去の栄華をかすかに残す石造りの建物は、ひび割れと苔に覆われているが、重厚な鉄扉だけは異様なほど鈍く輝いていた。


扉の向こうに足跡が続いているのを確認すると、メディエットは一瞬、立ち止まる。

冷たく張り詰めた空気を深く吸い込み、アレックスとリリーの無事を祈るように吐き出した。


「……待っていろ、二人とも」


そう呟くと、メディエットは迷いなく一歩前に進み、重厚な鉄扉を思い切り蹴り飛ばした。

鉄扉はその衝撃で大きく歪み、本来とは逆の方向へと開かれた。

鈍い金属音が廃墟全体に響き渡り、静寂を打ち破る。

メディエットはそのまま一切の躊躇も見せず、力強く内部へと足を踏み入れた。


薄暗い内部は外の明るさとは対照的に、冷たく重苦しい空気が漂っている。

メディエットの足音が固い床に響き、静寂の中に緊張感を刻み込む。

メディエットにとって、この隠れ家に潜む者たちが気づこうが、もはや問題ではなかった。

魔鉱機士としての自負と、圧倒的な力への自信が、彼女を前へと突き動かしていたのだ。


「私は魔鉱機士だ。この建物の責任者はすぐに顔を出すこと。不穏なことを考えれば即座に死を招く。それだけは忘れるなよ」


メディエットが冷徹な声で虚勢を吐くと、鋭い眼差しを仄暗い部屋の奥へと向けた。

その視線の先、ランプの淡い明かりに照らされ、大きな影がゆっくりと浮かび上がる。

不穏な気配を察知したのだろう、巨漢の大男は険しい表情を浮かべながら、メディエットを睨み返していた。


逞しい体格と特徴的な顔立ち――。


メディエットは大男に見覚えがあった。

先ほど屋根の上から目撃した三人組の一人、麻袋を担ぎ倉庫街へと消えた男に違いない。

彼女の中で確信が静かに芽生え始める。


「魔鉱機士だと。キサマのような華奢な小娘がバカバカしい。オレは知っているぞ。アームレスリングで俺の顔に初めて泥を付けた男。轟雷のトール。この街の魔鉱機士はたしか奴だ」


大男は獣のような威圧感を放ちながら低い声で問いかける。


「そいつは先日死んだ。勤務中の事故でな。私は奴の後任だ」


「へっ、奴の代わりがこんな小娘とはな。機士協会の人材不足も甚だしいってわけだ」


「あまり見た目で人を判断しない方がいい。こう見えても私はトールに勝ったことがある」


「トールに勝っただと? おまえがか? だったら、お前を倒せば俺がこの街最強ということになるな――ッ!!」


大男はその言葉を放つや否や、巨体にもかかわらず驚くべき速度で間合いを詰めてきた。

そして放たれる拳。

その拳は岩をも砕く勢いで、一直線にメディエットの顔面を狙って繰り出される。


「……やれ、やれだ」


内心わずかな後悔を抱きつつも、メディエットは冷静さを失わない。

彼女は一瞬の判断で身体を反らし、大男の拳を紙一重でかわしたのだ。

拳風が頬をかすめ、背後の壁に激突する。


――ドゴンッ!!


壁は大きくひび割れ、粉塵が舞い上がる。

しかし、男はそれに気を留めることなく、連続して拳を繰り出してきた。

力任せの攻撃だが、その一撃一撃が致命的な破壊力を持っている。


「どうした、小娘! 逃げ回るだけかッ!!」


嘲笑を浮かべる男。

しかし、メディエットは無駄な動きを一切みせず、最小限の動作で男の攻撃をいなしていく。

その姿はまるで風のように軽やかで、相手の力を完全に制御していた。


「なるほど、力だけは一流か、だが当てられないのなら無意味だ」


メディエットの嫌味にも似た言葉、その言葉に大男の表情が怒りで歪んだ。


「黙れ! 小娘、逃げてばかりのキサマも同じだろうがッ!!」


再び全力の拳が振り下ろされる。

その瞬間、メディエットは鋭い眼差しで男の動きを見極め、一気に懐へと飛び込んだ。


「がら空きだッ――!!」


――ドンッ!!


鈍い音を立てて、メディエットの拳が男の腹部に深々と突き刺さる。


挿絵(By みてみん)


その衝撃音は凄まじく、大男の身体が若干宙に浮きあがり激しく「く」の字に折れ曲がった。


「ぐはっ……!」


息が詰まったように呻き声を漏らし、男の表情は苦悶に歪む。

呼吸すらできず、膝が震え、足元が不安定になる男。

その巨体が崩れ落ちそうになるその刹那、メディエットは一切の躊躇も見せずに追撃を開始する。



メディエットの体が一瞬で男の背後へと滑り込む。

そして素早い動きで腕を伸ばし、鋼のようなしなやかさで無慈悲に男の首元に絡みついた。

全身の筋肉を硬直させ、メディエットの細い腕が次第に男の首を締め上げていく。

それはまるで鋼鉄の蛇が首に巻きつき、逃れられない罠にかけたような冷徹な締め技だった。


巨体を持つ男が徐々に力を失っていく。

男の目は次第に恐怖に染まり、必死に腕を振り回し、どうにかメディエットの締め付けを解こうとするが、メディエットの腕は微動だにしない。

メディエットの腕に込められた力は、男の怪力すらも完全に封じ込めるほどの強さだったのだ。


「くそっ……こ、こんな、こむ……、に……。」


男は絞り出すように声を漏らしたが、黒い瞳は次第にその輝きを失い、白く濁っていく。

そしてついに、男の抵抗の力は完全に失われ、重力に従うようにゆっくりと床へ沈んでいった。


メディエットは倒れ込んだ男を静かに横たえ、そのまま首元に手を当て、脈を確かめる。

まだ微かに脈が打っていることを確認すると、短く息を吐き出した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも内容が面白かった、続きが気になると感じていただけましたら、ブックマークや、画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えていただければと思います。


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どんな小さな応援も感謝します、頂いた分だけ作品で返せるように引き続き努力していきます。


これからもよろしくお願いします。

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