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07.三人組

前作:『ジョーカー・ザ・ネクロマンス ―死者の蠢く街と、双翼の機士―』は

こちら→https://ncode.syosetu.com/n6754ij/

三人組は、静まり返った倉庫街を通り、廃墟のような隠れ家へと向かっていた。

陰鬱な雰囲気が漂うこの場所は、人目に付かない安全な隠れ家だ。

錆びついた鉄扉が重々しく開き、中に入ると、彼らは麻袋を二つ、乱暴に床へと放り投げた。

中にはアレックスとリリーが入っており、二人は意識を失ったまま閉じ込められている。


「スニーク、そいつらを椅子に縛りつけて監禁しとけ。俺は少し考え事がある」

ケニーは淡々と命じる。


「わかりましたぜ、ボス」


スニークはニヤリと笑い、手慣れた様子で麻袋を解き始めた。


「ボス、俺は何をすればいいんだ?」

「バンプ、お前は入口を見張っていろ。俺たちの商いは場当たり的だった。俺の運が俺を裏切るとは思っていないが、不測の事態はなるべく避けたいからな」



ケニーは部下たちにそう告げると、奥の薄暗い部屋へと姿を消した。

部屋の隅に置かれた古びた椅子に腰を下ろすと、いつものように光り輝く金貨を黒ずんだコートのポケットから取り出し、指先で弄びながらその輝きを見つめる。

ケニーの瞳には、金貨の光が不気味に映り込んでいた。


「……金貨。お前さへいれば、俺はどんな幸運だって掴めるはずさ」


ぼそりと呟き、金貨を親指で弾いて宙に舞わせる。

くるくると回転しながら手元に戻るその瞬間、ケニーの心は過去へと遡っていく。



ケニー・ゴールドバーグ。

彼はかつて、何も持たず、誰からも見向きもされない弱者だった。

スラムの闇に埋もれ、食うや食わずの日々を過ごしていた。

強者たちに虐げられ、蹂躙され、希望など微塵も感じられないまま、生きているのか死んでいるのかもわからない生活を続ける日々。


冷たい雨が降りしきる夜、ケニーは荒廃した路地をさまよっていた。

身体は凍え、飢えは限界に達している。

死神がその手を伸ばし、彼の魂を奪おうとしているかのように感じられた。

目に映るのは薄汚れた壁と、足元に広がる水たまりだけ。

生きる意味を見失い、ただ足を前に進めることしかできなかった。


その時、暗黒の空から一筋の光が差し込んだのだ。

朽ちた屋根から落ちてきたそれは、一枚の金貨。

泥にまみれた路地に、不釣り合いなほど眩い輝きを放っていた。

その金貨はまるで、運命が彼に差し出した救いの手のように思えた。


ケニーは半信半疑でその金貨を拾い上げる。

冷たい金属の感触と金特有の重さが指先から全身へと伝わり、心臓の高鳴りを感じずにはいられなかった。

絶望の淵に立つ彼の心に、小さな火が灯ったのだ。

そして、運命の歯車が、静かにしかし確実に動き始める。


意を決して、ケニーは街のギャングが開催する危険な賭場へと足を運んだ。

イカサマが横行し、命すらも賭けの対象となる地下の世界。

そこは弱者が足を踏み入れるべき場所ではなかったが、ケニーは迷わなかった。


最初の勝負で、勝利を収めると、次の勝負でも、その次も自然と勝ちを拾った。

まるで目に見えない異様な力がケニーに味方しているかのように、勝利の女神は微笑み続けたのだ。

奇跡とも言える連勝が彼を包み込み、見る間に大金を手にしていく。

周囲の視線が変わり始め、嫉妬と疑念がケニーを取り巻く。


そして、ギャングたちがケニーを危険視し、密かに始末しようと画策しようとし始めた時、ケニーの運命はさらに狂気じみた展開を見せた。


その夜、ケニーの連勝で賭場が最高の賑わいを見せた最中、突如として敵対組織の襲撃が始まったのだ。

銃声と悲鳴が交錯し、血と煙が辺りを覆う混乱の中、ケニーは冷静さを保ち、一瞬の隙を突いて大金を掴み逃走する。

ケニーは死神の手をすり抜け、生還を果たしたのだ。


それ以来、彼の人生は激変した。

常に金貨は彼の手元にあり、その輝きは彼に無限の幸運をもたらす。

やがてケニーは、裏社会で確実にその名を広げていく。

弱者であった男は力と影響力を手に入れ、自らの組織を築き上げるまでに至った。


――この金貨を手に入れて1年になるか。



ケニーは過去の記憶に浸りながら、指先で弄ぶ金貨の輝きに見入っていた。


そんな時だった。

ケニーの休む個室の扉が激しく開け放たれたのだ。

すぐさまケニーは顔を上げ、扉を開けた主の顔を鋭い眼差しで睨むと、そこには血の気を失い青ざめた顔のスニークが立っていた。


普段なら軽口を叩き、いつも冷静さを見せるスニーク、だが今は、その表情さえも硬直している。

その異様な様子に、ケニーの胸には不快な予感が広がった。


「何の用だ、スニーク? ――いったい何があったんだ!?」


スニークは唇を震わせ、恐る恐る言葉を絞り出す。


「ボ、ボス……。まずいことになりました。俺たちが誘拐したあのガキ、あれは……。街の市長、アレックス・ジェスターハイドじゃないですか……」


その言葉を聞いた瞬間、ケニーの表情は一瞬硬直した。

だが、すぐに口元に不敵な笑みが浮かび、低く抑えた笑い声が次第に大きくなっていく。

彼の瞳には狂気とも取れる光が宿り、しまいには腹の底から笑いが込み上げていた。


「クックックッ、ハッハッハッハッハッ!」


ケニーの笑い声が室内にこだまする。


「市長だと? こいつはとんだ大物を捕まえたもんだなぁ。それで一体誰に大金を吹っかけてやろうか、ん?」


しかし、スニークは焦燥の色を隠せず、慌てた様子でケニーの言葉を遮った。


「ボス、そんな悠長なこと言ってる場合じゃありませんぜ!! 大金の問題じゃない……。それこそ、あのガキが言っていたように、街全体を敵に回すことになりますって!!」


ケニーは軽く鼻を鳴らし、肩をすくめて冷淡に答える。


「街全体だって? それは表の話だ、スニーク。これはな、お前が思っている以上に俺に向いた幸運なんだ」

「幸運……?」


スニークは困惑した表情を浮かべ、ケニーの言葉を待つと、ケニーは再び金貨を弄びながら、目を細めて言葉を続けた。


「わからないのか? この街の裏社会で生きてる連中は、魔鉱機士を優遇する市長を快く思っちゃいない。市長の首を狙ってた奴らも、魔鉱機士の護衛がいるせいで手が出せなかったが……。見てみろ、今やあの市長は、俺のアジトの床で寝そべってるんだぜ」


ケニーはゆっくりと立ち上がり、親指で金貨を空中にはじいた。


「こんな状況を幸運と言わずして何と言う? 俺たちの前に、大金が転がり込んだも同然だろうが」


そして、宙を舞う金貨をガシリと掴み取ると、ケニーは不敵な笑みを浮かべながら続けた。


「交渉先は俺に任せろ。ひとつ宛があるぜ」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも内容が面白かった、続きが気になると感じていただけましたら、ブックマークや、画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えていただければと思います。


ブックマークや星の評価は本当に励みになります!


どんな小さな応援も感謝します、頂いた分だけ作品で返せるように引き続き努力していきます。


これからもよろしくお願いします。

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