02. ケニー・ゴールドバーグ
前作:『ジョーカー・ザ・ネクロマンス ―死者の蠢く街と、双翼の機士―』は
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薄暗い路地裏を、ひそやかな風が通り抜ける。
古びた石畳の上に腰を下ろした男が、金色に輝く金貨を指先で軽やかに弾いた。
宙薄暗い路地裏を、ひそやかな風が通り抜ける。古びた石畳の上に腰を下ろした男が、金色に輝くコイン
薄暗い路地裏を、ひそやかな風が通り抜ける。
古びた石畳の上に腰を下ろした男が、金色に輝くコインを指先で軽やかに弾いた。
宙を舞うそれは、まるで生きているかのように輝き、男の手の中へ戻ってくる。
その繰り返される動作に無駄はなく、熟練の手品師が演じるかのような鮮やかさだった。
男の名はケニー。
短めの黒髪に浅黒い肌を持ち、灰色の瞳で周囲を鋭く見据える引き締まった体つきの青年だ。
額には抗争の傷跡が残り、黒い長めのコートの裾は埃と修繕跡だらけで、荒々しい生き様を物語っている。
そして、ケニーは微かに小さく呟く。
「幸運が俺に微笑んでる限り、この世の中で、俺に敵うものなんていないのさ……」
自分に言い聞かせるようなその声には、ただの自信を超えた、何か異質な信念のようなものが込められていた。
彼の手の中で輝く金色のコインそれは単なる道具ではない。
彼にとって運命そのものを象徴する存在だったのだ。
ケニーがこの金貨を拾ったのは、数年前のこと。
街の片隅で偶然見つけた瞬間、まるで何かに導かれるように、彼の人生は劇的に変わり始めた。
どんな危険な仕事もことごとく成功し、死線をも軽々と超え続けてきた。
以来、この金貨は彼にとって全てとなった。
金貨があれば、自分は無敵、長い年月の中で築き上げたその揺るぎない信念が、今や彼の存在を支配していた。
「ボス、その金貨って……。本当に特別な力があるんですか?」
隣に立っていた小柄な男、スニークが、不安げに声をかける。
ケニーは金貨を弄びながら、ちらりと視線を向けた。
薄暗い路地裏の明かりに照らされ、その瞳には確固たる自信が浮かび上がる。
「お前、まだ信じないのか?」
スニークを一瞥し、ケニーは口元に微笑を浮かべた。
「この金貨が、俺をここまで導いてくれたんだ。どれだけの窮地を抜けてきたか……。すべてはこの金貨のおかげだ。俺の運命は、まさにこの手のひらの上で踊る金貨のようにツキ(運)に満ちている」
スニークは一瞬視線を伏せ、困ったように肩を落とす。
「まぁ、ボスがそう言うなら信じますけどね……。でも最近、ちょっとそのツキ(運)ってやつが落ちてる気がしませんか? あの大物たちからの要求もどんどん厳しくなってくるし……」
その言葉に、ケニーは金貨を弾きながらわずかに鼻で笑った。
「ツキが落ちてる? いや、むしろこれこそがツキの流れってやつさ。俺たちがもっと上に行くためのな。どんな大物だろうと関係なんいんだよスニーク。大金を積み上げりゃ、黙る連中さ」
そう言い放ったケニーの背後から、重々しい足音が近づく。
大柄な男が、腹の底から響くような笑い声と共に、二人の会話に加わった。
「ボスがいる限り、オイラたちは無敵だろ!! 今までだってそうだったじゃないか!!」
ケニーは振り返りながら、笑みを深めた。
「おう、バンプ。遅かったじゃないか。……って、その樽一杯のチキンは、またアームレスリングで一儲けしてきたんだろ?」
バンプは照れくさそうに頭を掻きながら、ニヤリと笑う。
「ご覧の通りですぜ、ボス。この街で力比べをすれば、このバンプ様にかなう奴はいませんからね」
スニークは呆れたようにため息をつく。
「相変わらず食い意地張ってんな。稼いだ金を全部チキンに使ってりゃ世話ないぜ。そんな調子で、この先どうやって大金を手に入れるつもりだよッ!!」
バンプは少し不満げに口を尖らせた。
「そんなの、いつだって、ボスが何とかしてくれるだろ? オイラたちはボスの指示に従えばいいんだ」
バンプの他力本願な態度にケニーは再びコインを弾きながら、遠くを見つめた。
「その通りだ、バンプ。俺たちには俺たちなりのやり方がある。大物どもが何を要求してこようが、この金貨が幸運とその道を示してくれるさ」
「でもボス、実際のところ、あいつらが要求してる額は半端じゃない。今のまま盗みをしてたって到底用意できないですよ」
ケニーは一瞬考え込むように視線を落とし、そして静かに口を開いた。
「スニーク、お前はいつも慎重だな。だが、その慎重さも必要だ……。だがな、時には大胆にいかねぇと、この世界でのし上がることはできないぜ。安心しろ、俺は新しい手を考えている。あいつらも黙らせられる、もっと強力な手をな」
スニークは不安げに眉をひそめながら、ケニーの言葉を飲み込むしかなかった。
ケニーの手の中で、金貨は再び淡い輝きを放ち、彼の行く先を照らしているかのように宙を舞い続けていた。
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