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01. 午後と紅茶

前作:『ジョーカー・ザ・ネクロマンス ―死者の蠢く街と、双翼の機士―』は

こちら→https://ncode.syosetu.com/n6754ij/

ファントムウッズの奥深く、外界の喧騒から切り離された静寂の中に佇むアレックスの公邸。その広大な庭園には四季折々の花々が咲き誇り、風が吹くたびに甘く優雅な香りが漂ってくる。

公邸の内部もまた、洗練された品のある装飾で整えられており、住まう主の性格を映し出しているようだった。


その日、アレックスは執務室の深いグリーンのベルベット張りの椅子に腰掛け、広げた新聞をじっと見つめていた。


短めの黒髪を軽く撫で、整った顔立ちをさらに引き締めるように、鋭い茶色の瞳で記事を睨みつける。

どこか年齢以上に大人びた雰囲気を漂わせていた少年。


胸元には、トレードマークとも言える純金製の猫のブローチが輝き、その可愛らしいブローチは、子どもらしからぬ紳士的な服装には少々似つかわしくなく、かえって彼の幼さを際立たせていた。


新聞の見出しには「魔鉱機士トール死す――街の治安、急速に悪化」と書かれており、トールがこの街を去ったことによって発生した混乱が大きく取り上げられているようだ。

そして、その混乱を煽るようにして現れたギャングたち。

特に『ケニー・ゴールドバーグ』という男は、『ラッキー・ケニー』という異名と共に顔写真付きで一層大きく掲載されていた。


「こいつ。……ケニー・ゴールドバーグ」


アレックスは小さく呟き、眉をひそめた。

最近、街の犯罪率が急上昇しているのは、トールがいなくなったことも一因だが、このケニー・ゴールドバーグという男の存在が大きい。

彼は街のいたるところで無軌道に暴れ回り、恐喝や強盗、賭博場の荒らしと、金に絡むことなら手段を選ばず何でもやる悪名高いギャングのボスだ。

その動きは狡猾で、警察の追及をかわし、逮捕を免れてきた。

感覚が鋭く、誰もその足取りを掴めない。

アレックスは眉間に深いシワを寄せ、再びその名前を心の中で反芻する。


そんな時だった、アレックスは自身を呼ぶ声に、顔を上げた。


「旦那さま、紅茶をどうぞ」


リリーの柔らかい声が耳元で響く。

彼女は真っ白なエプロンドレスに身を包み、テーブルの上に紅茶をそっと置くと、アレックスに優しく微笑みかけた。


「ありがとう、リリー。いつも助かるよ」


アレックスは礼を述べると、リリーの淹れた紅茶に口をつける。

だが、その味わいを楽しむ余裕もなく、再び新聞へと視線を戻した。


「トールさんがいなくなってから、ギャングたちは我が物顔で好き放題だ。彼がいた頃は、皆が彼を恐れて大人しくしていたというのに……」


「トールさんは本当に強かったですからね……。でも、今はもういらっしゃらないですし……」


リリーは少し気まずそうに視線を落とし、俯くようにして答えた。


トールは護送任務の最中、信頼していた警官に裏切られた。

警官は死者を操る力を用いて、トールを油断させたうえで奇襲を仕掛け、致命傷を与えたのだった。

幸い、代わりとして赴任した魔鉱機士メディエットの力を借り、裏切りの警官を捕まえることはできたのだが、その傷跡は未だ癒えてはいなかったのだ。


アレックスは深いため息をつき、新聞をゆっくりと畳んだ。

その表情はどこか憂いを帯びている。


「彼がいなくなってから、街はどんどん無法者どもが増えていくばかりだ。メディエットに期待しているけど、彼女も来たばかりだし、トールさんほどの抑止力になるとは思えない……」


その時、廊下の奥から響く重い足音が次第に近づいてくる。

その音はまるで自らの存在を誇示するかのように、ズカズカと執務室内部にまで響き渡った。

リリーがハッと顔を上げた直後、扉は勢いよく開け放たれ、風が室内に吹き込むと、机の上の書類がわずかに舞い上がった。


そこに現れたのは、堂々とした態度を崩さないメディエットだった。

短く切り揃えた金髪を両サイドで結い上げ、青い瞳が落ち着いた光を放ちながら周囲を見渡す。

制服として身にまとった上着は、黒と青を基調としたデザインで、肩には階級を示すエンブレムが付けられていた。

その腰には、愛用の双剣『ダブルダウン』が収められたホルスターがしっかりと装着され、鈍い光を反射して彼女の存在感を一層際立たせている。


「メディエットさん!!」


リリーが笑顔でそう呼びかけると、アレックスは眉をひそめ、新聞を静かにテーブルに置いた。

挿絵(By みてみん)

「相変わらず、ノックの一つもなしに入ってくるんだな。無礼者め……」


「あっ、すまん、すまんアレックス。つい癖でな」


メディエットは軽く肩をすくめると、無邪気な笑みを浮かべた。

その言葉に、アレックスは少し呆れたように息をつくと、彼女に向かい問いかけた。


「で、メディエット。今日は何の用だい? いつもならこんな時間に顔を出すことはないだろう」


「街のパトロールをしていたんだがな。暇を持て余していてな。丁度近くに来たところだし、ついでに遊びに来たんだ」


その無頓着な言葉に、アレックスは唇をわずかに引き結び、内心で小さく苛立ちを覚えた。

ギャングたちが好き放題しているこの状況で、彼女の無防備な態度は目に余る。

だが、そんなアレックスの様子を見かねたリリーが、すぐさま間に入るように声をかけた。


「丁度良かったです、メディエットさん。オズワルドさんの雑貨店に茶菓子の材料を取りに行きませんか?」


その提案に、メディエットは驚いたようにアレックスを見やり、続けてリリーに視線を戻した。


「どうしてまた、急にそんなことを?」


リリーは微笑みながらすぐに答える。


「最近、街の治安が悪くなっているじゃないですか。私と旦那さま二人じゃ、少し心もとないですし……。だから、力の強いメディエットさんが一緒にいてくださると安心だと思いまして」


リリーの真っ直ぐな言葉に、メディエットはほんの一瞬驚いたように目を見開いた。

だが、すぐにいつもの笑みを取り戻し、アレックスに向かってニヤリと笑いかけた。


「おい、アレックス。行くぞ」


「えっ、なんでボクも?」


メディエットは肩をすくめ、からかうような声で答える。


「違うのか? リリーが“子供二人じゃ心もとない”って言ってただろ?」


アレックスはその言葉に一瞬反論しようとしたが、リリーの言葉を思い出し、何も言えなくなると、

ため息をつきながらも仕方なく立ち上がった。


「まったく……。仕方ないな、行くよ」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも内容が面白かった、続きが気になると感じていただけましたら、ブックマークや、画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えていただければと思います。


ブックマークや星の評価は本当に励みになります!


どんな小さな応援も感謝します、頂いた分だけ作品で返せるように引き続き努力していきます。


これからもよろしくお願いします。

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